第17話 チーム

「真琴くん、行くよ!」

「え、私もっ!?」


 岩太郎が真琴に声をかけ、雅也が同時に攻撃態勢に入る。

 どうやら真琴は傍観を決め込もうかと考えていたらしく、指示を出され素っ頓狂な声を上げていた。


「行くぜ~。オルトロスぅ!」

燃え盛る矢ファイヤーアロー!」


 三十メートル四方の部屋に岩太郎と雅也はお互いほぼ壁側にいたにも関わらず、攻撃を繰り出した。

 本来魔導師というものは中距離~遠距離で戦うものであり、ある意味でこれがスタンダードの距離なのだ。

 雅也が両手に持つ海賊が使っていたような霊装銃、オルトロスから黒い塊を撃ち放つ。水瀬のマジックシールドを打ち破るほどの強力なその弾を岩太郎は初速の速いファイヤーアローで集中砲火した。

 両者の丁度中間、お互いが放った攻撃が衝撃の光を伴い激突する。

 結果は相殺。一発一発が高出力の雅也に対し、岩太郎の連撃はほぼ互角の威力を有していたようだ。


「良いね良いね~っ! お前が学生の癖にやるじゃねーか!」

「お褒めに預かり光栄だね。だけどキミのそれは大したことなかったかな。学生の僕に相殺されて恥ずかしくないのかね?」

「……言ってくれるじゃねーか三枚目~。ならこれでどうだ!」

「「身体能力向上魔法フィジカルブーストっ!!」


 両者が同時に身体能力向上魔法フィジカルブーストを自身にかける。

 さらに、岩太郎は一瞬ではあるが何かしら考える素振りを見せ、走りだす。

 三十メートル四方の部屋の中心を基軸にお互いが円を描くように移動する。両者とも中距離を得意とする魔導師だ。距離はあまり詰めたくないのだろう。一定の距離を保ちつつ様子を見ながら、


