二つのクリスマスケーキ

簗田勝一(やなだしょういち)

第1話・二つのクリスマスケーキ

あれは、俺が小学校4年生の冬だった。

通常ならすぐに青森の祖父母の家に行っていたはずなのだが、この年はいつも俺を連れて行ってくれていた当時大学生の2人の叔父と叔母が、バイトが忙しいとかで誰も帰省しないという。

それが相当ショックだったのか、風邪で41℃の熱を出してしまう。

そして熱が下がり始めた頃、遂にその日がやって来た。

物心がついて初めて、東京で迎えるクリスマスとなったのだ。

しかも、親が離婚し母子家庭になった上、母はホステスになったので夜は独りだった。

(ああ~あっ、独りのクリスマスイブかあ)

イブ当日は母が仕事に行った後、そんな風に独りテレビを観ていたと思う。

すると7時頃、ピーンポーン!と、インターホンが鳴った。

玄関へ行ってみると「俺だ」と、叔父の声。

ドアを開けると、白いケーキの箱を持った叔父が立っていた。

「ケーキ?やった~!!」

クリスマスケーキすらも無かったイブだったので、俺は凄く嬉しかった。

叔父が箱からデコレーションケーキを出して、ナイフを入れようとしたその時、またしてもピーンポーン!

(ん?何だよ、こんな時に!)

俺はおあずけを喰った気持ちになりながら玄関に走った。

「俺だ」と、またまた聴き覚えのある声。

ドアを開けてみれば、な、ナント!もう1人の叔父がやはりケーキの箱を持って立っていたのだった。

テーブルの上に並んだ大きな二つのクリスマスケーキ。

しかも生クリームのショートケーキと、バタークリームのショートケーキがワンホールづつ並んでいる光景は実に贅沢だったが、子供ながらにどっちから食べようか気を遣って迷ったものだ。

バイトで忙しいはずの叔父達が、たかが甥っ子の為にわざわざクリスマスケーキを買ってきてくれたことを、それから40年以上経った今でも忘れてはいない。

そしていつか機会があったなら、現在の叔父達の子供(俺のいとこ)に、この話をしてあげたい。

「お前達のお父さんは、大学生時代こんなに優しかったんだぞってね。」



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二つのクリスマスケーキ 簗田勝一(やなだしょういち) @noelpro

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