第24話 剣崎遥は盾を所望する -03

  ◆



「全く、ひどい目にあったよ……」


 昼休み。

 拓斗はミートボールに箸を付けながら、じと目で皆を睨みつける。

 机を合わせて、拓斗、遥、大海、静、蒼紅、亜紀の6人は、昼食を取っていた。


「いつまでも同じことを繰り返すなよ」

 そう言って卵焼きを頬張る、大海。


「あれくらい耐えなさいよ。男の子でしょ」

 パクリ、とクリームパンを口に入れる、静。


「修行でござる」

 バナナを食べながら頷く、蒼紅。


「あ、いや、でも……た、大変だったよね」

 おろおろとしながらみんなを見渡す、亜紀。 


「まぁ、自業自得だよね」

 そう言って3個目のツナマヨのおにぎりの封を開ける、遥。


「……って、ちょっと待てい!?」


「どうした? 盾?」

「みんなの意見には1名を除いて腹が立つけど……それよりもツッコミをさせてくれ」


 ビシッ、と効果音を付けながら、拓斗は指を差す。


「何だ! そのツナマヨの量は!」

「何って?」


 遥は不思議そうな顔で首を傾げる。


「別に5個程度ならいいじゃない。市販のお弁当と同じ位の値段でしょ」

「いやいや、だからと言って全部ツナマヨはおかしいでしょ! ってか何故にツナマヨなんだ!」

「いいじゃない、好きなんだから。それに、これによって、オタク少女のチョココロネとか、ツンデレ少女のメロンパンみたいにブームがくるかもしれないじゃない」

「古いよ! ってか、2つ目のはお前に似ているから注意しろ!」

「何よ。私はあんなにどこもかしこもちっちゃくなんかないよ。似てないよ」

「そこじゃない部分でだよ!」

「どこ?」

「ちょ……み、みんなの前じゃ言えない部分だよ!」

「なっ!」


 ボスン、と近くで爆発音がした。


「な、何だ?」


 ゆっくりと、音のした方向を見る。

 そこにあったのは、湯気を出して放心状態の、亜紀。

 そして隣には、静。

 以上の状況から、拓斗が導き出した結論は1つ。


「何故殺した!?」

「いやいやいや」


 静は眼前で手を振って否定する。


「死んでいないし、私は何もしていないよ」

「うむ。拙者もたまたま見ていたが、いきなり赤くなって爆発したでござる」

「……それは本当か、蒼紅?」

「うむ。土星人は嘘つかないでござるよ」

「お前、この前インディアンだったじゃねえか……」


 衝撃的な事実が発覚した所で、亜紀が正常に戻る。


「大丈夫、亜紀?」


 静が本当に心配そうに声を掛ける。

 亜紀は胸に手を当て、息を切らしながら呟く。


「はぁ……危なかったです……閻魔様と握手していました……」

「地獄かよ」

「まぁ、大事に至らないなら良かったよ」


 拓斗は、ほっと胸を撫で下ろす。


「あ、はい。ご心配かけてすいません」


 ぺこりと律儀に頭を下げた後に亜紀は少し赤くなりながら、パクッと自分のお弁当の煮つけを口に入れる。


「ぬーん」

「うわっ! いきなり眼前に顔を出現させるなよ! 離れろ!」


 唐突な襲来に全力で拒否していると、大海はふんと鼻を鳴らす。


「俺、犯人判っちゃった」

「え? マジですか?」

「うん。拓斗だよ」

「へぇ、マジなんだ。それで誰なんだ……って、え?」


 さらりと言われた、犯人の名前。


「僕ですか?」

「その通り」


 いつの間にか蝶ネクタイをその首に付けた大海が、人差し指を拓斗に向ける。


「犯人はいつも1人」

「共犯はどうするんだよ」

「うるさい犯人」

「異議あり!」


 バン、と机を叩きつける。


「僕はただ、遥にツッコミを入れていただけだ。それのどこが犯人になる?」

「そのニブちんの所だよ。裁判長。いかがですか?」

「うむ。その通りでござるな」

「蒼紅が裁判長かよ! ってか、分かってないだろ!」

「判決を下すでござる」


 蒼紅はトントンと机をバナナで叩き、そして告げる。


「処刑」

「ちょっと待てよ! 処刑って何だよ! おい!」

「この者を吊り上げい」

「蒼紅、お前口調が大名になって……あ、ちょ、お前ら何処から出てきやがった! ってかこれって結構、頭に血が昇って危ないんだよ! いやいやいや話せば分かるってばっておいおいおいおいおいちくしょおぉぉぉぉ!」


 嫉妬の渦と共に、拓斗の叫びが、教室中を木霊する。

 そんな中、


「……何であいつが犯人なんだろう?」


 遥は一人だけ不思議そうな表情で首を傾げながら、4個目のツナマヨを頬張った。

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