二十八「落ち込むなラフィー。朝は必ずやってくる」

 「ホント悪かったって……機嫌直してくれって!」


 俺がラフィーに成長限界なんて言うから不貞腐れてしまった。

 落ち込んだ彼女を慰める軍へ出動要請!


 「すまない、ロヴ」


 「え、ウ、ウチ? えーと、ラフィーちゃん、もしかしたらなんかの不具合かもしれないからもう一回やろうよ!」


 「……うん」


 ロヴは再三魔力を高める。

 ……ほんと、すまねぇ。お兄ちゃんが不甲斐ないばっかりに……

 最初よりも手際を思い出したのか洞窟チャージが早くなっていた。


 「ラフィーちゃんいいよ〜」


 「……ぶべ! ……ぐすっ」


 あちゃ〜、見てらんねぇ……

 ラフィーは二度目も見えない壁に拒絶されていた。

 

 「いやいや! 三度目の正直!」


 「ぐへっ!」


 二度あることは三度ある……やめて! もうラフィーのHPはゼロよ!

 いけ、第二陣!


 「すいません、フィラさんお願いできますか?」


 「え、ええ。なんとかやってみます」


 この中で唯一の母、子を慰める事には慣れている筈だ。……慰めきれてないから家出されたんだろうけど。

 んん! なんにせよ頼みますよお母様!


 「ラ、ラフィーさん。すみません私の役不足でした……」


 「ぐっはぁ!」


 誰かぁーー!! 温かい飲み物をー!

 お母様! そこは『力不足』ですね。

 意味が「私の力が及ばない」から、「私の力に見合わない」になってますね。

 もはやラフィーは凍りついている。

 くそ、だがまだ大丈夫だ。真打ちいけ!


 「もう残ったのはお前だけだ……頼んだぞ」


 「はぁ、アタシね。わかってたけど」


 ナビィちゃんはラフィーの肩に優しく手を置くと


 「ラフィーちゃん。大丈夫、アサタンは何も得られなかったから。ラフィーちゃんみたく拒否されるならまだしも何も出来ない無能だったから」


 ぐっはぁ! 攻撃のベクトルが変わっただと!

 誰か……優しく抱きしめて……

 あ、妖艶の悪魔さん以外で。

 今、一瞬だけ妖艶のニヤついた顔が浮かんだ。マジ恐怖。


 「そう……だよね、お兄ちゃんは何もできてなかったからね!」


 「そうそう」


 そうそうじゃねぇよロリっ子軍。

 いい加減キレるぞ。

 まぁ、立ち直ってくれてよかった。

 努力し続ければ何か達成はできる。

 努力して諦めなければ高いところまでいける。

 もし、力が及ばなくて途中で諦めてしまっても、今いる位置よりは全然高いところにいるはずだから。

 だから、努力を怠るな。


 さて、お兄ちゃんらしい言葉はこんなところかな。……お兄ちゃんより名言っぽさが出た気がするが。


 「とりあえず今後の作戦会議、いっちゃいますか」


 俺は変に凝った身体を解しながら部屋に戻る。


 # # # # # # 


 「……やっぱ美味えな。何の葉っぱ使ってんのかな」


 「それはグレモスという花の花弁を入れてます。とても甘い香りでリラックスできるでしょう? 私のお気に入りの花紅茶ですの」


 さすがエルフ。花が似合う。

 お母様はさっきの慰めでドジっ子属性がある事がわかった。

 だからどうという事もないが。


 「とりあえず、北の魔王城へ行こ。その前に北の国に行こ。そこから一回、家に帰ろ」


 「なーんか適当だな」


 「ん? そう? 割と考えたんだけど。北の国なら誰か仲間になってくれる人もいるかもだし、寒い北の大地の民族だから寒さにも強くて安心じゃない? 後は、魔王城攻める前に一息つきたいじゃん」


 ラフィーは存外深く考えていて、確かにその通りだと思った。

 まぁ、乗るか反るかで聞かれれば勿論、イエスマイロードだ。

 ……俺のポジションってリーダーだよね?たまにラフィーが仕切りすぎて、もはや画面を眺めるプレイヤーな気分だよ。


 「確かに仲間は欲しいな。出来れば魔法使える奴。……それに3人じゃ心許ないし」


 「3人?」


 「え? 俺と、ラフィーと、ナビィちゃんでしょ?」


 「お兄ちゃんマジで言ってんの?」


 うわ蔑む目だ。アサタンの防御力が三分の一まで下がります。


 「えっ、逆に誰いんの? ……もしかして俺の知らないところでまた人員確保した?」


 「ねぇ、アサヒ! ウチのこと忘れてない?」


 プクッと可愛く膨れたロヴが俺の顔の横に現れる。

 ちょっと近すぎて俺がビビってしまった。

 てか、その反応超可愛い。揶揄って正解だったわ。ごめんね。


 「冗談冗談。結婚するんだもんな」


 「そうそう……っておい!」


 「ははは。冗談だって! 痛っ、叩くなよ! …….なんで駄々っ子パンチなの?」


 揶揄いに揶揄いを重ねてやるといよいよ暴力に走るロヴ。

 パンチの仕方がポコポコと可愛らしい。

 ……ホントに大丈夫かなぁ。


 「まぁ、そこはおかあさ……フィラさんが許してくれたし。俺も責任持ってお前を連れてくよ。それか何か? 感動的なストーリーがないと仲間意識薄くなっちゃう的な?」


 イメージしたのは某海賊王のクルー。

 なーんで一人一人感動する物語があんだよ。こっちなんて兄妹と鍛冶屋の娘と元家出少女だぞ。

 ちなみにフィラさんをお母様と言いそうになったのは秘密な。俺なんかがお母様呼びしたら殴られそうで怖い。

 それはそれでやられてみたいかも。

 おっといけねぇ。紳士さを忘れていた。

 冷静になれアサタン。びぃーくぅーる。


 「いや、そんな事ないけど……流石に存在無視は悲しいよ!」


 「ははは、よく覚えておくよ」


 乾いた笑いだって? そりゃあ、次揶揄う為の材料なんだからここで笑ってしまえばオジャンだ。次笑うときは次揶揄った時。

 これ、人を小馬鹿にする基本!


 「……結婚は冗談じゃなくていいのに」


 「ん? なんか言ったか?」


 「なんでも!」


 エルフの少女は綺麗な髪を何か誤魔化すように手櫛をした。

 

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