6
「まったく、無茶するんだから」
「すみません」
保健室で、先生に怒られながら
先生とルリが向かい合って椅子に座り、その後ろに雲雀と蓮太とワカバがいた。ルリの付き添いで試験会場から出てきたのだ。会場はまだざわついていることだろう。仕方がない。
保健室には瓶に詰められた薬草がたくさん置いてある。独特の匂いが鼻につく。先生は治癒士だが、あまり魔法を使わない主義らしい。
「すぐ治るわ」
竜人の治癒能力は人間より高いので、先生はそう言いながらルリの両目に包帯を巻いた。治癒するのが遅くなるため、しばらく目を開けて日の光を浴びてはダメなんだそうだ。
「ルリ。お疲れ」
「雲雀。雲雀ごめんね。私、私」
目に包帯が巻かれているので人型に戻ったルリの表情はよくわからなかったが、きっとすごく泣きそうな表情をしているのだろう。
ルリは口元を苦々しげに閉じた。
「いいよ。大丈夫だよ。俺はワカバのお陰で無傷だし、ルリは目が見えなかったんだから仕方ないよ。無茶をさせた俺も悪い」
雲雀がいくら優しい言葉を掛けても、ルリは自分を責めているようだった。
ワカバもずっと眉をひそめていた。
「あの、ワカバ。本当にありがとうな。お前に助けられなかったら俺は今頃……」
ワカバに向かって死んでいたかもしれない。と言いかけて止めた。そんなこと、考えたくもなかった。雲雀はほんの一瞬でも自分が夢を諦めかけたことを恥じた。自分の決意はそんなものだったのだろうか。
「驚いた。けど、助けられてよかった」
そう言って、ワカバはほっとした表情をする。心なしか顔色が悪い。
「それじゃああなたたち、今日はもう寮へ帰りなさい。そして安静にするのよ」
先生が優しい声で言う。
ルリとワカバはそれに頷いた。
「はい」
ワカバと二人で手を繋ぎながら女子寮に帰って行くルリの落胆した背中を見ながら、雲雀は思う。違反をした鶫とライムのことは許せない。けれど今回のことで鶫たちは減点を食らうだろう。自業自得だ。ルリに怪我をさせたのだから。
雲雀と蓮太は二人を見送った後、保健室の前で立ち尽くす。
「雲雀、どうする。まだ試験やってるけど見に行く?」
蓮太が雲雀にこれからの行動を聞いてくる。
「そんな気分じゃないよ」
雲雀は嘆息を吐く。
「そうだよな」
蓮太も後味が悪かったらしい。渋い顔をしていた。
「ルリちゃん、大丈夫かな」
「大丈夫だよ。すぐ治るって先生も言ってたろ」
「そっちもだけど、精神的な面だよ。ルリちゃんは雲雀を守れなかったって思ってるし、だからあんなに謝ってたんだろ。あの子は意外に、精神面が弱いんだよ」
「そんなこと、わかってるよ」
わかっているのにどうとも出来なくて、胸が苦しい。悔しい。
ルリのことだ。今回のことで飛べなくなってもおかしくはない。雲雀は何も考えていないようで、いつもルリが気分を落とさないようにこれでも気を使っている。心が飛行に影響する。それはよくわかっているつもりだ。
「あんま、落ち込むなよ」
蓮太が言った。
これぐらいで落ち込んでいられるか。と雲雀は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます