十八「夜営を襲う黒い影」

 俺らは妖艶の悪魔との一方的な邂逅を果たした後、陽が落ちたので焚き火をしてキャンプなうでございます。


 「なぁ、ホントにこんなんで大丈夫なのか?」


 「火を得意とする魔物はここら辺だと出ないんだよ」


 俺はナビィちゃんの言葉を信じて特に周りに警戒をしていない。

 というのもここら辺の魔物は火が苦手で、近寄ろうとはしないらしい。

 ちなみに今日の晩ご飯は兎の丸焼きです。


 「おっ、意外とイケるな。コレ」


 ナビィちゃんは料理も出来るようで器用さはパーティーにとって不可欠の存在である。つまり、中々重宝する人材だ。

 やめてよ?重要人物のパーティー抜けイベ発生とか。


 ザクッ


 「む?」


 俺は何かが近づく足音を察知した。

 この身体は中々使えるもんで、聴力、視力共に現実の時の俺の身体を遥かに凌駕している。

 だから、遠くの音でも鮮明に聞き取れた。

 確実に足音がした。魔物か?


 「どうしたのお兄ちゃん?」


 「しっ。何か近づいてる」


 俺は二人に息を潜めさせる。

 そして、聴力を前回にしながら腰に携えた剣に手をかける。

 ナビィちゃんもラフィーも少なからず自衛の為の警戒態勢に入った。


 ザクザクッ


 音が近づいている。

 方向は俺の真後ろ。

 二人はその事に気付いていない。

 それも仕方ないと思う。この足音は極力音を消して歩いているのだから。

 よかった、FPSで足音聞く癖つけといて。


 「ぐぅぅぅ!」


 呻き声と共に足音が激しくなった。

 足音はスピードを増していく。

 しまった、襲われる!

 俺は瞬時に立ち上がり、後ろへ剣を向けた。

 やっと見えた姿は焚き火に照らされ黒くなっており、ハッキリと顔を見ることが出来ない。


 「誰だ!」


 「飯だ!」


 黒い影は声を上げて俺の横をすり抜ける。

 しまった!戦力のないラフィーが狙いか!

 と、思ったが……


 「うめぇ! はふはふ。兎か!」


 影は焚き火で焼いている兎を貪り食べていた。

 黒い影が色をつけて、ピンクのお団子頭が目視できた頃、


 「は?」


 俺ら3人は拍子を抜かれた事に気がついた。


 # # # # # # 


 「いやぁ、参った参った。路頭に迷ってたら明かりが見えたもんで。しかも飯の匂いをプンプンさせてたからなぁ。ついうっかり!」


 ナハハと笑って自分の行動を説明する簀巻きにされたピンク髪の少女。

 持ってきていたロープでぐるぐる巻きにされ、腕一本すら動けぬ状況でも楽しんでいるようだ。

 こいつ何モンだよ……


 「お前、腹減ってたからって人を襲うんじゃねぇよ。盗賊かよ!」


 「そうだよ! ウチは盗賊だよ。……まぁ、親分には破門されちゃったけどね!」


 芋虫状態でもサムズアップ。

 えぇ……ホントに盗賊だったのかよ……破門されてるけど。


 「つか、アンタやるなぁ! ウチの足音に気がつくとはねぇ! いやぁ、ウチもまだまだ未熟だけどさ。親分直伝の技を看破されると些か心が折られるってモンだよ!」


 いや割と聞こえてましたからね?

 すると、少女の簀巻きが解かれる。

 しっかりと結んであったのに、一瞬で抜けだされる。


 「ほいっと。残念でした、こんなヤワなモンでウチを縛り付けようなんて百年は早いよ!」


 少女はしたり顔で俺の鼻を指で弾いた。

 俺も反応はしたが、彼女の動きは俺の数段は早く、抵抗が出来なかった。

 自分より歳下の女の子に鼻を弾かれて多少イラつく。つか許さん。

 なんなの? ここら辺で出会う人全員俺を小馬鹿にするの何でなの?


 「はぁ……」


 「およ? 思ってた反応と違うなぁ」


 俺は妖艶の悪魔を思い出し、同じような感情を抱くのも馬鹿馬鹿しく思え、溜息をこぼした。

 すると、俺の代わりにナビィが彼女の素性を聞き出す。


 「アタシ達を襲った理由が飯だとして……とりあえず自己紹介でもしてもらおうか」


 「ナハハ。ウチに負けないくらい野蛮だねぇ」


 ナビィちゃんは少女の背後を取っていた。

 首元に静かな太刀を添えて。


 「ウチはロヴ。よろしくね」


 ロヴは軽く剣を甲で叩き、自己紹介よろしく華麗にお辞儀をする。

 その所作は整っていて盗賊らしくなかった。


 # # # # # #


 俺ら3人はロヴに敵意がない事を確認し、再び飯にありつく。

 まったく!ご飯の前で暴れたら埃がたっちゃうでしょうに!


 「はむはむ。それで? アサヒ達は何処へ向かってるの?」


 ロヴは物凄い速度で兎を骨だけにしていく。

 あの、人の食料なんですが遠慮とかないんですね……


 「俺らは水の都、ロハスに向かってる。強くなりたいんだ」


 そう言うとロヴは顔を歪めた。

 まるで触れてほしくないかのように。


 「ナハハ……そっか。頑張れよ〜? ウチはどっか行くからさ?」


 「えっ? この平野で歩きって大丈夫? 私達に着いてくればいいのに」


 ラフィーの言う通りだ。

 ロヴは腹が減って人を襲う程食料難だったのだ。

 今、彼女の身回りを見ても明らかに軽装である。


 「ナハハ……それは勘弁かなぁ……」


 「いいじゃん、行こうよロハス! きっと綺麗に国だろうから!」


 ロヴは未だにハッキリとしない。

 その反応にナビィが苛立っていた。

 実際、俺も「何なんだコイツ」で済ませていたが苛つきは隠せない。

 ハッキリとしないのには理由があるだろうけど。


 「ロハスに行きたくない理由があるんでしょ。アタシ達に言えない事なら言及しないけどさ。その子……結構意地っ張りだから理由が無かったら折れないよ?」


 「ナハハ……ウチの負けだね。言えない訳じゃないけど言う必要がないから言わなかっただけなんだよね……ふぅ」


 ロヴは大きな溜息をして重苦しい言葉を放った。

 

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