白世界
烏丸 ノート
助けて①
彼女との出会いは、ある梅雨の、ジメジメとした日だった。
6月中旬
高校生活が始まり二ヶ月、少しずつ慣れてきた頃の事だ。
一日50分×6時間といった長い授業も終わり、部室へ向かっている時だった。
屋上へ続く階段のふもとで、
僕は思わずその後の元へ駆け寄り声をかけた。
「大、丈夫ですか?何かありましたか?」
声をかけると、涙を流していた女の子はハッと慌てた様子で涙を拭き、「大丈夫です、何でもないです」と言って下の階へと降りていった。
何だったんだ、と、大丈夫だろうか?といった感情が入り混じった状態で僕は部室へと足を向けた。
少しばかりさっきの子の事が気になり、考えているうちに部室へと到着した。
「こんにちはー」
「おー、遅いぞカズー何してたんだよ」
「あぁ、悪いヤマ、ちょっとな」
僕の事を「カズ」と呼ぶこの男は
そして「カズ」とは僕の事、
僕が所属している部活は『イラスト部』と言った、絵をマンガ系統の絵を描く部活。美術部とはまた別になっているが、正直なところ何が違うのかはあんまり分からない。
「(絵の具を使わないとかなのかな……)」
きっとそうだろうと思いながら自分の席へと座り、絵を描き始める。
「なぁカズ、これどーよ」
隣に座っているヤマが完成したと見られる絵を僕に見せてくる。
「おー、これはなかなか……でもちょっと肩下すぎるんじゃない?」
「ん、マジか。けっこー上手くいったと思ったんだがな」
「いや、その肩の部分を除けばかなり上手いと思うよ」
「お、そうか?じゃあしっかり直して完璧な絵を見せてやるよ」
「楽しみにしてる」
そして特に絵も完成する事も無く、部活は終わった。
帰り、下駄箱へ行くと、雨が降っていることに気がついた。
「あ、やべー俺傘教室だわ、カズ先帰っててくれ、俺とってくるから」
「うん、わかった。出来るだけゆっくり行ってるよ」
その答えにヤマは「さんきゅ」とだけ残して教室へと走っていった。
ヤマが教室へ行ったのを見送ってから僕は靴を取りに行った。
靴を履き外に出た時、僕の目にいちばん最初に映ったのは、先ほど階段で見た女の子だった。
雨の降る中空を見上げ、立ち止まっていた。何もかも終わった目をしていながら。
僕は、声を掛けて良いのか分からなかった。
だけど、足が勝手に彼女の方へと向かっていた。
無言で傘を彼女の上へ持っていき、そっと、声をかけた。
「さっきの子、だよね?やっぱり何かあった?話聞くよ?」
彼女はこちらを向き、こう言った。
「どうせあなたに言ったって何か変わるというわけではないのです。だから聞いてもしょうがない事なのです……」
その発言に僕は何も言い返せなかった。
詰まる僕を見て彼女は「ほらね」と言って校門の方へと足を向けた。
確かに、確かに聞いても何かが変わるわけじゃないかもしれない、けど、けど……
「けど、目の前に涙を流した女の子をほっておくことはできないだろ?!それに、全部吐き出せば楽になるよ!きっと」
校門へと向かっている彼女の手を引き、そんな言葉を並べた。
そのセリフを聞いた彼女はキョトンとた後に、クスッと笑った。
「そんなセリフを言う人がほんとにいるのですね、それに「きっと」ってなんなのですか、断定はしないんですね」
クスクスと微笑しながら彼女は言った。
自分の言葉がフラッシュバックし、赤面する僕を見て彼女は更に笑った。
「朱里」
「ん?」
「
「あ、そっか、名前まだだったね、僕は……」
「カズーー!まだいたのお前ー?」
下駄箱から聞こえてくる声はヤマだった。どうやら教室から帰ってきたらしい。
「んー?カズお前……リア充だったのか……信じてたのに……な」
「待つんだヤマ、勘違いしないでくれ?朱里さんは彼女ではない」
「分かってる分かってる♪じゃあ俺は先帰るから後はおふたりごゆっくりー!」
そう言ってヤマはダッシュで帰って行った。
「では、私も帰ります」
「あ、そうだね、ごめんね引き止めて」
「いいえ、私も久しぶりに笑わさせていただいたので」
「そ、そっか……あ、帰るんだったら傘、貸すよ」
「大丈夫なのです、家はすぐそこなので」
「そっか、じゃあまた明日」
「はい、さようなら」
僕もさようなら、と告げたあと彼女はさっさと走って帰って行った。
待ち合わせはしていないが一緒に帰る予定だったヤマも先に行ってしまったし、僕も帰るか。
が、そこであることにふと気付く。
「名前、言うの忘れた……」
まぁ明日でもいいだろうと思い、僕は、雨降る中、家へと続く道を歩いていった。
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