二十六「能力覚醒成功1/3」

 ラフィーを起こした後、全員館の裏にある洞窟の前へ移動した。

 この洞窟の中で力の解放もとい試練はやらされるらしい。

 しかも一人ずつしか入れないらしい。


 「ということでトップバッターはどうする?」


 元気を取り戻したロヴが俺ら3人の目を見てくる。

 正直、ここで名乗り上げるアホはいない。

 流石のラフィーも何があるかわからないので躊躇しているようだった。


 「はぁ……二人ともチキンだから行かないでしょ。アタシ行くわ」


 「おっ、ナビィちゃんさっすが! ウチとは大違いだね!」


 ロヴはナビィに身体を擦っている。

 まるで猫が甘えてくるように。……いや、犬かな?


 「うるさい。早く始めよ」


 とか言って拒否しないナビィの姉貴マジカッケェっす。さすツンデレ。


 「じゃあ、残り二人はこちらまで下がってね。……お母様」


 「ええ、行くわよ」


 俺らが地面に引かれた白線まで下がる。

 フィラさんはロヴの肩に手を置き、ブツブツと何か呟いている。

 その先にいるロヴは割と簡単に魔力を高めている。

 ん? なんでわかるかって? そりゃああの周りだけ石が浮いたり葉っぱが落ちたりしてんだ。なんとなく魔力が高まってるってわかるだろ。


 そして、魔力の揺らめきが最大に達すると洞窟の入り口付近にある鉱石が煌めきだした。

 そんな中、ナビィは恐る恐る洞窟へ踏み入れる。


 「あの……申し訳無いのですが少し急ぎめに入っていただけます? この子の魔力をコントロールするのがとても大変で……あまり長続きはしないの……です!」


 うっわめっちゃ辛そう。暴れ犬を散歩させてるイメージなのかな。俺にはそう見えるけど。


 「はい。今行きますね」


 とは言っていても足が震えているのが目視できる。

 ナビィと言えど女の子だ。怖い事の方が多い。だけど不甲斐ない兄妹よりも先陣を切ってくれたのは優しさなんだろう。

 やっぱりナビィさんは不器用なツンデレさんなんですかね。


 「じゃあ……閉じまーす!」


 ナビィが完全に洞窟に入ると様々な色をした鉱石が地面から飛び出てきて入り口を塞ぐ。

 無事を祈ってるぞ、ナビィ。


 # # # # # #


 「ううううぅ……怖ぃ……」


 見栄張って先陣切ったはいいものの中は暗くて怖い。

 逃げ道を振り返ってみても入り口が閉ざされている。

 完璧、試練をクリアしないと出れないシステムだよね……


 「アタシの馬鹿! 痛い……」


 壁に頭をぶつけても馬鹿は治らないようで。

 そもそもアタシの秘められた力ってなんなんだろう。

 魔法とかだってゴブリンのクォーターで人の血が強いから凄く上手に鍛冶が出来るくらいだ。むしろそれ以外はからっきしだ。


 「はぁ……お? 明るい」


 私がナヨナヨしながら歩いていると奥の間に辿り着いたようだ。

 開けていて明かりがたくさんあり、円形の広間。

 真ん中に一つ、水が張ってある台が置いてある。

 大きさは私の全身が入る程の円形。

 けど、深さはそこまで無く、足首が浸かる程度だと思う。


 「やぁやぁ。よく来たねお嬢さん。試練を乗り越え力を手にする事が出来るかな」


 ニタニタと笑う小さな老人が前から歩いてきた。

 この広間への通路は私の後ろしかないのに。

 

