Chap1-5 立川口交差点迎撃戦

「いた、たぶんあの2人」自転車を二人乗りで走らせている女子高生を挟み込む形で、パトカー2台が急停車した。


合計6名の警察官が駆け下り。「もう大丈夫よ」と女性刑事が声をかけると氣恵は膝から崩れ落ちた。しかし、崩れ落ちはしたものの安堵の顔は全く見えない。


「富士見1丁目付近で、目撃者を保護。警邏班4名を残し本部に急行します。」


女性刑事がベルトの無線機に言い終わるや否や、先発のパトカーから降りた制服警官の首が飛んだ。飛んだというよりは消え去ったという形に近い。

血しぶきをあげて頭部の無い体が前のめりに倒れる。


間髪を入れずにもう一人の警官の腰から下が切り取られる。

彼の支えを失った上半身が路面に叩きつけられる。


他の二人もあっという間に切り刻まれ、肉片に代わっていく。


女性刑事とっさの事に躊躇しながらも、注意深く惨劇を観察した。

激しくなってきた雨粒が地上50~60cmの空中で弾かれ、アスファルトに届いていない。その気影が蜃気楼のように揺らめきながら、後発のパトカーに近づいてくる。


彼女はホルスターからベレッタM9を抜くと、その影に向けて3発撃ちこんが、

「カィン・カィン・カィン」と乾いた音が響き、弾き返されたことを証明した。


「何これ…」


唖然とする女性刑事を「いいから乗って!」と氣恵はせかし、女子高生二人と女性刑事が乗り込むや否や、運転係の警官は、状況を察してパトカーを急発進させた。バックミラー越しに惨殺された4人が見える。


「警邏班4名殉職しました・・・ホシはなんと言うか、巨大な影のようなもので、姿は見えず・・・私はその影に向かって拳銃3発打ち込みましたが、貫通しませんでした。」女性刑事は無線に告げた。


「解った。立川口交差点戦闘に強襲班がバリケードをはっている。左車線1レーンだけ開けているからそこを抜けてきてくれ。」

無線の先の岩田は答えた。


パトカー4台が立川口交差点を封鎖している。強襲班16人がパトカーを盾に短機関銃や自動小銃を構える。


「いいか?冗談に聞こえるかもしれないが、ホシは暗視スコープを通さなければ見えない。見れば驚くと思うが、正体は巨大なムカデだ!既に、西立川に向かった警邏班の4名は殺害された。拳銃は効かないと報告されている。」


刑事課長のどう聞いても冗談にしか聞こえない無線に笑い出す隊員もいる。左レーンにかろうじて開けた一車線を目撃者を保護したパトカーが猛スピードで通り抜ける。


「来るのか?」


隊員の暗視スコープ越しに見えたのは、3メートル超×80センチ程の帯状の物体が蛇行しながら、時速30kmぐらいの速度でこちらへ向かってくる。


道路からの反射熱のみが見えているらしく、本体であろう箇所はまるで蓋をしたように黒く、その反射熱の中に細かい足が何本も見える。その様はまさにムカデだ。


叫び声をあげながら機関銃を乱射する隊員たちをよそに、ムカデたちは止まらない。


「パラベラム弾では効いてない…」


強襲班の班長は右車線側に合図を送ると、89式小銃を構えた8名が前に出る。

削岩機のような銃声が轟くと4体すべてに着弾し、ムカデ達は仰け反った。


反り返った腹側にMP5を撃ち込むと、流れ出る体液のようなものが見えた。


「裏側は19㎜でも貫通できるぞ。動きが止まるまで撃ち続けろ!」

強襲班の班長が右車線の隊員達に親指を立てたその時。


「後ろだ!後ろ!!」


右車線後方よりに5匹ほどムカデが現れた。あっという間に右車線側にいた8名の隊員が切り刻まれる。その右車線の5匹に気をとられていると今度は昭和記念公園側の茂みから5匹が飛び出した。


「敵の数が増えました!!増援をあぁぁぁぁ」会議室のスピーカーに隊員のむなしい悲鳴がこだました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る