第16話 リリスは察する

 アレクがカウンターでホテルマンとしての仕事をしている間。ミカはずっと彼のことをフロントの椅子に座って見つめていた。

 彼女には他にやることがないんだろうけど、彼女のアレクへの執着っぷりには驚かされるものがあるよ。

 年頃の女の子って皆ああなのかね?

 アレクの方は自分が見つめられていることを大して気にしていないようで、時折彼女の方に目を向けては微笑みかけていた。

 ミカは笑顔を向けられると恥らうように俯いて、照れ隠しのように髪を引っ張ったり指先を弄ったりしていた。

 彼女の動作は、すっかり恋する少女のそれだ。

 アレクの方は自分が恋慕されているなんて全く思っていないようだから、その想いが通じることは今のところはないだろうけど。

 それでも、互いに納得のいく形で着地してほしいと私は思うよ。

「やっほ、アレクちゃん」

 軽い挨拶と共にリルディアがフロントに現れた。

 今日の彼女はいつものメイド姿ではなく、やたらと露出の高い私服に身を包んでいる。

 アレクは彼女の全身を見つめて、言った。

「今日は休みだったのか」

「そうよ。せっかくの休みだから街に行こうと思って」

 リルディアは髪を掻き上げて、ポーズを取った。

「街で男漁りをするのよ。いい男をゲットして、精気をたっぷり頂くわ!」

「……程々にしておけよ」

 アレクは呆れ声を漏らした。

 しかし、嗜めはしても制止はしない。彼にはリリスが生きるためには最低限でも男の精気を摂取しなければならないことをきちんと理解しているのだ。

 リルディアはその場をくるりと一回転した。

 そして、遠くの椅子に座っているミカに気が付き、目を瞬かせた。

「……あの子、アレクちゃんのこと見てるわよ」

「うん。さっきからずっとああなんだ」

「ずっと?」

 ふうん、と彼女は鼻を鳴らした。

 しばし考え込み、ややあって何かを思い付いたようにぱちんと手を叩いて鳴らして、笑う。

「ねえ、あの子のこと連れてってもいい?」

「え?」

 この申し出にはアレクも面を食らったようだった。

 ミカの方を見て、リルディアに視線を戻し、尋ねた。

「何を考えてるんだ。お客様を私用に連れ出すなんて……」

「此処から先は女の子同士のお話。男はお呼びじゃないの」

 リルディアは踵を返し、ミカの元へとまっすぐに歩いていった。

 びくりとするミカの顔を上から覗き込み、右手を差し出す。

「ね。あたしと一緒に来てくれない?」

「……え?」

 首を捻るミカの右手を取って、ぐいっと引っ張る。

 そのまま彼女を強引に立ち上がらせ、引き摺るようにして旅館から出て行ってしまった。

「おい、そんな強引に……」

 アレクの呼びかけは空しく宙に溶けて消えていく。

 アレクは溜め息をついて、リルディアとミカが出て行った入口をしばらくの間見つめていた。

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