Chap1-2 月にて

ここは月、“既知の海”にあるアステロイドベルト内部運用委員会、通称AICの拠点である。


彼らは基本的にシリウス系星(太陽系もここに入る)と呼ばれる

プレアデス、シリウス、プロキオン、レチクル、地球人で構成されており、上位組織としてオリオン評議会の監視下に置かれている。


1995年、彼らの手により、火星域より内側の太陽系には円盤状の時空間バリアが張られ、アステロイドベルトにある4拠点(内と外で対になっており合計8拠点ある)のハイパーゲートを使う以外での渡航は制限され、このゲートを通る際に「アステロイドベルトの内側の移住・生存における基本協定」へ合意することを大原則とした。


「ボス、主任! 火星から緊急入電です。」

ロフト状の2重構造の上部階、コントロールパネルが張り巡らされたデッキから一目で異星人とわかる犬顔の女性(頭から角が生えており、羊のそれに近い)が階層下の子供ほどの背丈の宇宙服の二人を呼んだ。


この二人の宇宙服と思われる頭部にはドーム型のヘルメットがついており、スモークスクリーンが張られてはいるものの、脳ミソともスパゲッティーとも取れるよううな気味の悪い内容物が、時折、若干透けて見える。


「ああ、はいよ!すぐ映して。」


“Cassina”の刻印がある銀色のソファーに腰かけた二人の前に2×1mの半透明なスクリーンが二人の前に展開される。(※Cassinaはイタリア製の高級家具である。)


すると、そこには手足や胴体が切断された20名近くの遺体が映った。


「報告者がいないな・・・」

「カメラをオンにした瞬間絶命したんじゃない?」


奥で飛び立つ飛行艇が見える。


「時空湾曲を確認しました。ハイパードライブに入る模様です。

あっ入りました。移動先識別不可能!」

上部階から、犬顔の女性が緊迫した声で告げる。



「ピンポーン!ピンポーン!」

ふざけた呼び出し音が鳴ると、スクリーンに別のウィンドウが立ち上がる。

中に映ったのはファンタジー小説に出てくるダークエルフのような格好の男性だ。


「本部ガブリエルだ!すでに報告が入っていると思うが、火星のSilver rabbit社コロニーの作業現場より囚人が逃亡した。

たった今入った詳細によると、逃亡した囚人はウェイ人31名。

被害内容は、地球人15名・エンリル5名が殺害され、惑星移動用の小型艇が奪取された他、警備ロボット5体、監視システムも破壊された。」


子供丈の2人が非難の声を上げる。

「ほら見たことか?そんな危険な連中を作業要員にしたからだわ。」

「奴らの食事とか知ってる?血抜きしない牛をスプラッタのトリップムービー見させながら食わせるんだぜ!」

「他の星に付いたらどうなるか?確かヒューマノイド系の頭が好物なんだってさ・・・」

「聞いたことある!遺体の首から上は絶対発見されないって!!」

「猟奇殺人事件まっしぐらだわ♪いったい何人虐殺されるのかしら?」


「止めないか!どうして君達はいつもそうやって品格のないことばかり楽しそうに話すんだ・・・」

ガブリエルの顔はこわばり、青白い顔が一層青白くなったようにも見える。


「おやおや、ガブ様顔色が悪くてよ♪」

「あらあら、シリウス戦争の英雄でいらっしゃるガブ様にも許容ってものがありますからね♪」

子供丈二人が鬼の首を取ったようにはしゃぐ。


「本部の指示は、一刻も早くウェイ人を見つけ出し、被害を最小限に収めることだ。31人のうち一人は女王だ、つまり繁殖の可能性も考えられるという事。巣なんかつくられたら目も当てられない。捕捉が好ましいが、今回ばかりはそうとも言っていられない。」

気を取り直したガブリエルが告げる。



「殺害もいとわないってことね…その方が彼等にとっても良いってこと?」

「だって、可哀そうな人種さ、実験体な訳だし。無理やり高度な知能を与えられ、殺戮兵として雇用されて、いざ戦争が終わったら用無し扱い。」


「まあ、それはそれだ。一刻も早く鎮静化を望む。直ぐに行動に移してくれ。」

ガブリエルがそう言い終わるとスクリーンが消えた。



子供丈の一人が言う。

「どうせ、外には出れないよ。アステロイドベルトの闇業者に渡す金もない。」

もう一人が答える

「だとしたら地球?状況はより深刻になったわ…」

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