十七「逆セクハラされる系勇者」

 「悪魔……?」


 目の前の妖艶の悪魔はそう名乗った。

 俺は恐怖で腰が砕けて、尻餅をついたまま、目の前に怯えることしか出来ない。

 

 「あぁ。いいわ。その顔……とっても素敵」


 ホントにコイツはヤベェ。目の色が変わってやがる。

 人を殺すとかそんな狂気じゃない。

 人を籠絡させる狂気だ。


 彼女は蛇のように滑らかに俺に纏わり付いた。

 股の間に脚を入れられ俺の脚は固定され、首は頭で固定される。

 

 「あぁ。暖かい。貴方、暖かいわ。とても心地いい。ふふふ」


 彼女は俺の体温を感じて嗤っていた。

 俺は震えることしか出来ない。

 彼女の舌は俺の首筋をたっぷり這いずり回り、耳の中を侵し、うなじに噛み付いた。


 「ぐっ」


 こそばゆい痛みに声を上げるも、うなじは噛まれたまま。


 「あひゃひゃ。わらしはきゅうけちゅきではにゃいのよ」


 あの、首を噛みながら喋らんで貰えますか?つか、いい加減離れてくれませんか?

 彼女は口から一筋の銀糸を垂らしながら顔を離す。身体は縛られたままだが。


 「貴方は美味しいは。ええ。私の舌がそう言っているもの。安心なさい」


 わわー! 食べないでください!

 いや、自分が美味しいって言われて喜ぶ奴はいねぇだろ! こいつ頭オカシイんじゃねぇか?


 「俺に会いにきたんだよな……俺の記憶じゃテメェみたいなイカれた奴はしらねぇぞ」


 俺は沸々と湧いた怒りを抱いて質問を出す。

 もし、過去の自分とあった事があるならそこから派生出来ると思うし、この場を切り抜けるチャンスではある。


 「そりゃあ初対面じゃない。何言ってるの? アハハ。おっかしい」


 目が笑ってねぇよ! つか初対面にする行動じゃねぇだろぉぉ?!


 「じゃあ……嘘じゃねぇか……」


 「あら、心外。嘘ではないのよ。遠くから美味しそうな匂いがしたもの、気になっただけよ?」


 俺の匂いって臭かったり美味しそうだったり、どゆことなの?

 彼女は俺の手を取り、俺の指を彼女が咥える。

 しゃぶられた指先が温かく、舌で愛撫されている。


 「やめろ!」


 そう言うと、残念そうに指を離す。

 が、今度は俺の口に突っ込んできた。

 スナック菓子を食べた後に自分の指を舐めたことはあるが、人にしゃぶり尽くされた後の指を舐めた事はない。

 つか、指を舐められたのも初めてだ。


 「あはは。私と唾液交換しちゃったね。直接しちゃう?」


 彼女はピンクの舌で自身の唇を舐めまわした。

 俺は恐怖と好奇心で喉の音を鳴らす。

 こんな状況でもエロに反応する俺の煩悩……

 俺の口から俺の指が解放され、指が自由になる。

 けれど、口は自由にしてもらえなかった。


 だって彼女が俺の下唇に噛み付いたから。


 何回も何回も甘噛みをされ、下唇を彼女の小さな口で伸ばされて、弄ばれて。

 けれど、上唇や口の中には遊びに来ない。

 それがとても寂しい。そう思わせる技法だと思う。

 そう思わないと、俺が籠絡されてしまう。

 俺は自我を保つので精一杯だった。


 「ぷはっ。……あら? 寂しそうな目をしないで。興奮しちゃう。たった下唇だけでその反応。いいわぁ。すごくいい」


 俺の反応にテンションが上がったのか、セクハラは炎を上げる。

 服を少し脱がされ、少し出ている鎖骨に吸いつかれる。

 これ以上、俺を喰い続けられたらどうなるのか。

 そんな事を考え始めた頃、2人の距離は離された。


 「んんぅ」


 妹のラフィーが声を上げたからだ。

 その時、妖艶の悪魔はかなり驚いていた。

 まるで、計算が外れたかのように。


 「おかしいわね。少なくとも私の解除無しで回復するほどヤワな魔法は掛けてないけども……貴方といい、この子といい私を愉しませてくれるわね」


 そう言った彼女はそそくさと退散していく。

 まるで何もなかったかのように、自分の行った行動がさも、当たり前だったように。


 「じゃあ私は帰るわね。また会えるといいわね、卵ちゃん」


 彼女はウインクをして姿を消した。

 ……二度と会ってやるかよクソ野郎。


 # # # # # #


 「あれ、私眠ってたの?」


 ラフィーとナビィが起きて、無事なことを確認すると一安心した。


 「あぁ。馬車の揺れで眠りこけたんだな。ナビィちゃんも疲れた様子だったし、一休憩してたんだ」


 俺はここで会った人物については言わない。嘘は言わないが、隠しておきたいことはある。

 あいつにラフィーを会わせてはダメだ。

 俺の警鐘がそう言っているから。


 「ナビィちゃんも寝てたの?」


 「うん。まだ遠出に慣れてないんだろ」


 馬車を引くナビィちゃんには聞こえてないを良いことに適当風を吹かす。

 後で簡単な操縦だけ教えてもらって俺も運転できるようにしよう。

 免許が無いから警察的な存在がいたらアウトだけどな。


 「なんか……すごい夢だったなぁ。ちょっとリアル過ぎて……」


 ラフィーがぶつくさと何か言っているが声が小さくて聞こえなかった。

 ただ、ラフィーの顔は真っ赤に熟れていて、何か恥ずかしがっているようにも見えた。


 「なんか言ったか?」


 「ううん! なんでもない!」


 なら良いけど……

 なんかあったらアイツはタダじゃおかねぇ。

 今度は俺が犯してやる。メチャメチャにだ。


 「お兄ちゃん……キモい」


 「ぐはっ!」


 妹からの心的攻撃は堪えるぜ……


 その頃、馬車の操縦席では


 「全部聞こえてるっつーの……はぁ、なんでアタシもアサヒの夢が……あぁ! もうワケわかんねぇ!」


 一人、悶えてる幼女がいましたとさ。

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