窓一枚分の距離

カゲトモ

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 その昔に憧れたものがある。その小さな憧れは結局叶うことなく終わってしまったのだが、それが今、現実に目の前で繰り広げられているわけで。

「ちょっと! いい加減にしなさいよ」

「うっせーな! お前に関係ないだろ!」

「関係あるわよ! 結局わたしが怒られるんだから!」

「なんでだよ!」

「おばさんに頼まれているからよ! だからあんたがちゃんとしないと、わたしがお母さんに怒られるんだって!」

「勝手に怒られてろよ!」

「ちょっ、ばかぁ!」

 はい、ばかぁ頂きました~。

 目の前で盛大に痴話喧嘩を繰り広げているのは、近くの高校に通う咲和ちゃんと春喜君だ。咲和ちゃんは商店街にあるヘアーサロンゆきむらの娘さん、春喜君はその隣にある三村呉服店の息子さんだ。同い年の二人はいつも喧嘩が絶えないのだが、家同士の仲が良いのでなんだかんだ隣にいることが多いんだそう。

 いわゆる幼馴染。

 もちろん、付き合ってはいない。表立ってはね。ってただ俺はその事実を知らないだけだからもしかしたら付き合っているのかもしれないけど、今の様子を見るに愛だの恋だの、付き合っているような空気はなかった。

 セーラー服と学ランがよく似合う二人が喧嘩をしていたその内容とは“学学期末テスト”の勉強についてだ。

どうやら家に帰って勉強をしようと咲和ちゃんは言うのだが、春喜君がしたくないとゲーム片手に断固としてベンチから動かないのだ。

なんでも咲和ちゃんは成績が良いらしいのだが、春喜君が苦手らしく昔から一緒に勉強をしていたそう。

 さらにさらに、夕飯は二人で食べることもしばしばあるとか。家の仕事が忙しい時は昔からそうしていたと、二人のお母さんに聞いたことがある。

 うーん、なんて漫画ちっくな関係なんだ! と、三十路のおじさんは思う訳で。俺も美少女とそんな関係になりたかったなぁ、なんて。

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