第16話 真実の言葉(後編)
(っく…まさか、こいつの精神攻撃なのか!?)
ジャベルは攻撃を続けながらも、頭に直接流れ込む意識を気にしていた。
「勇者様。攻撃が少し単調になってきております…」
「あ…ああ。すまん。」
ジャベルは再びモンスターと距離を置いた。
「あいつに取り込まれている人間の一人が、俺に話しかけてくるんだ。」
「それは…テレシンパシーですね。なるほど。勇者様に直談判していたのですか」
ジャベルは目線を敵に向けたまま頷いた。ジャベルはティアナに詳しく説明する。どうやら取り込まれている二人は、元王子二人が探している王国元大臣であり、その一人が取り込まれているモンスターごと、自分達を消して欲しいと懇願してきているのだと言う。
「何とも言えませんね。これほどの回復力を持つ魔物を召還する人間です。信用に欠けます」
「ですよね…でも、こんなバケモノをどうやって倒せと…?」
「そこです…。勇者様のスキルと武器の合わせ技は、以前使用したスキルのみの状態よりも、攻撃力は高いはずですが、それでも相手の回復が上。これは困りました」
ジャベルの
「では…こちらも召還を使用したしましょう」
「なるほど!目には目を、召還には召還ですね!って俺…海の召還なんですけどぉ」
ジャベルの言葉に、ティアナはため息をつく。
「勇者様。そこは気合いでなんとかしてください」
(いやいや、KIAIではどうにもならんでしょ。ティアナさん)
ジャベルは苦笑いしながら手を横に振った。
「我、ティアナの名の下に集え、我が
ティアナの上級天使召還により、モンスターの目の前に天使が出現する。
「ええい。こうなったらイメージだ。イメージしてやる」
ジャベルは焦ってぐるぐるになっている頭で必死に思考を張り巡らせる。
「これだ!!」
「我、ジャベルの名の基に
天使が召喚されて焦るモンスターも、2体目の召還にはさすがに身構えた。
「… … …。」
「… … …。」
しかし、何も出る気配が無い。
「ゆ…勇者様。いったい何をイメージされたのですか?」
「い…いやぁ…なんかこう…空飛ぶ魔獣のイメージ?」
すると、二人の会話をしているスキに、モンスターが天使を殴り、吹き飛ばす。
『ふはははは。何が出てくるかと警戒したが、何もでないではないか』
モンスターが初めて口を開いた。それは、取り込まれた人間の意識までも、取り込もうとしている証拠だった。
「もう…言語を理解できるくらいに、彼らは取り込まれているようですね」
「このまま全て取り込まれると、どうなるのでしょうか」
「恐らく、彼らの記憶にある憎しみの感情が向かうところを優先に、
破壊活動を行う可能性があります」
ジャベルは考える。
(どうすればいい。どうすれば…)
その時だ。
(我を呼びし者よ…)
ジャベルの頭に聞いた事の無い声が響く。
(ま…まさか…)
ジャベルは叫ぶ。
「ティアナさん。天使と共に入口まで引きます!」
「え…?あ…はい。」
『逃がしはせぬ!!』
ジャベルとティアナ、そして天使は、全力で入口まで逃げる。しかし、巨大なモンスターはジリジリと追い付いてくる。
「このままでは追い付かれます。」
ティアナは天使でモンスターを押さえ、そのスキに二人は入口まで到達する。
「来い!!我が呼びし者よ!」
ジャベルが叫ぶと、上空から黒く巨大な翼を持つ龍が舞い降りる。
「な…暗黒龍…フェルニーゲシュ!?」
驚くティアナにジャベルは少しドヤ顔をしつつ、右手を龍に向けてかざす。
「我が名はジャベル。そなたを呼びし者なり」
(お主が…?笑止。お主如きが我を従えると思うてか?)