 「俺は俺は、作られた存在。俺の姿が何に見えるかは貴女次第よ。ニョホホ」


 胡散臭く笑う老人を見る。

 特徴的な緑の肌。

 人間の半分ほどしかない身長。


 「……ゴブリン?」


 「そうかそうか。君にはゴブリンに見えるか。まぁいい。姿形なんて関係ないよ。さぁ、後がつっかえてるんだろう? 早く終わらせようか」


 老人はヒタヒタとアタシの横まで歩いてくる。

 手を引かれ水の台の真ん前まで移動する。


 「今から今から、この水をよぉく見ているんだよ。ただじぃっと見ているだけでいいんだよ。何も怖がらないでね。何があっても見続けてね」


 私は言われるがままに水を見始めた。

 水面に揺らぐ自分の顔と見つめ合う。


 「よぉくよぉく、見るんだよ。ふひひ」


 怪しい笑いを物ともせず、ひたすら見続ける。

 鏡で見る自分の顔とは違い、なんだかアタシを笑っているかのようにも見える。


 「来るよ。来るよ。ヒヒヒ」


 来る。何が。でも、怖がってはいけない。

 それを遵守しなくては。


 そう思った刹那、水面に飲み込まれた。

 吸い込まれるように水に身体を引かれた。

 深さなんて浅い筈なのに上を見上げれば明かりが遠い。

 だんだんと沈んでいく。

 息はしていないのに苦しくない。

 明かりが米粒ほどになると静けさが待っていた。

 そこはまさしく深海のよう。


 「はいコレ。3……2……1」


 「ちょ、えっ?!」


 後ろから誰かに声をかけられて何かを渡される。

 しかもカウントダウンを始められた。

 アタシは焦ってパニックになり、なにも出来なかった。


 「残念」


 姿を確認すると姿は無かった。

 黒い人型のモヤが揺らいでいる。

 表現するならば、そう。影。

 そのシルエットはどこかで見たことがある。

 つい先程まで眺めていたほど見覚えがある。


 「もう一回、はいコレ」


 手渡された何かをはたき落とされ、また新しい何かを手渡される。

 カウントダウンが始まる前にそれを確認する。


 「……光?」


 「ピンポン。正解」


 手に持っていたのは形のない光だった。

 なのにしっかりと重さを感じる。

 アタシは何かよくわからなくて光と答えたが正解だったようだ。


 「次、はいコレ」


 「……暗闇……闇の玉……闇?」


 「ピンポン。正解」


 今度は禍々しい暗闇を手渡された。

 またもや正解らしい。

 そこからは端的なクイズが延々と繰り返される。


 「次、はいコレ」


 「……炎」


 「次、はいコレ」


 「……氷?」


 「次、はいコレ」


 「空気……風?」


 「次、はいコレ」


 「……木の玉?」


 「次、はいコレ」


 「土?」


 「次、はいコレ」


 「……金属、鉄?」


 「次、はいコレ」


 「何これ?」


 最後に手渡されたのは何か。

 理解しがたい何か。

 光のように見えて禍々しさを感じる。

 熱さと冷たさを持っていて、周りで気泡が飛び出ている。

 硬いようで柔らかい。どこか木の香りもする。

 まるで、今までの物質を合わせたように。


 「コレはね、力だよ」


 「力?」


 私がそう聞くと影がゆらり、ぼやける。


 「うん。力。君にあげる力。全ては全てで成り立っている。一つとして欠けてはいけない。鍛冶屋なら聞いたことあるでしょ。コレはそれの集大成。君の本質。君の足りないカケラ。君のもの。コレはね」


 「……鍛冶の心得。私の『魔工作』を育てる種」


 「……正解だよ。短い時間でよくわかったね。良い子だね。コレを持って帰り。君の能力が格段に向上している筈さ」


 そう言うと影は水に溶けていく。


 「勝手口はアッチだよ鍛冶屋さん」


 上を指して影は消える。

 私は引き上げられるように水面に引かれる。

 そして、身体が全て水から出る。


 「ぶはっ! はぁっ……はぁ……ごほっ」


 息が整い、頭の回転が通常に戻って様々を確認する。

 濡れているのは顔だけ。

 顔だけを水に浸けていたようだ。

 あんなにもリアルに全身が沈んでいったのに。


 「おかえりおかえり。ヒャヒヒ。なんだいそりゃあ。キヒヒ! 成る程……お前、ゴブリンとのハーフ、いやクォーターだな! ギャイギャヒヒ! それはな、初代ゴブリン王の専属能力……『魔工作』で作る、補修するの他に特質変化をもたらす能力だぜ」


 私はクォーターである事を当てられたが、この胡散臭さには注意は勝てず、特に問題視しなかった。

 だけど、引っかかっているものはあった。


 「特質変化……?」


 「そうだなそうだな……例えばドラゴンに雷が有効ってよく聞くだろ? だからアホどもは雷を魔鉱石に封じて遠投していた。けど、その能力があれば武器に雷を宿せる。……雷どころか全ての属性をな。ガヒヒ!」


 「なんでそんな事知ってるの?」


 「俺が俺がゴブリン王だからだ。アヒアヒアヒ! もっとも、他の奴だったらエルフクイーンやらオークナイトだったりするがな! お前に秘められていたのは王の素質、魔力、魔法だったって事よ。ナシシシ!」


 えっ、アタシって意外と凄い?

 いきなり王の素質とか言われても照れる事しか出来ないや。


 「さぁさぁ。帰れ。もういるべきじゃない。欲して手に入れた者は二度と踏み込めない。欲する力が無いからな。じゃあな」


 別れを突然として告げられると広間の明かりが消えた。

 代わりに帰り道の足元が光っている。

 まるで早く帰れと言わんばかりに。


 「……能力覚醒成功って事でいいんだよね」


 アタシはいち早く報告したく思い、冷静なスキップをして入り口まで戻った。

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