第136話 絶対不敗の決闘者 -03

    ◆とある港



 夜。

 とある港。

 潮風の匂いがきつく香ってくるその場所に、遥と拓斗はいた。

 この場所は、2人が住んでいる地域から一番近い港であったが、それでも車で20分ほどは掛かる遠い場所だった。

 人の気配の全くしない、静かな場所。

 そこで2人は待っていた。

 海を背にしながら、黒いマントをたなびかせながら遥は剣を構え、その前方で拓斗は前で閉じた同じような黒い厚手のコートを着て立っている。

 見てからに戦闘態勢であった。


 ――コツ コツ コツ。


 ほんの小さな音。

 それを拾う程の静謐の港に、1人の男が姿を現わす。


 銀髪を1つに括った男。

 上半身は裸で、腹部に包帯を巻いているのがよく見える。


「よう、どうやら待っていてくれていたみたいだな」


 男――エーデル・グラスパーは口の端を上げる。

 そこには余裕しか見えない。


「成程。蒼髪の少女とこれといった特徴のない男の子、か。正にその通りとしか言いようがないな。捜索班はよく見つけたよ。それとも――?」


 この場所に『魂鬼』はいない。つまり、フランシスカとセバスチャンのコンビを誘き出した時の手は使っていない、ということをエーデルは知っていた。

 では何故彼らは姿を現わしたのか。

 しかも――『スピリ』特有の周囲の時を止める能力を使ってまで。

 そんなのは自明の理だ。

 エーデルを誘き出す為だ。


「あの執事の子が負わせたダメージが残っている内に倒したかったんだろう? そりゃ当たり前だよな。だけど残念だったな。この通り、完治はしていないけど大した怪我じゃねえよ」

「そう。残念ね」


 そこまでずっと口を閉ざしていた遥が、構えを解かないまま彼に言葉を投げる。


「具合が悪いんじゃないかって思っていたけど、思ったよりも丈夫なようね」

「心配してくれてありがとうよ。俺は丈夫なのが1つの取り柄だからな。――さて、軽口もこの程度にしておくか」


 エーデルが拳を打ち付ける。


「あら、残念。時間稼ぎで体力を消耗させたかったのに」

「そんなことを口にしている時点で本当の気持ちじゃねえだろ、嬢ちゃん。ま、早く終わらせてゆっくり寝てえ、っていうのはこっちの本当の気持ちだけどな」


 そう言うと彼は、表情から笑みを無くした。


「さあ、戦いを始めようぜ。――名前も知らない『白夜ホワイトナイツ』の『スピリ』さん達よお!」

「ええ。掛かってきなさい。――『絶対不敗の決闘者Not Loser』エーデル・グラスパー」


 夜の港。

 光も多くなく、薄暗いその場所で。

 無名の少女と少年の2人と、有名な男1人。


 3人のその戦いが今、始まった――




 ――




「だあああああああああああああああ!」



 唐突に。

 その場にいる3人以外の声が、エーデルの背後から聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る