4. キスと涙と夏の嘘

セミの声がする。

水のはねる音はもうしない。

肌に刺さるようであった陽射しは、もうだただたじりじりと僕の体温を上げるだけ。


「ねぇ」


赤と藍色の混ざった空が僕の心みたいで眩暈がする。


「好きだよ」


君はゆっくりと振り向いてその端正な顔を綺麗な笑顔の形に歪めた。


「知ってるよ」


ふわりと鈴が鳴るような玲瓏な声がこたえた。

その声があまりに美しくて僕は泣きそうな顔をしていたのだろう。

白魚のような白い手が僕の頬に触れた。


「どうした?」


綺麗な綺麗な色をした君の瞳に泣きそうな僕の顔がうつった。


「なんでもない」


「そうか」


君の瞳の奥に傷ついたような揺れが見えたのは僕の気のせいだろう。

君の心に僕はいないんだから。


「俺はお前が好きだよ」


ふわりと唇を重ねた。

相変わらず、君は嘘が上手で下手だね。

僕以外には気がつかないくらいのわずかに含まれる罪悪感の声。

僕が気づいていないと思っているから。

僕を傷つけないように嘘をついてくれている。

その優しさがとてもとても痛くて僕は涙がこぼれた。


夏が終わるころ

君と僕のあいだにあるキスと涙と嘘の行方は・・・

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