5. 可愛いあの子にくちづけを。

放課後の教室。

いつもぼんやりと外を眺めていた。

何をするでもなく。

何もしたくなかった。


「ぼんやりしてるな」


低いアルトの声が鼓膜を震わせた。


「いいじゃんか」

「確かにね」


彼女は放課後いつも教室にいた。

友達と話すでもなく、俺と同じくぼんやりしていることが多かった。

いや、違うな。

毎日違う本を呼んでいることのほうが多い。


「今日は何読んでるんだ?」

「は?」


彼女が俺のほうに振り返った。


「今日は?」

「毎日違うの読んでんじゃん」


驚いた・・・のだろうか。

いまいちこいつの表情は読めない。

が、興味を引いたようだ。

彼女が俺の傍にきた。


「よくわかったね」

「何が?」

「ほぼ毎日違う本読んでること」

「なんとなく」

「そか」


珍しく饒舌だ。

俺のほうもなんだか楽しい。

一緒に窓の外を見ている。


「んで、今日は何を?」

「恋愛小説」

「ガラじゃないな」

「あたしもそう思う」


彼女が苦笑した。

びっくりした。

思ってたより可愛かった。


「何見てたの?」

「外」

「いや、それはわかってるし・・・」


また笑った。

普段あまり関わらないから知らなかった。

それなりに整った顔してる。


「空見てた」

「空好き?」

「まぁ・・・」

「あたしは嫌いじゃない」


彼女は綺麗に微笑んだ。

夕焼けに染まった顔が綺麗だった。

風に吹かれた髪が綺麗だった。


「なぁ」

「ん?」

「お前のこと好きかもしれない」

「そか」


彼女が俺のほうを向いた。


「あたしのこと好き?」


彼女は綺麗に微笑んだまま。


「キスしたいくらいには」


俺の正直な気持ち。


「そっかぁ・・・」

「うん」


彼女はくすぐったそうに笑った。

今までで一番可愛いと思った。



可愛い可愛い君に口付けを。



その日から俺の放課後が楽しいものになった。

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