二十五「ピリピリ親子デレデレ親子」

 「ハンパねぇなおい……」


 俺らは軽く朝食を済ませた後、ロヴの家へと来たが家というよりもはや館だ。

 洋館って初めて見ましたよ、僕。


 「ナハハ〜、ウチも改めて見ると……やっぱ大きいよね……はぁ」


 なんか普通に使用人とかいそう。つか絶対いないとダメな大きさだろ。

 なーんでこんなに大きいんでしょうかね……


 「あれ? 入んないの?」


 「いや、少しは躊躇えよ。このデカさ見て何も思わねぇのかよ」


 でもまぁ、ウジウジしてたら何も変わらないのは正解なので


 「行きますか」


 # # # # # #


 「いらっしゃ……貴女」


 中に入ると美しいエルフの女性が出迎えてくれた。しかし歓迎はしてないようで。

 それもロヴの存在がすぐにバレたからだろう。

 

 「ただいま……お母様」


 「そう、まぁ、話は中でしましょう。玄関先でする事でもないわ。そちらは……お客様でいいのかしら。どちらにせよ、ついてきてください」


 俺らはお淑やかな女性に引かれ客間へ移動した。

 ちょっと強気なところとかシングルマザー感すごいな。偏見だけど。


 「さて、貴方達のお望みはなんでしょうか?」


 ロヴのお母さんは俺らに紅茶を出しながら本題へ入る。

 ……使用人いないんすか。いそうな雰囲気だったんですがね。


 「……俺らは秘められた力の解放とやらをしてほしいんです」


 すると、椅子に座って紅茶を一口。

 完成された所作に目を奪われる。


 「そう。この国を訪ねる理由は温泉か、それくらいしかございませんものね。……力の解放には私だけでなく娘も必要なの。……生憎、連れてきてくれたようですけどね」


 お母様は先程から遠い目をして答えてくれる。

 しっかりと俺の目を見ている。

 だけども俺の目を通して誰かを見ている気がする。


 「ロヴちゃんは頑張ってきたんでしょ? お休みくらい欲しいに決まってるじゃん!」


 するとお母様は頭を傾げて顎に手を当てる。


 「……ロヴ?」


 まるで聞き覚えのない……いや、これ本当に分かんないやつだな。

 チラリとロヴを見ると顔面蒼白。俯いて唇を噛んでいる。


 「酷い! それでもお母さんなの?! 娘さんだよ、なんでそんな事出来るの!」


 あー、あのー。ラフィーちゃん?あんまりお母さんの事イジメないであげてね。多分、ロヴって……


 「私の娘は、そこにいる『ティターニア』だけですが……?」


 「え」


 やっぱり偽名でしたか。

 何となく察してはいたけどね。

 え、ティ、ティターニア?! あの妖精の長的なアレ?

 確かに本人が自分は妖精だー。なんて言ってたけど……そんな安直なまでの名前だったのか。

 俺は溜息と蔑みと怒りを持ってロヴことティターニアを見ると顔面紅潮。真っ赤。ゆでだこ。


 「え、え、え、ロヴちゃん?!」


 「ごめんねごめんねごめんねごめんね……」


 ずっと謝り続けるロヴことティターニア。

 俺的にはロヴの方が言いやすいからロヴで統一しよっと。

 ラフィーには受け止めきれてないようで処理能力を簡単にオーバーフローしているようだった。

 本当に頭から湯気が出て、謎の爆発音とともにキノコ雲が出てきた。多分、なんも分からんくなったと思うけど。

 ここからはお兄ちゃんの仕事ですかね。


 「それで……お母さん」


 「フィラ」


 「んん! フィラさん。俺らの願いは叶うんですかね」


 ここまできたら後は自分次第。という事でロヴは放置! 大事なのはいつだって自分。それだけだぜ少年少女!……この場の少年は俺しかいないけど。少年というか青年だけど。


 「そうですね……その子が『帰って』くるならば容易いでしょう」


 「そうですか……お母さ、んん! フィラさん的にはどうお考えで?」


 「私はその子の自由でいいかと」


 あれ、思ってた答えと違うなぁ。

 なんかもっと頭ごなしの否定やらなんやらされそうだったんだけど。

 やはり、話して分からん人間などおらんのだ。これで証明されたな!


 「と言いますと?」


 「ティターニアが望むままに。貴女のしたい事を優先するわ。……私も少し、いえ。大分貴女に負担を掛けてしまったから」


 お母さんの遠い目が下を向いた。

 俺は紅茶を一口飲んで話を進める。

 今度は親でなく子だ。


 「だってさ。……ロヴ、いやティターニアの方がいいのか?」


 「ロヴ」


 なーんでこの二人って即答しちゃうかな。

 ちょっとは空気入れてくれないと脈ナシみたいで辛いんだけど……


 「んん! ロヴ。昨日、決めたんだろ。やりたいこと。母さんに話してみろよ。逃げないって一歩踏み出せたんだろ?」


 俺はこれ以上の背中押しも野暮だと思い、紅茶を嗜む。

 うーん、俺って舌も鼻も特出してないからそこまで分からないけど……この紅茶いい香りだなぁ。

 茶葉ではなく花の香りがする。

 それって紅茶なのかな? 俺ってそこら辺詳しくないけど。


 「お母様」


 「はい」


 「ウチ……」


 「……はい」


 「この、アサヒと結婚する!」


 「……ごふっ!」


 俺はお母様と一緒に紅茶を吹き出す。

 ちょ、ちょっと? ロヴさーん?!

 あの、ラフィーさん? 俺より驚くのやめてね。可愛いよ?

 あと、ナビィちゃん? 腰に携えた金槌に手を当てないでね。怖いよ?


 「ちょ、は? 何々? ロヴさーん?」


 「ちょっとティターニア、説明なさい!」


 「あ、あ、あ、ごめん間違った! えっと、だからね。……アサヒが好きだから手助けしたい。アサヒ達は……魔王妃を討伐するらしいんだ。ウチはそれについて行きたい!」


 俺もフィラさんも手を震わせながら落ち着かせるように紅茶を同時に飲む。

 全く、驚き過ぎて心臓止まるか……と……ちょ!ラフィーさーん?白目向いてませんか?

 俺よりも先に落ち着いたお母様は軽く溜息をついた。


 「この際理由がどうあれ、それが貴女のしたい事ならば……いいわよ。ただ、一つだけ。……その、なんて言うか、えっと、死なないでね私の可愛い娘」


 上目遣いアーンド恥じらい。

 全く、エルフは最高だぜ!

 ……あのお母さんエルフは攻略対象にはならんのですか?


 「うん! お母さん、大好き!」


 二人の温かな抱擁を見てこちらも心が温まる。

 やっぱ親子愛って素晴らしいよな。

 俺は二人の過去を知らない。

 けれど、彼女らの未来を建設すればいいじゃないか。

 もちろん、その綴りはハッピーだぜ。

 

 「そんで、力の解放とやらはいつからやるんだ?」


 一人だけ冷静に物語を進めてくれるナビィ。助かったよ。


 「そうね、ティターニア?」


 「うん、今から!」


 なーにこの二人。なんでそんな抱きしめてんの?

 お母様のデレが出るのも早いけど娘さんのデレも随分早いですねぇ。

 やっぱり親子なんだなぁ。あさひ。

 つか、力の解放って、今から?!

 この空気の後に? いやまぁ、いいけどさ。


 「とりあえず、ラフィー起こすか」



 

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