第17話 少女の想いは小さく花咲く

 世界と世界の狭間という場所ではあるが、此処にもちゃんとした街がある。

 街には店が並び、住人が生活している。君たちの世界と同じように、人の交流が存在している場所があるのだ。

 もっとも、住んでいるのは普通の人間でないことの方が多いがね。

 街の中心地は、旅館から歩いて一時間ほどの場所にある。

 並木道をミカの手を引いて歩きながら、リルディアは彼女に問いかけた。

「貴女、アレクちゃんのことが好きでしょ」

「…………」

 ぴくり、とミカの身が反応を示した。

 ふふ、と口の端を上げるリルディア。

「やっぱりね」

「……どう、して」

「貴女、分かりやすいもの」

 彼女は肩を竦めて、ミカの方を見た。

「でも、それじゃ駄目よ。あいつには貴女の想いは伝わらないわ」

 あいつって朴念仁だから、と言って、彼女は前に視線を戻した。

 空に小さな白い雲が浮かんでいる。それを見上げて、続ける。

「あいつみたいなタイプにはね、もっと自己主張しないと通じないのよ。真っ向からぶつかって、好きだって言うの。それこそ相手の心をもぎ取るくらいの勢いじゃなくちゃね」

「…………」

 ミカは視線を伏せた。

 自分が行動的になる姿が想像できないようだ。

 彼女は内気だからね。急に行動的になれだなんて無理のある要求なのかもしれないね。

「……アレク、は」

 ミカは口を開く。

「アレクは、私に優しくしてくれる。でも、それはお仕事だから……本当はどう思っているのかを知るのが、怖い」

「そんなの、魅力的だなって思われるようになればいいのよ」

 リルディアは苦笑した。

「これから街に行くんだもの。どうせならアレクちゃんがびっくりするくらいのお洒落をして、魅力的な女になって、アタックしちゃいなさい。あたしが応援してあげるから」

「……本当?」

「アレクちゃんに浮いた話がひとつくらいあってもいいじゃないって思ってたところだし。せっかくこんな可愛い子が恋してるんだから、けしかけちゃえってね」

 ミカは自分の格好を見た。

 だぼっとしたシャツに、ズボン。靴も履いていないだらしない格好。

 それで可愛いなんて言われるとは、夢にも思っていなかったようだ。

 彼女はリルディアの言葉を疑うように、低く呟いた。

「私が可愛いなんて、そんなわけない……」

「何言ってるの。可愛いわよ。貴女が気付いていないだけ」

 さあ、とリルディアは声を張り上げた。

「魅力的になってアレクちゃんを悩殺しちゃうぞ大作戦! 張り切って始めるわよー!」

 やたらと元気なリルディアを見て、ミカは思った。

 格好悪いところをたくさん見せた私でも、人に好かれる資格ってあるのかな……と。

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