「おらおらおらっ!」


 雅也は両手の銃を交互に発泡する。魔力弾はてんで明後日の方向へ発射されるところを見ると、これは牽制だろう。

 岩太郎も流れを掴むため、手に魔力を込める。


「まずは動きを止めないと……。――『氷面世界アイスフィールド』!」


 岩太郎の手から発せられたその魔法は、このやや広い部屋を満たすには十分であろう冷気を発する。

 すると、雅也の足元の冷気が収縮し直径十メートルほどの氷が展開される。

 雅也は足元が凍りつき、その動きを止める。

 狙い通りと見たか、部屋中の冷気が岩太郎の背後に集まるやいなや、冷気は次第に無数の氷槍へと姿を変え、


「これで終わりだね。あの下郎を貫け! ――『狂い咲く氷槍アイシクルランサーズ』!」


 岩太郎の背後に形成された氷槍が一斉に雅也へ向かって射出された。

 いくら雅也のオルトロスが強力とはいえ、この数は撃ち落とせない。岩太郎はそう予測していた。

 だが、


「いい手だったな~三枚目。だがこの程度の魔力じゃ……まだ甘ぇ! 『炎の渦ブレイズトルネード』!」


 雅也が炎の魔法を自身の周りに旋風のように巻き起こすと、その熱で足元の氷を一瞬で溶かしきると同時に岩太郎めがけ高く飛び上がった。

 岩太郎の大技――『狂い咲く氷槍アイシクルランサーズ』を上空に退避することで避け、そのままオルトロスを岩太郎へ狙いを定めると、


「これでシメーだ! 三枚目ぇ!」

「そうだな、これで終いだ。――真琴くん!」


 岩太郎の言葉に雅也が何のことかと逡巡する。

 竜一と水瀬、それに真琴は部屋の奥壁側にいたハズと整理する。しかし雅也の斜め右後方、入り口付近に誰かしらの魔力が練られているのを雅也は感じ取り、視線だけ動かすと、


「はぁい! いっくよ~『圧縮風刃ウィンドブレイド』!」


 真琴の大技、翡翠色に輝く極大な風の刃を発動させた。

 空中へ退避し、既に岩太郎へ攻撃するモーションに入っていた雅也はその極大な風刃に対処するすべを持たず、


「なっ!? て、テメーら、最初からこれを狙って!?」


 嗜虐な笑みを浮かべていた顔は崩れ、迫り来る風刃を見やる雅也へ岩太郎は告げる。


「僕ら魔導師はチームで戦うものだ。学校で教わらなかったか? 三下くん」

「クソッ、クソったれがァアアァアアアアアアアアァアァアッッッ!」


 真琴の『圧縮風刃ウィンドブレイド』が雅也の上半身を右肩から斜めに切り裂き、血飛沫をあげながら床へと落下した。


 その極大な風の刃を放った少女、真琴は岩太郎の下へ駆け寄ると、また少し小言を言う。


「もうウィルくん、私に『乙女の直感マインドリーディング』を使って欲しい時は事前に言ってっていつも言ってるでしょお! 今回は気付けたから良かったけど、毎回気付けるほど私ウィルくんのこと見てないからね?」

「ちゃんとわかってくれた真琴くんは最高のバディだけど、ナチュラルに僕を傷つけるのは遠慮してもらいたいかな」


 そう、先ほどの戦闘で岩太郎が『身体能力向上魔法フィジカルブースト』を使用した直後、考え込む振りをして真琴へ合図を送っていたのだ。

 真琴の固有魔導秘術リミットオブソウル――『乙女の直感マインドリーディング』は真琴を中心に直径十メートルの範囲内の者の考えを抽象的にわかるというもの。

 岩太郎の予測を随時読み取っていた真琴は予め先回りをしていたのだ。そのため、岩太郎は雅也が自分にだけ注視していてくれるよう、ワザと煽り、且つ派手な技を放っていたというのが全容である。


「どうだったかな、竜一くん。ライバルの活躍を見ていて、何か言いたいことでもあるんじゃないか?」

「……俺はお前をライバルなんて思ったことねーっていつも言ってるだろ岩シストが」

「感謝の一つも言えないのか、キミはッ!」 

「全く、こういうときくらいはちゃんとありがとうって言うものよ、リューくん」


 強敵をたった二人で屠った岩太郎と真琴は、それを鼻にかけることなく、いつもどおりに接してくれていた。

 そんな岩太郎と真琴に、竜一は内面では感謝をしつつも、やっぱり素直に感謝を言うのが恥ずかしく……。

 竜一が水瀬を見ると、何故だか水瀬は倒れたハズの雅也の方を見ながら驚愕の表情を浮かべていた。


「お、おい竜一、岩太郎、真琴ちゃん。ア、アイツの周りに何か魔法陣が……」


 水瀬の言葉に三人の顔が強張る。

 緊張した面持ちで雅也の方を見やると、雅也を中心に紫色の光を放つ魔法陣が展開され、黒い霧が倒れている雅也を包み始めていた。

 四人がゴクリと唾を飲み込み、耳を澄ませてみると、


「傍……武人よ、我の……にせし……悄悄なる忘……苛虐。その身に……は悪……寂な神……」


 何かを唱えていた。

 それが何なのかはハッキリとしないが、これだけは言えた。――それは魔術詠唱だと。

 ――不味い。

 四人が考えることは同じであった。このまま魔術詠唱を完成させてしまえば、きっと取り返しのつかないことになると。

 そう確信し、四人が駆け出すも遅く……、


「今次を……宣名す、来たれ、破軍の魔道――ッ!」


 雅也の周りに展開されていた魔法陣が紫色に輝き、次第に輝きは黒い霧が覆い尽くした。

 その黒い霧から発せられるは極大の魔力による障壁。

 四人は近づくことすらできなくなり、その霧はさらに濃さを増す。

 その霧が人の形を織り成し始めたと思えば、その直後、


「――舐めた真似してくれやがって、餓鬼どもが」


 霧に包まれた男、雅也の声が発せられる。

 その霧を覆った雅也は、人として見える部分はもうなく、頭からつま先まで全てが真っ黒の霧に包まれ、その目は男の怒りを表しているかのように紅く輝いていた。


「第二ラウンドだぁ。餓鬼ども。楽して死ねると思うなよ――ッ!」


 今や霧の魔人とでも呼ぶべき男が、四人の魂を刈り取りに来る。

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