二十三「能力開示失敗」

 「お兄ちゃん、なーんでそんなにグッタリしてるの……?」


 温泉でも妖艶で淫乱な悪魔に襲われたからです。

 とは言えないので(健全な女の子達には)


 「ちょっとな……気持ちよくて逆上せたんだ……」


 「そうなの? 確かに温泉気持ちよかったもんね……でも長風呂は良くないよ?」


 「へいへい、次から気をつけますよ」


 ふと思ったんだが妖艶の悪魔さんは俺が一人の時にしか襲ってこないよな。

 もし周りに人がいても遠ざけるか眠らせるかで対処する。

 どんだけ俺と2人きりになりたいんだよ、もはやヤンデレの域だよ。


 「ご飯どーするの?」


 「3人で食べていいぞ……食欲ねぇわ」


 まぁ、おかげさまで性欲は有り余ってしまいましたが。

 ……幼女3人がいなくなった部屋でナニするつもりはないぞ。決して。


 「ふーん。じゃ、行こっか」


 ラフィーを先頭にナビィとロヴは部屋から出ていく。

 あぁ、しんどい。なーんであの人俺の事を襲うんですかね。そろそろ身がもたないぞ。いや、実際持っていない。

 うーむ、こう床に一人で伏しているとまた来そうで怖いな。


 俺はラフィー達よりも先に襖で仕切られた窓際の部屋で休んでいる。

 なんやかんやで逆上せた頭達を冷やして冷静になるためだ。

 むしろ、こんな弱々しい姿は誰にも見せたくない。


 「マジで何者なんだよ……何で俺ばかり狙うんだ? ……匂いがどうこうって言ってたけど……」


 別に俺はループ能力を手に入れている訳でもないしそれをする因子も取り込んでいない。

 それを確かめるために一度死ねばいいのだとは思うが、生き返る保証が明らかにない。

 ここで生き返れなかった時の方が怖いよな。


 すると、だんだん目が霞んでいく。


 「んぁ? 別に眠くねぇ……ぞ?」


 呂律も回らなくなり、瞼が重いので無理せずに閉じた。


 # # # # # #


 「おぉ、アサヒ。久しぶり……おいっす!」


 「は?」


 先ほどの眠気が晴れたと思ったら知らない陽気なおっさんが目の前にいる。

 俺の名前を知っている人物。一体誰だ?


 「おーおー。やっぱりガブリー似だな。つか、俺の要素なくね……?お父さん少し悲しいぞ」


 「は? お父さん?」


 「そう! 俺はお前の親父だよ。……アサヒ。悪かったな、妹が腹ん中にいる時に出て行ってな。俺も殺されちゃったからさ、しゃーないだろ?」


 そう言った親父は笑いながら俺の頭をぎこちなく撫でてくる。

 少しこそばゆい気持ちになったけど嫌な気持ちはしなかった。


 「母さんも死んじゃったし残ったのはミカだけか。ほんと、面目ねぇぜ息子」


 本当に悔やんでいるのかわからないような陽気さで言葉を紡ぐ。

 胡散臭い。そんな雰囲気が強かった。


 「さて、時間も無いしとっとと要件を済ますか」


 「ちょっと、待て。確かに死んだ親父だって言うならなんでこんな所に……つか何処ここ?」


 もしかして俺の脳内世界的な?よくあるヤツじゃねぇか。


 「うむ、ここはお前の心の世界。霊体だが侵入する事は出来るぜ。一番、肩入れしていた人物にのみな。だから、お前以外には入れない。まぁ、今のお父さんは思念体だと思ってくれよ」


 そして、いきなり真面目な雰囲気を醸し出すと本題へ入った。


 「さぁ、異世界は楽しかったかい? いや、お前の記憶はないから現実世界だとは思うがな。んでまた干渉を受けてコッチに戻ってきた。災難だな息子よ。……不運なところは俺似か……ごめん。……んでだな。お前には一つだけ能力があります!」


 えっ、ナニその急展開。そう言うのって大体異世界きて序盤に教えてもらうんじゃないの?


 「それはな……」


 ここで謎のノイズが走る。

 親父らしい人物は顔を歪める。

 感情的な表現ではなく、実際にゆらゆらと顔が歪んでいる。


 「しま……たな。妹……近……から……干……渉が強くな……」


 「おい! なんだよ、ハッキリ言えよ!」


 「出来たらやっとるわ!」


 言えてんじゃん……

 されど歪みとノイズは消えなくて。


 「長居しすぎたな。お、鮮明になったな。今がチャンスだな。んで、お前の能力だけど、俺から引き継げたのが一つなんだ。まったく、この出来損ないの息子め! ……なんて言わないよ。愛してるぜ息子よ」


 「いや、そう言うのいいから早くしてくんない? また聞き取れなくなるからね?」


 「はっ。照れ隠しも可愛いぞ。そうだな、早く言わねばな。お前が俺から引き継げたのは……先……走り……っあ」


 ぷつり。映像のように親父らしき人物の姿が失われる。

 そこからは虚無の闇が永遠と続き、声を発しても反響音のしない空間に俺だけが取り残された。


 「能力……先走り?」


 ちょいちょいちょい! やめろよ、下世話なネタで終わっちゃったとか!!

 先走りって……親父、マジか。いや、俺もマジか!

 何してくれてんの? あ、ナニしてんのか。はは! じゃねぇな。うん。

 全然いらねぇ能力だけ身についたのかよ……つかそれ先天性だったんだ……俺っちの能力って言われて喜んだ俺が馬鹿だったわ。


 後悔と怒りに悔やんでいると目の前に白が迫ってくる。

 俺はたちまち飲み込まれて、次に見えてのは木製の天井だった。


 「およ? や〜〜っと起きた。お兄ちゃん。おはよ!」


 天使。……じゃなくて。


 「お、おぉ。俺、寝てたのか。今何時?」


 「まだご飯終わった後だから21時位だよ」


 「そっか。ありがと」


 異世界も現実世界も時間の流れだけは変わらないため、時の読み方もそこまで差異はない。

 そりゃあ異世界でも人間なんだから考えるのは一緒だもんな。


 「なんかうなされてたけど嫌な夢でも見たの?」


 嫌な夢……夢ではないな。多分。

 言うならば


 「能力開示失敗ってところか」


 「ナニそれ意味わかんない」


 俺もだよラフィー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る