第3話「そうよ、美少女アイドルになれば人生イージーモードなんでしょ!」
「……は?」
「よく考えてくれ。美少女に生まれていればアイドルにでもなって人生もっとイージーモードだったはずだ!!!」
自分でもなにを口走っているのか、正直よくわからないというか正論ではない屁理屈をぶつけているな、という自覚はあった。ただ、自分の惨めな人生を思い返した時に、そういった叫びが浮かんだのだ。
俺が見目麗しい美少女だったら、もっと違う人生だったはずだ。という思いが胸に溢れてきて、この恨みはらさずべきか……と逆恨みする気持ちが轟々と胸を駆けめぐりだしたのだ。
予期しない言葉に驚いたのか、一瞬ネクタイを掴む力が緩むのがわかった。さっきまでの鋭い目つきから一転し、いきなり挙動不審に目をきょろきょろさせ動揺するベリアルの顔が真近にあった。
「……えっと、それは本気で言ってるの?」
「ああ、大マジだよ。俺の人生最大の失敗はそれだ。俺が美少女に生まれなかったこと。その一点だ」
「はぁ……あんたさぁ」
「どうした」
「……どんだけクズなのよ」
さっきまで威勢がよかったベリアルが呆気にとられてしまい、続く沈黙。そんな気まずい空気をみかねてか、ダブリスが俺に話しかけてきた。
「じゃ、じゃあ逆に言うとみんなが振り向くようなスーパー美少女だったら、もっと善行をつめるような素晴らしい人生を送れるってことですかね?」
「ああ、そうだよ。スーパー美少女だったらなんの悔いもない人生を送れてたよ」
「そうですか……ベリアルちゃん、ちょっと」
ダブリスは俺の目の前に屈みこんだままのベリアルの手を引くと、二人で内緒話を始めた。
「ハァ? ダブリスそれマジで言ってんの?」
「えーだって他に方法がないですよ!いまのままだとどっちにも入れないし……」
たまにこちらをチラチラみながら二人はひそひそと内緒話を続けていく。何かを熱心に説得する様子のダブリス。腕を組みながら怪訝な顔つきで聞いているベリアル。なにか軽く揉めている様子が伺える。あーこういうの苦手なんだよなー会社でも上司と同僚がひそひそこっちみながらなんか話してるときはたいがい渋い営業押し付けられるとか嫌なときなんだよなー。
しばらくすると、ベリアルがため息まじりで、頷いた。
「……そこまで言うなら、わかったわ」
「ホント!? ベリアルちゃん……大好き!」
「あー! いちいちくっつくな」
なにやら二人は話がまとまって盛り上がっている様子だ。
「おい、浅川長束」
再び威厳を取り戻したベリアルが、またこちらを見下した目つきでこちらを向いた。
「ん?」
「いまから望み通り、お前を見目麗しい美少女アイドルにしてやる」
「そのかわり、現世でたっくさん善行をつんできてくださいねっ!」
「……はい?」
突然の申し出に俺は戸惑った、というか戸惑うしかなかった。美少女アイドル? この人たちなに言ってんだ? ていうかそもそもここどこ?
「じゃあ、ダブリスあとは頼んだわ」
「はい! 浅川長束さん、ちょっとビリビリするかもしれませんが、我慢してくださいね」
「え? どういう……わっ!!」
いつのまにか背後に回ったベリアルに羽交い締めされたと思ったら、ダブリスは手のひらから翼の生えた大きなステッキを召喚した。金属音と共に、ステッキの先端になにか超電磁砲のほうなエネルギーが集められている。
「えっちょっとまって……ちょっと……」
「浅川長束」
その時、ベリアルが耳元で吐息まじりに囁いた。
「一度でも泣き言を言ったら、次は転生規約違反で地獄にきてもらう。地獄行きが怖かったら、美少女アイドルとしてせいぜい善行をつむことね」
「へ? アイドル?」
「そうよ、美少女アイドルになれば人生イージーモードなんでしょ、じゃあ一度だけチャンスをあげるから自分で証明してみなさい」
「じゃあ浅川さんいきますよー!ちょっとだけ我慢してくださいねー!」
「ええええ!?」
「転生神護!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大きな光と体を突き抜ける電気ショックのようなものを受け、俺は一瞬で気を失ってしまった。死んでも尚、このような痛みを受けるとは一体なんの罰なのだろうか……。
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