第127話 勝てない -06
フランシスカの両刀の攻撃により、男の
それはセバスチャンの狙い通りであり、フランシスカはそれをやってのけた。
予想外の攻撃で
「もら――」
――もらった、と。
すかさず追撃をすべく両刀を振り上げようとしたフランシスカであったが、しかし次の瞬間――
「っ!?」
彼女は両手に持った刀を、その手から離してしまった。
「お嬢様!」
セバスチャンは男を背後から横薙ぎに蹴り飛ばして彼女の下へと駆け寄る。そして「ぐっ!」と唸り声を上げながらも、彼女の刀が地面に落ちる前に掴み取る。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
「あ……平気よ」
「嘘つかないでください!」
セバスチャンは彼女両手を取る。
「ちょっ……セバスチャン、セクハラで訴えるわよ!?」
「誤算でした……どうして武器を破壊するだけにしなかったのですか?」
フランシスカの両の手。
その手の甲から血が流れていた。
機能を失う程に深くはなかったが、しかし痛みは十二分に伴う程の深さはあった。故に彼女は武器を落としてしまったのだ。
「だってそんな余裕はなかったもの……あの
「だからといって全力で斬りつけるなんて……分かっていたでしょう?」
セバスチャンは苦しげに言い放つ。
「あの男は『
「エーデル・グラスパー? 誰それ?」
「……はい?」
思わず拍子抜けた声を放ってしまった。
「お嬢様、エーデル・グラスパーですよ? 『トワイライト』の中でも知れた名前ですよ? 要注意人物として頭に入れていますよね?」
「え、あ、うん……うん?」
セバスチャンは額を押さえた。
「……本当に勉強がお嫌いなのですね。まさかスピリとしての勉強までとは思いませんでした」
「何よ! 馬鹿にするんじゃないわよ! で、そいつ誰なのよ?」
「エーデル・グラスパー。異名は『
「その2つって、遠距離攻撃無効、と、ダメージが跳ね返ってくる、ってことかしら?」
そういうことは理解早いんだよな――と思いつつも口には出さず「ええ」とセバスチャンは首を縦に振る。
「だから
「それは仕方ないでしょ? 攻撃が跳ね返ってくるなんて思っていなかったんだから」
「……思っていなかった?」
「そ、そうよ!
「……ああ、痛ぇな、くそ」
フランシスカが必死に弁解をセバスチャンにしていた所、ガラガラという瓦礫が崩れる音と共にそんな声が聞こえた。
エーデルだった。
彼は先のセバスチャンの攻撃で吹き飛ばされ、近くのビルに叩きつけられていた。その際にぶつけたのであろう、頭から血を流しながら、ゆったりとした足取りで歩いてきていた。
「くっそ……頭は鍛えようがねえからな。どうしても大袈裟に血が出ちまうぜ。あ、痛くないからご心配なく」
両手をひらひらと振るエーデル。
その腕には怪我どころか、血の一滴すら付いていなかった。
一連の彼の様子に目をやったセバスチャンは、何かに気が付いたかのように頭に手を当てながら目を大きく見開いた。が、すぐにいつものように落ち着いた表情に戻ると、
「お嬢様。やはり一筋縄ではいかない相手のようです」
「ええ、舐めきっているわね、私達のことを」
フランシスカは表情を引き締める。
「しかし困ったモノね。こちらの攻撃を跳ね返してくるということは」
「おいおーいお嬢ちゃん、跳ね返しているだけじゃねえぞ。俺だってちゃんとダメージは食らっているんだって。あー、いてて」
エーデルが悠長とも言える様相でそう言葉を挟むと、2、3度頭を振って血を振り払う。
「ま、まだまだ余裕だけどな。まさかあれが本気とか言わないよな?」
「……はん。今度は
悔しそうに片方の口の端だけ上げたフランシスカが、セバスチャンから両刀をぎゅっと握り直す。
「っ、セバスチャン! 私があいつを完膚なきまでに叩きのめす方法を求めるわ!」
「……」
口を真一文字に結び、セバスチャンはスッと目を細める。
じっ、と。
「な、何よ……?」
観察するような視線に眉を顰めてたじろぐフランシスカ。
しかしセバスチャンは表情を変えずに見つめ続ける。
やがて数秒の後、彼は口を開いた。
「ありません」
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