第27話「俺の憶測ではアイドルは3パターンに分かれる」


 やっちゃいけないライン、だとは重々承知であるが俺はつけっぱなしにであったアプリをゆっくりと下にスクロールしてみる。

 メッセージを送ったのはゆうゆの方であったらしい。どうやら誰かの紹介で、この相手と知り合い、自分の顔写真(そんなに目はデカくなっていない)ものを送り、相手から《かわいいね!》とお褒めの言葉が入り、そして具体的な出勤日に会話が繋がる、という一連の流れであった。


 相手の素性は完全にはわからなかったものの、おそらくなにかしらのそういった18禁なお店に勤めているかスカウトマンなのだろう。

 お店のURLや地図もメッセージには見当たらず、これ以上詮索しても有益な情報は得られそうにない、と悟った俺はとりあえず自分のスマホで一連の会話を写真におさめることにした。

 スマホの右下にあるスピーカー部分を親指で抑え、極力音が出ないように細心の注意を払って写真を撮る。自分がやっていることはプライバシーの観点から見ると褒められたことではないが、事の重大さを考えるとここで写真におさめても許されるレベルではないだろうか。


 証拠をおさえたら、美子に連絡をするという約束をしていたが、このままの画像を送ったら最悪の揉め事に発展する事は容易に予想がついた。俺は、この件は自分だけで解決したほうがいいと一人心に誓い、とりあえずは美子に何か聞かれてもしらばっくれようと決めた。


 それにしても、ゆうゆなんでだよ。一人で抱えるには大きすぎる予想外の出来事を知ってしまった俺は襲ってくる焦燥感に耐えるしかなかった。


 自分がおっさんのままだったら、こんな時は一人でバーに出向き何気ない会話に逃げていたり、具体名を持ち出さない会話としてさらっと誰かに相談していたかもしれない。けれども、この特異な出来事を相談できる相手が、いまの俺にはいないーー。

 と、思ったが……そんな時頭によぎったのは端野の顔であった。そうだ、ずっと連絡してみようとしておざなりになっていた端野に連絡をしてみるとなにか糸口が見つかるのではないだろうか。

 俺は早速メールにログインし、端野に連絡をとってみることにした。


 一日ぶりにログインしたメールボックスには相変わらず新商品の購買を勧めるメルマガで溢れていたが、俺はその中から端野のメールアドレスを探し出す。

それにしても、あいつと別れたのはこの間俺がガールズバーでぶっ倒れた日が最後である。

 あいつはおそらく病院まで同行してくれているハズなので、俺が死んだ、と思っているかもしれない。けど、まぁいいか。多少の混乱を招いたところで、この状況に一番困惑しているのは俺自身なのだから。


《端野、久しぶり。こないだは心配かけてごめんな。ちょっと回復したからメールしたんだけど》


俺は自分の病状が大した事なかった、といわんばかりのさらりとしたメールを送った。すると端野から3分とたたずメールが返ってくる。


《端野:おお! 大丈夫なのか!? もう心配したぞ。その後どうだ? 退院できそうか? なにか欲しいものあったら買っていくから言ってくれよ》


《長束:いや、退院はまだかかるかもしれないけど、いまはちょっと体調が回復してる。心配かけてごめんな、ていうかちょっとお前に聞きたい事があってメールしたんだ。すげー話変わるけど》


《端野:何? てゆうかなぜメール? メッセでよくない?》


《長束:いや……なんかメッセはアプデ出来てなくて、すぐ落ちちゃうんだ。ごめん。あのさ、端野アイドル好きだったじゃん? そのいわゆる地下アイドルってさ、風俗とかで働いたりするもんなの?》


《端野:お前なんの話題だよw いや、働いたりしないだろw ただ、やってる子もいるだろうな。俺の見立てによるとアイドルって3パターンに分かれるからな……》


《長束:3パターン?》


《端野:うん、アイドル目指すっていわば就職するってのとちょっと違うわけじゃん? だから普通に大学いって普通に就職するのが当たり前だと思っているようなタイプは少ないわけよ。そうなるとどうなるのかと言えば、3パターンに分かれる。》


《長束:ほう、どんな3パターン?》


《端野:1つは、どうしてもアイドルになりたい子。小さい頃からいろんなオーディションを受けて絶対に芸能界で成功したい! って考えてる野心家タイプ。

 もう1つはお嬢タイプ。家が裕福でようするにモラトリアムを楽しんでるタイプだな。お金を稼がなきゃ! という危機感がなく楽しそうなだからやってる、みたいなタイプ。

 そしてもう1つは、あんまり深く考えてないけど見た目が可愛かったタイプ。高校でたらとりあえずキャバ嬢でもやるかなーってノリの子でたまたま顔が可愛かったからスカウトされてそのまま芸能界入り、みたいなタイプだな。

 このタイプはよく考えてないし、勉強熱心でもないことが多いからまぁ、もしかしたら一番そういうバイトに走りやすいかもなぁ。ま、俺の憶測だけど》


《長束:なるほど、そうか》


《端野:ていうかいきなりそんなこと聞いてくるってことは、お前アイドルに興味もったわけ? なんてグループ?》


《長束:いや、興味もったというか……ちょっと変なこと聞くけど例えばお前は俺がその、俺じゃないような感じになっても信じてくれるか?》


《端野:え! いきなりなにその中二病みたいな発言。いや別に治療で顔が歪んだとしても髪が無くなったとしても、気にしないぞ!笑》


……ごめん、端野。俺は顔が歪んだり、髪がなくなったり、醜くなったわけじゃないんだ。むしろその逆でめちゃくちゃ可愛くなってしまったんだ、本当に。おそらくお前が見たら黙り込んでしまって会話にならないくらい。けれど、こんな映画みたいな話信じてくれないよな、いやけどあいつはどちらかといえばリアリストというより、ロマンチストだからもしかするとワンチャン信じてくれるかもしれない。



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