第64話 悲獄の子守唄 -06

    ◆



 遥と拓斗。

 『魂鬼』の討伐に当たっていた二人の姿を、彼らが察することが出来ないほど遠くのビルの上から観察していた人間が二人いた。

 原木とピエロだった。


「んー、遠くて見えませんねえ。だけど制服を着ていたので高校生あたりですかね。若いですね」

「……」

「おやおや?」


 ピエロが原木の顔を覗き込む。


「相手の静止空間の影響を受けないようにしたはずですけど、もしかして止まっちゃっています?」

「……止まっていないわよ」

「わお。危うく触って訴えられるところでしたねえ。危ない危ない」


 おどけた様子のピエロ。正に道化師ならではの行動ではあったが、相も変わらない不気味さを醸し出していた。


「で、どうしたんですか? まさか遠方に見えた少年少女が知り合いだったとか?」

「……」


 ある意味的を射ている発言に閉口してしまう原木。ハッキリとが分からなかったが、昨日に遭った少年少女達のうちの二人のように思えてしまったのだ。結果的には正解であったのが、その時の彼女は、制服という記号だけでそう思い込んでしまったのだろう、と結論付けてピエロに質問をぶつける。


「そんなことより、あっさりとあの黒いのやられちゃったわよ。あの女の子一人に」

「うーん、ちょっと予想外ですねえ。調査員みたいな人も一人だけでしたし、何か連絡を受けるなりすぐにその場を離れてしまいましたからねえ。そうすると前のおじさんが大量に人を使っていたのは何ででしょうねえ。自分は楽しようとしていたのでしょうかね? ねえどう思います?」

「知らないわよ」

「ですよねー」


 あはははと無邪気な笑い声を上げながら、ビルの上の柵の上に立ってくるくると廻るピエロ。


「どうします? 前みたいに敵組織の人が大量に来るのは無理そうですから、そこら辺の人で補いますか?」

「それは駄目よ」


 原木は眉間に皺を寄せる。


「一般人は巻き込まない。あなた達の敵だけにするってのは条件づけたはずでしょ」

「そうでしたそうでした。すっかりと忘れていましたよ」


 ですがね、とピエロは器用にピタリと爪先立ちで止まる。


「結局人を殺していることに変わりないじゃないですか。無駄に時間が掛かるだけですけど、それって意味があるのですかね?」

「……分かっているわよ、そんなこと」


 原木は唇を噛みしめる。


「私がやっていることは許されないことだって。だけど、どうしてもやらなきゃいけないのよ……だから、せめてもの心の持ちようで」

「心! いいですねえ!」


 ピエロが柵の上で跳ねまわる。


「その心の為にもう四日間も続けて約束の人数までまだまだ遠くてもコツコツとやっているのは、心があるから! 成程成程勉強になりました!」

「……」


 馬鹿にされているようにしか思えないその態度に、いっそ、そこから突き落せたらどれだけいいか――と思ってしまう程に腹立たしかったが、原木はただ睨み付けることしか出来なかった。


「さてさて、少しだけ様子見しましょうか。あと何体か『魂鬼』を出して、同じようになるかを見まして、駄目だったら人数を引き出すために――」


 ピタリと動きをそこで止めると、ピエロは背中を反らせて振り向きながら原木に告げる。



「あの二人を殺してくださいね」

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