第22話 少女は乞い願う

 ミカは部屋のベッドに身を投げて、頭を抱え込んでいた。

 彼女の脳裏にあるのは、アレクが彼女に向けてくれた笑顔。

 それが眩くて、直視できなくて、彼女は逃げるようにこの部屋に駆け込んでしまったのだ。

 ワンピースが皺になるのも気にも留めず、全身を丸めて。

 枕を抱き寄せて、それに顔を押し付けて。

 潤んだ瞳を前方に向けて、彼女はふーっと大きく息を吐いた。

 彼女の心臓は、大きく脈打っていた。

 まるで全力疾走したかのような息苦しさが彼女の身に押し寄せて、それは彼女を余計に身悶えさせた。

 恋心とは、何とも苦しいものなのだろうね。

 だけど、人はそれを求めて他者との出会いを繰り返すんだ。

 人間とは、一人では生きていけないように神様に創られた生き物だからね。

「~~~」

 きゅっと目を閉じて、ベッドの上をころころと転がるミカ。

 しかしどんなに体を動かしても、彼女の頭の中にあるアレクの顔は消えない。

 彼女は、アレクが自分と違う怪物であることをきちんと理解している。

 それでも、彼女の中にある彼への気持ちはなくならない。

 傍にいてほしい。あの笑顔を、自分だけに向けてほしい。

 それを叶えてくれるなら、この命だっていらないから。

 鳩時計が鳴く。夕食の時間の訪れを告げる声が鳴り響く。

 さあ、行かなくちゃね。どんなに恋心が君のことを苦しめても、彼が待つ夕食の席へは行かなくちゃ。

 ミカは転がるのをやめて、枕を抱いたままゆっくりと起き上がった。

 今は、御飯を食べよう。彼もきっと、それを望んでいるだろうからね。


 大広間に現れたミカを、アレクは笑顔で迎えた。

「ミカさん。お待ちしておりました」

「…………」

 ミカは上目遣いにアレクを見た。

 ウェイターとして接してくれるアレクの微笑み顔は、彼女にとってはやはり眩しくて。

 つい駆け出したくなるのを堪えるので精一杯だった。

「今日も、最高の料理を御用意致しました。ゆっくりとしたお食事のひと時をお楽しみ下さいね」

「……うん」

 アレクに案内されて、ミカは食事の席に着く。

 大勢の客人で賑わっている空間の中で、彼らがいる場所だけが、まるで特別なもののように淡色の雰囲気に包まれていた。

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