オレのスカート
れなれな(水木レナ)
第1話藤原センセは喧嘩が弱い
剛腕を振りかぶって角刈りが突っ込んできた。
眼鏡のセンセはちゃちゃっとかわすふりをして、さらに彼を誘導。角刈り頭の拳はこちらの眼鏡を弾き飛ばしつつ池のはたで岩にぶつかった。
「喧嘩は弱いが戦略ごっこは得意な性質で、ね……」
「……!」
声にならない悲鳴が聞こえてきそうだ。苦悶の表情と荒れた呼吸以外、音にすらなってないんだから、聞こえるはずもないが。
「このへん、コンクリがはげてっからなあ」
なんのことはない。角刈りが一方的に突っ込んできてけつまづいたのだ。
「……い、いてえ! 暴力教師――!」
角刈りは打ちつけた拳を庇って、ぶるぶると震えている。
「オレは自衛しただけだ。勝手に転んだのはおまえ」
そういう彼の背後には真っ白な太陽の光がまばゆく輝いていた。角刈りは眩しそうに目をしばたく。
「ちくしょー」
「謝れば今なら反省文で勘弁してやる」
「ほ……本当だな!」
ニヤリと獰悪に笑む国語教師。少年漫画の主人公がそのまま大人になったような先生。
だが学校内で教員は生徒にとってはカースト一位だ。その上になにがあるか、副校長? 校長? どうなっているのか全くわからない世界のことである。
「すんませんっした!」
「もーいーよ……あいてて」
朝の保健室。消毒液の匂いの中、湯飲み茶わんに湯気が立つ。
「もう、どうして喧嘩を止めに行って殴り合いになるんですか」
「血の気が多いんだろ。年寄りをいたわれよなあ、あいつ……名前は、同じ藤原か。オレが反省文書いてるみたいじゃねえか」
ひびの入った眼鏡を惜しそうにいじっている。
「あら、藤原先生まだ二十九でしょ」
「そうですよ。十代のお子様から見たらじじいですよ。実際高校生のとき、オレもそう思ってましたもん」
「あら、じゃあ私、おばあちゃんだわ」
「保健室のエンジェルは年をとらないんじゃなかったかな」
悪い目つきをそのままに、とぼけたようにうそぶく。
「まあ」
「お茶、もう一杯もらっていいですか」
こころなしか動きがぎくしゃくとして、頬が赤らんでいる。
「どうぞ、ティーバッグがそこの棚の引き出しに入ってますわ」
「……自分で淹れるのか」
「もう喧嘩しないでくださいね」
「事としだいによります」
「もう……頑固ですねえ。その腕力じゃ今の子に勝てませんよ」
くすくすと笑う保健医。子供に勝てないと言われようと、彼女は美人なので藤原は気にならない。実際、授業以外の桜田高等学校で藤原とまともな会話が成り立つのは、温厚な彼女ならでは。
「ちゃんと病院へ行って看てもらってくださいね」
(医者か。いつぶりだろう。何割負担だったか……忘れたぜ)
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