ミノタウロスと聖なる指輪


 「おお! お待ちしておりましたぞ転生者様!」


 タカハシたちが貴賓室の中へ向かうとそこには不気味な仮面を被った男が歓迎する。


 ピエロのような派手な服装に不気味な顔をした仮面。その姿はまるで一介の道化師のようにも見える。


 しかしこんな容姿をしていても彼は聖職者であり、理解しがたいが熱心な信仰心を持つ教徒者も何人もおり、帝都での立場も転生者であるタカハシたちよりも上の立場を得ている。


 「それで何の用っすか……こっちは疲れてるんでゆっくり休みたいんすけど」


 「それはそれは忙しいところお呼びしてしまったようで申し訳ございません。ですが! 今回は緊急事態なればお二方に協力をと思い急ぎこちらへ向かって来たのでこざいます」


 わざとらしいほどに丁寧な口調。しかし実際にタカハシたちは一度悪魔二人に負けている。


 クレイドの話ではその悪魔のうち一人はスキルを一時的とはいえ無効化させる能力も持っているらしい。


 そういう意味では聖職者の力も欲しいというところはあった。


 「力を貸すか……具体的にはどのような事をしてくれると?」


 「まずは兵を百体ほど用意します。もちろん只の兵などではございません。彼らは元は悪魔の手下……言わば魔族の死体を再利用した物です。見た目は少し悪どいですが貴重な戦力となるでしょう」


 「へぇ……敵軍の死体を再利用なんてなかなかやるじゃん。リサイクルって奴? そういうの嫌いじゃないっすよ、それで悪どい見た目ってどんな格好してるわけ?」


 「そうですね。百聞は一見にしかずとも言いますし直接見て頂きましょうか」


 聖職者は嬉々とした態度で指をパチンと鳴らす。すると暗闇の中からすぅーと一人の化け物が姿を現した。


 身体こそは人間のものと大差ない。多少筋肉がついてゴツゴツとした部分はあるが、それも人間だと考えられる範疇だ。


 問題はその頭。目の前に現れた化け物は本来あるはずの人間の頭が無くその代わりに牛の頭が付けられていた。


 「この化け物は……」


 「ミノタウロスというものでございます。といってもこちらは模造品、本物は存在しませんが……」


 「つまりは伝承の化け物を死体を使って作ったということか……悪趣味だな」


 「おや? お気に召しませんでしたかな。所詮奴等は悪魔どもでございます。残虐な輩には残虐な行為を持って反撃しなければなりませんぞよ?」


 「なに、俺は任務を遂行するだけだ。帝都側がそれを戦力として使えというなら大人しく使わせてもらうさ」


 聖職者が作り出した虚像の化け物。それを人間側が使うことにクレイドは思うところはあるが、それはそれ割り切って戦力として投入することに賛成する。


 「では戦力としてミノタウロス兵を百体投入しましょう。それとお二方にはこのリングをお譲りします」


 仮面の男が渡したのは二つの指輪。宝石の部分は鈍く輝いており、その指輪からは膨大な魔力が発せられている。


 この指輪が只の指輪でないということは二人からみても明らかだった。


 「なんすか……これ」


 「これは私どもが作った聖なる指輪でございます。これさえあればどんな魔物が現れようと戦闘に勝利できるとお約束しましょう」


 「そんなに簡単に勝てるとは思えんがね。それでこの指輪を付ければどんな効果がある?」


 「私が作ったこの指輪は強化の指輪でございます。この指輪を付ければ魔力で強化されたあなた方の身体が更に俊敏に動くことでしょう!」


 「分かった。ありがたく頂こう」


 相手にはスキルを封じる悪魔もいる。となればスキルを使わずに戦う接近戦も考慮しなければならない。


 そういう意味では単純な身体能力強化とはいえ、聖職者から貰ったリングはまさに欲しているものだった。


 「これで話は終わりか?」


 「ええ! 私は戦えぬ身でありますからな。お二人の検討を祈っております」


 聖職者の言葉に転生者たちは頷くと踵を返し、部屋を出ていく。


 後に残ったのはニマニマとした仮面をつけた一人の聖職者だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る