「勇者様。相手は暗黒龍です。無茶にも程があります。」
ティアナの静止も聞かず、ジャベルは自身たっぷりに叫ぶ。
「当たり前だ!私はこの手で魔王を倒す者。我に従えば、この
すると、暗黒龍は突然高笑いを始めた。
(ふふ…ふふ…ふははははは。面白い。我よりも弱き者にも関わらず、その大きな自信。気に入った。ならば、その伝説…見させてもらう)
暗黒龍は、モンスターを睨みつける。
『ば…ばかな。フェルニーゲシュ様。何故そのような輩に手を貸すのですか』
暗黒龍はジャベルの思考を読み取り、即座に言語を理解したのか、敵の言葉に対して同じ言語で言い返す。
「ゴーシール・シャシャよ。暗黒世界に還ったお主が、何故蘇ったのかは知らぬ。儂がこの者に力を貸す理由…それは…こ奴が純粋な心の持ち主であったからである」
「もし、我を呼びし者が、汚れた心で私利私欲に溺れた者であったなら、即座に消し炭にしているところぞ」
『そ…そんな…フェルニーゲシュ様!!』
「汚れた心で蘇った者は、例えそれが同じく闇に属した者だろうと、容赦はしない!」
暗黒龍は大きく口を開けると、喉の奥に強力な魔力が集中する。
「いけません!天使よ…かの者の軌道上から逃げなさい!」
ティアナの機転で、天使はモンスターを蹴り飛ばし、上空へ退避する。
「消し飛べ!!!!」
暗黒龍からモンスターへ向けて、強力な破壊光線が繰り出される。その圧倒的な威力は、神殿ごとモンスターの姿を消滅させるほどだった。
ジャベルとティアナは、間一髪のところで魔法結界を張り、破壊光線からやってくる風圧と、飛び散った岩の破片から身を守っていた。
「何と言う…破壊力でしょう…」
ティアナは結界に意識を集中しながらも、そう呟いた。
土煙はしばらく続き、それが治まる頃には、二人の視界にぽっかりと楕円形に削り取られ変わり果てた山頂の姿があった。
「さて…我が主よ。お主の今後の行動を愉しませてもらうぞ」
そう告げると、暗黒龍は空へと消えていった。
「勇者様。大変でございます」
「ど…どうしたのですか?ティアナ…さん」
ティアナが指差す先には、無残に瓦礫の山になった神殿だった。
「いやーやりすぎちまったね。テヘッ」
ジャベルはペロリと舌を出した。
「神殿はまぁ仕方ないとして…国の転覆を謀った大臣まで、綺麗さっぱり消えてしまいましたので…」
「あ…そ…それはスイマセンでした!!」
ジャベルは90℃まで腰を低く折り曲げて謝った。
「ジャベちゃーん。」
そこにリアナがやってくる。そしてその後ろから、白い狼の群れが続々とやってくる。
「り…リアナどうしたのですか?その狼の群れは…」
「す…すげぇ…みんな仲間にしたのか!?」
「いえ…違うんです」
リアナはジャベル達と別れた後の事を話した。
―――今から数時間前の事。
リアナはティアナの張ってくれた結界内で暇な時間を過ごしていた。
「はぁ…お
「二人きり…ふたり…」
二人の事を考えていると、無性に腹立たしくなってくる。
「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
リアナは思いっきり大声を上げた。(その頃、ジャベル達はモンスターと交戦中)
「足手纏いなのは分かってるけど、やっぱり二人っきりにさせるのは嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ティアナは手持ちのポーチから、手のひらに乗るくらいの大きさで、筒状のアイテムを取り出す。それは、モンスターを内部に封印・収容するためのマジックアイテムだった。ティアナは筒状のアイテムの蓋を回し、封印を解除した。すると、中から白い狼が飛び出してくる。
「ポチ!!」
狼はリアナに近づくと、リアナの顔をぺろぺろと舐める。
「あはは。ポチ。今はじゃれてる場合じゃないの。力を貸して欲しい」
狼はリアナの前に座る。狼の頭を軽く撫でながら、リアナが言う。
「ポチ。この周辺にあなたと同じ狼種族がいたら、集めて欲しいの。できる?」
すると、その言葉を理解しているのか。狼が遠吠えを始める。
ウォォーーーン。ウォォォーーーーーン。
狼は本来群れで行動する。それは狼型モンスターでも同じで、普通の狼と違うところは、遠く離れていても、交信が可能と言う点である。
しばらくすると、続々と狼が集まってくる。結界の影響で、中にまでは入ってこれなかったが、その数は10匹を超えていた。
「良い子…。」
リアナは狼を再び撫でる。
「行くわよ!」
リアナは結界を抜けて、山道を少しずつ登り始めた―――。
時は今に戻る。
「そんなわけで、この子たちを使って私もレベルアップがてら、少しずつこっちに来たのです」
「ってことは…この1匹以外、特に操ってもいないってこと?」
「リアナ…それは私から見ても凄い事です」
「えへへ」
リアナはニコリと笑った。その笑顔がジャベルには何とも複雑に見えた。
(やるわね…リアナ…)
ティアナは右手を握りしめてそう思った。と、奥で何やら呻き声が聞こえる。
「勇者様。あそこ!」
ティアナが指差す方向には、取り込まれたはずの大臣が一人倒れていた。手足が無くなっており、リアナとジャベルは思わず顔をしかめた。
「ば…か…な…あなた…さま…は…」
「しゃべってはダメ。今治療します」
ティアナは素早く回復魔法をかける。しかし、生命力が落ちているためなのか、今まで取り込まれていた影響なのか、あまり効果が出ていない。
「あなたは…まさしく…ま おう…さま…」
「え??」
その言葉を最後に、大臣は息を引き取った。視界には三人が確実に写っているはずだった。しかし、誰が魔王なのか、そこまで言い切る前に絶命してしまった大臣に、三人はまず手を合わせた。
「聞きましたか。今の言葉…」
「はい…我々の誰かを、魔王様…と。」
「どういうこと!?」
仮に大臣の言葉が事実ならば、この三人の中に魔王がいることになる。お互いに目を合わせ合うが、三人が三人共、首を横に振る。
「わ…分からなくはない…俺の祖先は、魔王を解放させた人物。ならば、その魔王自身が親戚であっても、不思議な事ではない…と思う」
「勇者様。何をおっしゃいますか。」
「そうよ。ジャベちゃんが魔王だったら、今の魔王は誰なのよ!」
「…と…とりあえず…町に戻ろう…」
三人の足取りは重かった。大臣が嘘を言っていたのかもしれない。しかし、この国を転覆させようとしていた人物ならば、魔王と接していてもおかしくはなかった。そんな大臣が顔を見忘れるわけがない。誰もがそう思った。
この日、宿に戻った三人は、食事までは一緒だったが、会話は一切無かった。そして、そのまま不安な夜を過ごすのだった。
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