中学デビュー

羽宮える

第1話 入学式

高校デビューならぬ、「中学デビュー」。

伸びていた前髪を切り、ワックスで固めた髪。

玄関の鏡に映るボタンを何個か開けたチャラそうな男は俺だ。

小学校では目立つ訳でもなく、ただ平凡と暮らしていたのが嫌になり、小学校卒業と共に中学では絶対に目立つ男子…イケ男子になろうと決めていた。

慣れない薬局でワックスや香水を買い、ネットで人気な男子高校生を検索して服装だって真似た。

全ては今日…中学校入学式の為に。

第一印象は、入学式で90%決まると言っても過言では無い。

中学デビューしたとバレないように、慣れた雰囲気を装う。

母さんの、「そろそろ行くよー!」の声を合図に新しい靴を履いて鞄を持って、母さんと外に出た。


体育館の前に貼り出されたクラス表。

1年1組に俺の名前はあった。

クラスメイトは…、幸いにも、小学校で仲が良かった奴らの名前は無く、小学校でも目立っていた奴らの名前が並んでいた。

女子も、小学校で目立っていた派手な女子の名前が多い。

ぼーっとクラス表を眺めていたら、

「うわっ、田沼と同じクラスとか!」

俺の後ろでクラス表を見ていた女子がそう言った。

田沼…、田沼千穂理。

前髪が長くて、黒くてモサッとした長い髪を垂らしているのが印象的な女子。

小学校からのいじめられっ子で、無口な所からついた渾名は貞子。

田沼と俺はなにも関わりも無い。小学校だって同じクラスになったことはあったかも知れないけど、全く記憶に無い。

「1年生、こっちにクラス順で並んでー」

中学校の先生だろう、野太い声を張り上げて手を上げている。

6人の先生が並んで、口々にクラス番号を叫ぶから何を言っているかわからない。

揉みくちゃになる生徒達の中に、同じ1組の男子を見つけたからそいつに付いていく。

出席番号順で並んで座るらしく、俺は10番だった。

前の9番は眼鏡をかけたインテリ系の男子、後ろの11番は髪の毛を巻いた女子。

とりあえず後ろの女子に「よろしく」と言うと、相手も「よろしくー!」と元気よく返してくれた。

そこからは後ろの女子と話が盛り上がり、「由香里」 、「勝吾」と名前で呼ぶ程には仲良くなった。

先生に連れられて教室に向かう。

歩いている間も、由香里と由香里の友達の七華と話しているとすぐに着いた。

教室の中で教卓の前に立っていたのは若い女の先生。

俺らは指定された出席番号順に席についた。

女の先生は、俺らの顔を見渡すと話し始めた。

「えーっと、はい!今日から1年1組の担任になりました、国語科の日浦です!君達と同じ1年生です!」

よろしくね、と言った先生…日浦先生に、クラスがザワザワとざわつく。

「それじゃあ…、終礼の時間までまだあるから、自己紹介しようか!1番の子から順番に、名前と一言を!スタート!」

突然過ぎる自己紹介にクラスはさらにざわつき、1番の奴が立って自己紹介を始めると、自然と静かになった。

「名前は相川悠太、一言は特に何も無いけどよろしく!!」

髪の毛をワックスで固めた、チャラそうな男子だ。

後で話し掛けよう、相川と友達になればスクールカースト上位も容易いことになりそうだ。

2番は猪坂しおり。由香里の友達。

3番、4番………と続々と自己紹介が終わっていく。

俺の一個前、5番のインテリ系男子は小澤と言うらしい。小さな声で名前を言ったのが聞こえた。

小澤が一言を言い終え、俺の番になった。

黙って席を立ち、脳内でシュミレーションした様になるべく元気で。

「北岡勝吾っていいます、1年間よろしくおねがいしまーす!」

頭を少しだけ下げてから座ると俺の後ろの由香里が立ったのが分かる。

由香里は気だるげに自分の名前を言って、一言を言わずに席についた。

流れるような自己紹介も、田沼の順になった。

田沼は口をモゴモゴと動かしているようだが、全く聞こえない。

田沼はそのまま席についた。

後ろで由香里が小さく「きも…」と言ったのが聞こえた。

俺は振り返って「そうだよな」と由香里に同意する。

俺らが話し始めるとクラスの堅かった雰囲気が柔らかくなり、皆それぞれに話し始めた。

また騒がしくなる教室。まだ終わっていない自己紹介。

叫び声や笑い声で溢れる教室に、よく通る声が聞こえた。

叫び声や笑い声に負けず、その声の持ち主は「文原あかり」と名乗った。

黒い髪をポニーテールに纏めている女子。

文原は「よろしくお願いします」と言って、静かに席についた。

また、由香里と話し始めるといつの間にか自己紹介は終わって、終礼の時間になっていた。

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