二十九「能力お披露目ナビィちゃん」

 「ティターニア、危険だったらすぐ戻ってくるのよ? あと、忘れ物はない?」


 「大丈夫だって、心配性なんだから」


 「だって……」


 なんだろう、弾けたお母様可愛い。

 心配性なとことか、娘大好きすぎでしょ。

 それにエルフって事もあって美人だし。

 ちなみにラフィーさんは馬車で体育座りしてます。

 内心やっぱ傷ついてる様子。


 「おい、別れの挨拶は済んだか? そろそろ出るけど……忘れ物ねぇか?」


 「無いよ! え、なんでウチってそんな心配されてんの?」


 まぁ、ドジっ子母の娘ですし遺伝があったらドジっ子属性付与されてそうだし。

 出会ったばっかのクレイジーさとハングリーさはどこへいったのやら。


 「ティ、ティターニア……?」


 「何、お母様?」


 「……い、いってらっしゃい。気をつけてね」


 お母様は小さく手を振る。

 ……なんだろう、仲直りしたけど少し照れているお母様にグッとくる。

 人妻じゃなきゃ攻略対象でしたわ。


 「……うん、行ってきます」


 ぼしょぼしょと恥ずかしがりながらも手を振り返すロヴ。

 ……エルフって可愛いよね。食べちゃいたい。

 ……今、妖艶の悪魔さんが乗り移った気がしたが僕は元気です。


 「さ、行こ、アサヒ」


 「お、おう」


 ロハス出発の巻。

 ……案の定、出会いの噴水には行けなかったな。まぁ、行っても妖艶の悪魔ぐらいしか会えないだろうけど。

 あの人、ことごとく俺と会うけど何が狙いなんだろうね。


 # # # # # #


 ロハスを出て、また平野へ戻ってきた。

 今回の目的地は北の国らしい。

 雪が降るほど気温が低い場所らしく、俺らは厚着を用意しておいた。

 ……ふと、思ったが魔王妃倒したら何かあるのかな。別に今更現実に戻る気もさらさらないが現実でやり残したことは……特にないや。

 強いて言うなら女の子とニャンニャンしたかったけどそれはこの世界でもできることだ。問題ない。


 「アサタン、休憩とるよ」


 「おう」


 馬車の小窓からナビィが顔を出し、休憩を入れることを言われた。

 俺は残り2人にもその言伝を伝播し、止まった馬車から降りた。

 ラフィーとロヴは何やらボードゲームを嗜んでいた。

 こら! 旅にゲーム持ってきちゃダメでしょ!

 ……別に俺は先生ではないけどね。

 馬車の中で仲間外れ感凄くて寂しい。

 ルール教えてもらったけど全然わかんない! 元々、ボードゲームは苦手です。

 あと運任せのゲームも苦手です。

 良い時はいいけど悪い時はとことん悪い。

 

 「よっと……んん~肩凝った腰凝った腹減った」


 馬車から青空の下へ踊り出ると体がまぁ痛いことこの上ない。

 人が増えて伸びるスペースが少なくなり、ちょっとだけ負担が増えた。


 「チチッ!」


 「ん? ……ネズミ?」


 何かの声が足元から聴こえて目をやると、背中に宝石のような煌めく石を乗せたネズミらしき魔物がいた。


 「よっと、すまねぇな」


 「チーッ!」


 俺は腰の剣で魔物を一発で仕留める。

 すると、魔物は四散してお金と背中に乗せてた石がドロップした。


 「ナニコレ、キレイデスネー」


 「アサタン、それは炎方石だよ。貸して」


 「お、おう。流石鍛冶屋の娘」


 俺は言われるがままに石を手渡す。

 すると、ナビィは俺が持っている剣を奪う。


 「丁度いい、肩慣らしで」


 そう言ったナビィの魔力が高まる。

 ナビィは剣の上に炎方石を置くと金槌でひと叩き。

 剣が赤色の光を纏って変化……は特にしてないや。

 光が薄長く剣を覆うように伸びて、消える。


 「う~ん……まぁ、初めてだし。しょうがないか」


 「なんかしたの?」


 「ほい」


 俺の手元に戻ってきた剣は何故か熱を帯びていて、今すぐにでも何かを斬ってほしそうにしていた。

 やる気が熱気になるのは元プロテニスプレイヤーさんで十分です。


 「なんか試し斬りしてよ……あれとか」


 ナビィが指差したのは温厚そうな魔物。

 牛によく似た姿で四足歩行。

 もう牛でいいや。魔牛とでも言っておくか。


 「……まぁいいや。すまねぇな。許せよ」


 俺は足音を盗んで魔牛に近づく。

 魔牛は後ろの俺に気がついたようだが大して興味も持たず、平野の草を食べ続けている。


 狙うは横薙ぎ一閃。

 剣を腰に挿した鞘に戻して、抜刀する。

 イメージは完璧。相手も動かない。

 ……いける。


 「っらぁ!」


 剣の光の残像が綺麗に横薙ぎを見せる。

 ワンクッション置いて、炎も剣の光を追う。


 「ブモォォ!」


 魔牛は叫びを出した頃、既に体は半分に裂かれていた。

 そして、炎とともに消失する。

 …………ワッツ?!


 魔牛からは金と焼かれた肉がドロップした。

 そのドロップ品の周りにある草は未だ火がついていた。

 ヤイタマギュウノニク。をゲット。

 炎で殺したら火が通ってるとか楽な世界もあったもんだ。

 冷凍食品なら氷属性ってか。

 


 「……え、何々? 何これ、めっちゃ凄いんですけど。なんか炎がブワッて! やば、超強いじゃん!」


 俺が歓喜の舞を踊っていたら、剣から赤色の光が灯る。

 その光は剣から離れるように失われていく。


 「……やっぱりね。感触でわかった。……今後の課題にする」


 「ちょ、ナビィさーん? 説明はよ」


 「炎方石で炎属性をエンチャント……武器に属性付与。私があの洞窟で身につけた能力。初代ゴブリン王が扱っていた『魔工作』の上位互換。こんな事はお父さんでも出来ないよ」


 へ~。すっごい。

 なんかちゃんと強くなったんだね。

 ナビィさんに属性派生が出来るようになりました。テレレッテテー。

 ……はい、すいませんね僕は何も得られなくて。

 兄妹共々謝罪を致します。まる。

 こういった目に見えたパワーアップを見ると再三申し訳なくなるわ。

 俺は熱の失われた剣を眺める。


 「……もしかして一回限り?」


 剣の刃を見ると刃こぼれが酷く、ボロボロ。

 もしかしたら耐久値をかなり使うのかもしれない。


 「まぁ、ボロボロになっちゃうのはその剣だからだけど、一回限りなのはアタシがまだこの力を使いこなせてないだけ。……がんばるね」


 お、おぅ。努力家のナビィさんにときめいてしまった。

 俺には心を決めた妹がいるのに!

 ……その場合、ただの家族愛だが。


 「んん〜、勝った勝った。気持ちいい晴空だね!」


 「グスッ……ラフィーちゃん強すぎ……」


 丁度、2人が馬車から降りてきた。

 ……なんかロヴ泣いてね?


 「およ? どったのお兄ちゃん」


 「いや、別に……丁度獲物がいたから試し斬りがてら食料確保してただけ。飯にしようぜ」


 「そだね。あ〜お腹減った! 美味しいご飯を構成するのは空腹感と達成感と幸福感だね!」


 「……降伏感しかないよ」


 ロヴちゃん……ちょっとだけお肉多目に盛ってあげるからね。

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