飛んで!ヒーロー!

じょりー

第1話 天才博士の作戦はEEPDBDSSM

ロケット発射41分前。



オレはパイロット専用控え室でモニターを見ている。モニターにはハゲ頭の博士が映っている。確か…宮なんとかという名前の天才物理学者だ。


一斉にフラッシュが焚かれ、博士が自慢げに計画を説明し始めた。


「お集まりのみなさん、本日は歴史的な日にお立ち会いくださりありがとうございます。天才物理学者の鈴宮すずみやです。まずはこの計画の名称を確認しておきましょう!」


博士の後ろのボードがめくられ、でかでかと文字が映し出された。


「地球消滅可能性危険ブラックホール破壊鈴宮ミサイル作戦!アースエクスティンクションポッシビリティデンジャラスブラックホールデストロイスズミヤミサイルミッション!略してEEPDBDSSM!!!」


長い。

略さない方がまだ伝わったと思うが。


「え、と…博士?」

記者のひとりが手をあげた。室内に集まった100人近い報道陣が一斉にカメラを向ける。


「その…宮なんとかミサイル作戦?ですが、いったい誰がパイロットを務めるのでしょうか」


「良い質問ですね」

バシャっ!バシャっ!カメラが博士をとらえる。


「この地球消滅可能性危険ブラックホール破壊鈴宮ミサイル…EEPDBDSSMのパイロットはすでに別室で待機しておりまして」

「しかし博士!直接ロケットでブラックホールに近づいて、その…宮なんとかミサイル?を撃ち込むというのは、あまりに危険な計画ではないですか?」

「地球消滅可能性危険ブラックホール破壊鈴宮ミサイル、ですね?確かにこの天才物理学者鈴宮の計算をもってしても可能性は決して高いとは言えません。しかしこれ以外に地球の消滅を防ぐ手立てはないのです!」


ゴクリ…会場の空気が張り詰める…その緊張感はオレにも伝わってくる。いやむしろその危険なパイロットであるオレが緊張してないわけがないのだ。


正直言うと、怖い。

無茶苦茶怖い。


しかしオレには地球を救うというとんでもなくデカイ使命があるのだ。怖がってはいられない。オレはヒーローになるのだ。


「博士!もしこの宮なんとかミサイルが失敗した場合、人類はどうなってしまうのでしょうか⁉︎」

「凡人はすぐ失敗を恐れる。しかし天才物理学者である鈴宮からしてみれば、これは世紀の大チャンスなのである!」

「さすが天才…見事、宮なんとかミサイルが成功すれば、博士の名は人類の歴史に永遠に刻まれるでしょうね!」

「…鈴宮ミサイル、ね。」

「我々は助かるのですね?宮なんとか博士!」

「…鈴宮…」

「我々は博士の名を未来永劫忘れることはないでしょう!バンザイ宮…なんとか?博士!!」

「鈴宮だっつってんだろっ、覚える気あるのかお前らっ」

バシャっ、バシャシャ!激しく焚かれるカメラのフラッシュ。紅潮した博士のハゲ頭がまぶしく光った。



ガチャリ。


「ありゃダメだろ。あのハゲうさんくせえもん。」


控え室に入ってきたのはオレと同期のパイロットであり、小学校からの親友、ノブハルだった。手土産をぶら下げている。陣中見舞いか、あるいは最期のお別れを言いに来たのか。


「ほらよ、お前の好物。発射前は絶食だったか?」

「いや、食うよ。ありがとな。」

袋を開け、ひとくち口に入れる。


「ヒデオ…俺たち同期の中で一番優秀なお前がなんでまたこんな危険なミッションに…おや、お前めずらしく震えてるんじゃないのか?」

「オマエがガリガリ君食わせるからだよ!確かに好物だけど!」

オレはガリガリ君を勢いよくたいらげた。


「発射まで何分だ?ガリっ」

「あと30分ちょっとだな…」

「そっか、じゃゆっくり食べてても平気だな…ガリっ」

いやいや早く食べないと溶けるだろ。


「よく落ち着いていられるなヒデオ…ガリっ、ちなみに俺は怖くて震えてるんじゃないぜ、ガリガリっ」

だろうな!冷たいもんな!なにしに来たんだコイツ…


「おいヒデオ、早く食べろよ、溶けちゃうぜ」


ロケット発射まであと33分…。


さすがのオレも少しだけ焦ってきていた。



つづく

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