第二十二話【『日米韓の連携』を否定する】
〝我々は大変に失望している〟
回線が繋がるなり電話口の男は言った。掛けてきたのはジョンストン大統領ではなく国務長官だった。
なにに失望しているのか具体的には言わない。
砂藤首相は察した。
(これは『ロシア軍と中国軍に『北朝鮮を共同管理しろ』と勧めた例の一件だ。やはり外部に漏れたか。ロシアか中国の意図的なリーク、あるいはアメリカの盗聴。いずれにせよここが正念場だ)
(さて、どこまで知っている?)
国務長官はさらに続けた。
〝北朝鮮問題に対応するため米日韓の連携が必要な時に日本が足並みを乱したのだ〟
極めて威圧的な物言いだった。
(まずは『日米韓の連携』から来たか)砂藤首相は思った。
「しかしながら長官、中国・ロシアの協力が得られなければ北朝鮮核問題の最終的解決は不可能だというのも日米韓の共通認識のはずです」砂藤首相は言った。
〝私は日本が足並みを乱していることについて言っているのだ〟
「失礼ながらアメリカ合衆国こそ足並みを乱したのでは?」
〝なに? 日本は我が国に責任転嫁するのか?〟
「かつてアメリカは北朝鮮に対する『テロ支援国家指定』をアメリカの都合で取り消しました。あの時我々は『考え直すよう』働きかけましたが『アメリカの国内法の問題だ』として取り合ってはもらえず結局指定解除を強行したじゃないですか。足並みを乱した過去を忘れて貰っては困ります」
〝私は今のことを言っている! 今は再指定している!〟
「過去のことを棚に上げ『今が大事』と言われても説得力という問題がある」
〝説得力が無いというのか⁉〟
「ええ、端的に言ってそうです。信用というのは積み重ねですから」
〝とにかく北朝鮮の核開発に対抗するため日米韓の連携は必要なのだ〟
「しかし今度は大韓民国の方も足並みを乱しているようですが」
〝乱してはいない。先頃大規模な米韓合同軍事演習が行われたばかりだ〟
「しかし大韓民国政府は『北朝鮮攻撃絶対反対』じゃないですか」
〝それについてはガイアツを掛けて態度を改めさせる〟
「そうしたら今度はその政府が韓国国民に倒されるだけなのでは? ローソクの破壊力というのはなかなかのもののようですよ」
〝……〟
「発想を変えましょう」
〝変えるだと?〟
「いま私が言ったとおり日米韓の連携を維持することは難しく非常に労力を伴います」
〝だから?〟
「問題はこの労力に見合う成果が『日米韓の連携』にあるかどうかです。いわゆる成果主義というやつです。我々の連携は時に各国の都合により崩壊したりもしましたが連携していた時期もあった。さてその時期に北朝鮮に対し何らかの効果が現れたかどうかです」
〝連携が崩れるから効果が現れないのだ〟
「しかし過去の『テロ支援国家指定解除』も、日米韓で連携しているより解除した方が効果があると思ったからやったわけでしょう? アメリカ合衆国の行動から『日米韓の連携』には大した効果が無かった、と言っていいのでは」
〝……〟
「むしろ効果は無いが悪影響だけはある、と考えられませんか?」
〝『日米韓の連携』を全面否定すると言うのか⁉〟
「はい否定します」
〝なんだと?〟
「『日米韓の連携』を訴えれば訴えるほど相手方の結束が固くなるのでは?」
〝相手方?〟
「ロ中北、ロシア・中国・北朝鮮の結束です」
〝ううむ……〟
「『ロ中北の連携』は我々には不利益です」
〝うううむ……〟
「しかも相手方はこちらに分断工作を仕掛けてきている。狙われているのは韓国です」
〝ううううむ……〟
「韓国大統領の言動から分析するにその分断工作、効果が出てしまっているのでは?」
もはや国務長官は何も言えなくなっていた。
「我々の結束は簡単ではありません。むしろ逆に分断工作の方が成果が出やすいのではないでしょうか。これが発想の転換です」
〝日米韓の連携を否定して何をやるべきと言うのか?〟
「したがって日本としては『ロシア・中国・北朝鮮の分断』を提案します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます