異世界転生したら隠居生活はじまったけど質問ある?

里憂&抹茶パフェ

異世界転生したら隠居生活はじまったけど質問ある?

・プロローグ(あるいは異世界転生)


体中いてえ……。なにがあったんだ?

ひとまず起き上がって、と……。


「あ?」


全体がオレンジ色~。何でだろ。

ぼやけた目をこすり、世界を見つめる。


すると。


「あれ?」


――そこは異世界だった。


     *  *  *


オッス! 俺、天野 才次郎さいじろう

姓と名の頭から一文字ずつとって、天才を自称するものだ!

そして今、(自称)天才の俺は異世界で絶賛迷子中なのだ。

ん? なんで異世界ってわかるんだって?

死んだのに、生きてるなんて謎は異世界としか考えられないだろ!(キラキラに光る目)


でも、こんなに異世界転生が辛いなんて……。

ダメだろうが!!


だるぅ~。

しばらく歩いていたが、建物はたってないし食料もないし。

どこまでもオレンジ色の砂漠が広がっている。


「腹減ったなあ」


何を言っても何もない。あたりまえだけどさ。

ん? なんだあれ。


遠くにある砂丘に赤い何かが転がっているのが見えた。


「めんどうなもんじゃないといいけど」


     *  *  *


「めんどうなもんみっけたなあ」


まさか。人が倒れてるなんて。女性っぽいけど。

死んでるんじゃねえか? ああ、でも息はしてるみたいだ。

起こしてもめんどうだろうし、起こしたくないなあ。

あ! でも食料持ってるかも!


ガサゴソ……。

体の足から頭まで何か持っていないか調べたが、何も見つからない。

見つかったのはしょうもない宝石。売る相手がいないのならこんなの無価値だ。


なんだこいつ。

あ、起きちゃった。

まじかよ。


「……おはよう」


起き上がった美しい女性はただそういった。



・死にゲー(死んだ原因はここにあった!)


お! 最後の一本じゃん!

いやあ、まさか買えるなんて思ってもなかったわ。


俺は幼いころからやっているシュミレーションゲームを買いに来ていた。

がしかし。


「これ」

「はい。六五〇〇円になります」


はいー?!

俺五〇〇〇円しか持ってきてないんだけど……。

毎年五〇〇〇円で発売するんだけど、今回は六五〇〇円なのか?!

くそっ。じゃあ。


「じゃあ、まけてくれよ!」

「無理です」


あたりまえですよねえ!


「じゃあ取り置きしてくれよ。それくらいなら――」

「申し訳ないですが……」


なんてこったい。取り置きもないのか。また買いに来るっていうのにだ。


「またお金をもっていらしてください。そのときにお売りしますよ」


金をもってこいと。そうしたら買わせてやると。

いいじゃねえか! やってやるぜ!

人気なこの作品がとられる前にな!


     *  *  *


「うわあああ!!」


くそっ。くそっ。最悪だ!

目の前で商品が買われていくのを見ちまったんだ……。

大量のお菓子に紛れてカウンターに平然とした顔でならびやがったんだ!


まさか戻ってきた直後に変われるとは思っていなかった。

神様は残酷である。


「なんでこうもついてないんだよ」


ああ、もう最悪だ……。

ゲームショップからの帰り道に、俺は肩を落して帰路についていた。

寄り道なんてするはずもない。

ゲームを買うためだけに珍しく家からでたんだからな。


――そして、こんな態度がまさか命取りになるなんて思ってもいなかった。

なんで俺はいつもいつまでもこんな不幸ものであったのか。最後くらいきれいに終わりたかったはずなのに。結局人生なんて変わりっこない。酷い人生は酷いまま終わりを迎えるのだ。酷い人生に生まれてきたことがなんてったって一番悪い。


     *  *  *


「おー。才次郎じゃん」


うわ。同じ学校のやつじゃん。

しまった。顔も名前も覚えてねえ。

めんどくせえ。

それに今日は休日じゃなかったか? なんで制服着てんだ。

つかまじで誰だ、おまえ。


「おーい、高一のくせに学校にこない引きこもりの才次郎くーん!」


なんだよ、あいつ。まじで腹立つな。


信号が青になり、町の人が再びせわしなく動き出す。

顔も知らない少年はすぐさま駆け寄ってきて開口一番に言った。


「死にたくない?」


おい。やめろ。おすんじゃねえよ。

危ねえなあ。ほらもう信号も赤だし、って。

嘘、だろっ?!


少年に強く押されて赤信号の横断歩道に俺は飛びだしてしまった。


「ブォーン!!」


けたたましいトラックのエンジン音が聞こえた。

トラックのボンネットがきらりと光ってまぶしい気がした。

これが最後の瞬間だと意識したのはすでに手遅れの数秒後だった。




・とあるゲーム(ぼっ、僕君www)


僕がはまってるゲーム、「アルマルスティー」について紹介するね!

町作りと工場の運営がメインだけれど、マイホームを持つことも出来るんだ。


工場は電気代とかガス代とか以外にも、魔法代ってのがあって、これらを消費して工場の機械を動かしてものを生産することができるんだ!

機械は町で雇った人を使って生産するんだ。

町は土地を買って工場を広げたり、お金がないときに売却することができるんだ!


このゲームには研究要素があるんだけど、それをすることによって新しい素材や機械を採取、生産ができるようになるんだ。

まあ、お金や時間、人がたくさんいるんだけどね。


あと、町作りも面白いけれど、みんなが好きなのは神獣討伐だね。

銃火器の研究とか時間経過で発生するんだけど、攻めたり攻められたり、人を自分で動かしたりするから、人気が高いんだ。


ゲームのクリア条件は特にないんだけど、神獣を攻め立てる、神殿攻略で最奥地に行くことが皆口をそろえてゲームクリアって言うかな。


最近ではアルマルスティー2が来年発売されるみたいだから楽しみだなあ。

僕がはじめてプレイしたのが小学校三年生だったから、三年ぶりだ!

どんな風になってるのかなあ?


     *  *  *


あんまり変わってないのか。

ネットだとどうだろ。


「アルマルスティー2とかいう神ゲー」

「【速報】アルマルスティー2への変化少なすぎwww」

「アルマルスティー情報交換スレ122【アルマルスティー】」

「アルマルスティーの〇〇とかいうやつ」

「アルマルスティー攻略スレ70」

「最強のアルマルスティーついに撃沈www」

「【悲報】あるマルスティーついに終わる」

「【速報】僕君現る!!」


ああ、もうバレたか。

僕君って名前はだめかあ。またチートっていわれるじゃん。

それに結構やるなあ。めっちゃ人気だし。


とりあえずはやれるだけやりこむが。

学校ではどれくらいの人数がアルマルスティーをやってるんだろう?

いや、考えるのが恥ずかしい。

やめておこう。




・異世界転生したら隠居生活はじまったけど質問ある?(天才のお出ましだぞ! 何?! 後半になってからしかでない?!)


「なあ」

「なんでしょうか?」

「おまえって何なのさ」

わたくしでしょうか?」

「おまえ以外に誰がいんだよ」


上下ともに黒いジャージ姿――生前の姿と一致している――の元高校一年生の俺と、赤いロングコートを羽織った美しい女性が一緒に歩いていた。


俺は、目やにのついた汚いで、そろっていない乱れた髪をもち、黒くて細い瞳が特徴的だった。実際そこまで特徴的ではないが例を挙げるとしたら……ということである。つまり平凡でそこら辺にいた一般人とほとんど変わらないということだ。


女性の方は、豊かな胸(D、Eはある)をはだけた赤いコートで隠している。胸を覆うのは赤いコートだけでなくさらしを巻いている。がしかし、完全には隠してきれていない。谷間がほどよく開帳されている。下半身はショートパンツをはいる。がしかし、これ以外には何もない。靴や靴下をはいておらず、足の指先までなめるように見渡せる。

まさぐっていたときには気がつかなかったが、細くて秀麗な太ももが実にエロい。これは十八禁ものである。

銀髪が似合う美しい顔立ちで、若干お姉さんくらいの年齢だと思う。身長もその程度だ。元高校一年生より二~三㌢ほど大きいくらいである。

瞳は黒くかたどれた内に白く染まっていて、実に特徴的だった。

そして、胸も悪くないが、やはり太ももに目が。……あ、いや。別に性癖をさらしているわけではない。……決して。


「私は……」

「おう」

「なんなのでしょう?」

「なんだ、それ」


そんなたわいもない会話をしつつ、目指す先は女性の住む町だった。

食料も水もなく生活がままならない俺は、何日かかくまってもらおうと考えていた。

なんだかたすけたということになっているらしく、女性自ら望んだことだった。「なんで倒れていた」という問いには断固だんことして答えなかったが。


「そういえば名前。聞いてなかったな」

「名前ですか? ユニとお呼びください。私はなんとお呼びすればいいですか?」

「俺? 俺は才次郎だよ。あとは適当に。そんなわけでこれからよろしくな。ユニ」

「はい。お手柔らかによろしくお願いします」

「……そういう言い方はよくないと思うんだ」

「……?」

「えぇ……」


     *  *  *


「町が見えてきましたよ」


近くと聞いてきたものの、不眠不休でまる二日歩かされた。

こんなののどこが近いというんだか。

でも町はきれいだな。川があって、家が建ち並んで、人が往来おうらいして、物がたくさんあって、道路がきれいで。


「良い町じゃん」

「そうですか。ありがとうございます」


口に出てたか。まあいいだろ。これぐらい。


     *  *  *


「あ……」

「ん? どした?」


大通りからそれてすぐの、細い道を歩いている時だった。

ユニが俺に声をかける。


どんな用事だろう。


「ここです」


どうしたんだよ。足を止めて。

家っぽい建物だって、突き当りにある、あのボロっちい平屋ひらやぐらいだぞ。見た目は廃墟そのものだし。

まさか、あのボロっちい建物なわけもないだろうしなあ。

そんな訳で問う。


「どこに家なんてあるんだ?」


困った表情するなよ。

な? ほら、「道間違えちゃった」って言えよ。


「あそこにあるじゃないですか」


おい、やめろ。指さすんじゃねえ!

手を引くのもやめろ。やだ! 行きたくない!


     *  *  *


家の中は十分汚い。人が住んでいけるわけがない。そんな感じだった。

虫はそこらあたりにわいているし、到底、ユニが住んでいると思えない。

そして家の中に入ってすぐ、ユニが声を発した。


「それでどうするの?」


あれ? ユニさんどうしたんですか?

口調が急に変わりましたよ?


「ねえ! 聞こえてるでしょ!」

「は、はい」


どうしたんだ急に。

家だとこんな性格なのか? もしかしていつも我慢してるタイプ?

うわあ。めんどくさいやつじゃん。


「反応遅すぎ」


思春期の娘かよ。だるぅ~。

まあいっか。言うこと聞かないと殺されそうだし。

ヤンデレかな?


「ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃなくない?」


えぇ。なんて言ったらよかったの?

この人つらいんだけど。


「で。どうするかって聞いてんだけど」

「どうするといわれましても。どうするんですか」


「はあ?」と言って、ユニは部屋中を歩き回る。


「これみてあたしの家だと思うわけ?」

「いえ……。思いませんが」

「だったら――」


だったら?


「家買う」


は? 何言ってんだこいつ。

家を買うって言ったか?

おいおい。そんな金どうやって手に入れるんだよ。

家とか無理に決まってんじゃん。それより明日の食事の金だぞ。くだらないこと言ってる場合じゃねえんだよ。

こんな家もない女についてくるんじゃなかったわ。


「おい。くそみたいなこと考えてただろ? 表情に出てるから注意しな」


すいませんな。そんなことまで見抜けるんですね。

「くそ」ですって。あー、怖い怖い。


「急に家を買うといわれましても、お金はどうするんですか? それまでの家はどうするんですか?」

「金は自分でためてこい。貯められないのなら、ここを掃除しろ」


だるぅ~。まじで?

まともに仕事したこともないんだよ? そんな俺に家を買う金を持って来いと? あるいはこんな見たこともないような幽霊が出そうな場所を掃除しろっていうの?

中学校のころ学校で、「掃除を頑張がんばったで賞」もらったくらいだよ? あんなしょうもないものもらってるだけでこれをやれって? まあ無理な話だよ。うん。


「あ、そうだ。あたしがなんで外で倒れてたか教えてやろうか」


ついに言うのか。

このながれ、いやな予感しかしないんだが。


「あたしが外で行き倒れてたのは、食料を探すためだ。おまえみたいなひ弱でうまそうなやつをな」

「ひええ……」


まじか。この人まじで怖い。冗談だろうけれど、怖い。


「ああ、そうそう。役所の手続きを先にしてこい。通路抜けて左に曲がってすぐだから。あとは人に聞いて」


なんて適当な。こんなやつ見たことない。どうなってるんだ。この女は。

はあ。なんて思っててもしょうがないし、とりあえずは言うことを聞いてみるか。


     *  *  *


役所ってどこだっけ。

えっと。あ、あそこに人がいるじゃん。聞いてみよ、っと。


「どうも」

「ああ、こんにちは」


こんにちは、ってもうそんな時間じゃないけど。


日が暮れ始めている。空がオレンジ色に染まりつつあり、本来の青色が後退していく。だんだんとくらい空が東からのぼってくるだろう。


「どうされましたかな」


俺が話しかけたのは老人だった。

老人は話しかけた俺より先に、挨拶の次の言葉を発する。

そして俺もそれにこたえるように言う。


「役所ってどこにあるんだ?」

「それなら、あそこに」


老人の指さすさきには大きな二階建ての建物があった。


「おお、あった。サンキューな」

「さんきゅう? 産休?!」


いや違うから。


     *  *  *


「こんばんは」

「いらっしゃーせー! どうっしあっかー!」


和訳「いらっしゃいませ。どうかしましたか?」

威勢のいいラーメン屋か、ここは。


「あの……」


重要なことを忘れていた。なんて言えばいいんだ?

家を借りたい? それとも家を建てた?

それじゃあまずいだろ。いろいろと。ほら不法占拠ってやつだからさ。

あ、そうだ!


「家が……」

「ご自宅ですか? どうなさいましたか? 火事ですか?」


火事でこんなにのんびりしてられるか。

家が、ってあいまいにしておけばなんとかいけるかって思ったのに。だめじゃん。


「家の引き渡しで、手続きをしたいんだけど」


まあいっか。いろいろとおかしいけれど。


「そうですか。では、こちらにお名前と住所をお願いします」

「はー……い?」


いろいろな欄がある紙に羽ペンを走らせると、虹色に光る文字が浮かび上がった。

これが魔法というやつであろうか。

異世界はやはりおかしい。

というか、ここ異世界なんだ。改めて考えると、異世界っぽくなかったような。

そんなのどうでもいっか。


     *  *  *


いやあ。こんなにも手続きが面倒だなんて思ってもいなかった。あとで確認にくるって言ってたけれど、なにも言われないかな?

ま、ユニに任せるか。


「どうも」


ん? 誰?

ああ、道を教えてくれたじいさんか。


「お力になりましたか?」

「まあな。本当に感謝してるよ。うん」


逆に、視界にある道をどうやって間違えるんだ。

間違えるほうが難しいだろ。


「それでお聞きしたいのですが」

「どうした?」


こちらが本命か。一体何を言い始めるんだ?


「最近こちらの町に放浪人が訪ねてきたというのですが、あなた様でしょうか?」

「どうして?」

「いや、見たことない顔でしたので」


ああ、そうだね。俺のことだ。だが、早くないなあ。

これだと不祥事を起こしたとき、すぐにばれそうだ。なるべく住人には注意しよう、っと。


「そうだよ。俺がが最近この町にきた放浪人だよ」

「やはりそうでしたか。それでお願いがあります」


はあ? どいつもこいつも、人をこき使うのが早いんだよ。嘘だろ?

さっき役所に行ってきたばかりなのに。疲れるわ。

でも、人を見捨ててはおけない性格なんでね。


「なにさ?」

「あのですね。最近困ったことがありまして、実はお金がないんです。工場がの経営がきびしくて……。経営者の鏡と伺いましたので、何卒なにとぞご教授願えないかと」


ん? どっかで聞き覚えのある……。気にすることないか。

んで、経営難? うーん。これでお金を稼ぐのもありか?

家に近づけるならいいんだけど。

報酬次第か。そうだ。報酬だ!


「何と引き換えだ?」

「家一軒でどうでしょうか?」


うそーん?! 今ちょうどほしいものじゃん!

がしかし、欲を丸出しにしたら負けな気がする。

ここは冷静に、「それくらいでいいよ」という風に……。


「わかった。やるよ」

「本当ですか?! ありがとうございます! 私、リューズと申します。それではさっそくですが、工場にご案内しますね」

「ありがとう。俺は才次郎だ。よろしくな」


あー、そうか。

リューズで思い出した。この発言はあれだ。

生前(?)、俺の買おうとしていたあの人気シュミレーションゲームの内容と被ってやがる。


「どういうことだ……」


ぽつりと俺はつぶやいた。

人気シュミレーションゲーム……。《アルマルスティー》は、経営型シュミレーションの町起こし系のゲームだった。そして毎度毎度、リューズという老人が同じ発言をする。


「あのですね。最近困ったことがありまして、実はお金がないんです。工場がの経営がきびしくて……。経営者の鏡と伺いましたので、何卒ご教授願えないかと」

アルマルスティーの無印も、2もそうだった。そしてこの度発売された3も同じだろう。


こうして俺は一軒家を譲り受けることを約束として経営を開始する。

つまりこのあとは……。


模擬経営チュートリアルか……」


     *  *  *


「それではよろしくお願いしますね」


はあ、疲れた。どんだけ歩いたんだろ。

もう真っ暗じゃないか。ユニも心配するだろうし、帰らないとなあ。

あ、でもユニは怖いから、しばらくは帰らなくてもいっか。そうだよな。

あはは……。はあ……。


となり町に工場はあった。

ここに来るまでには二時間ほど歩いた気がする。頭の頂点を東に十五度ほど傾けたあった月は頂点から十五度ほど西に傾けた位置にあった。

道はガタガタで状態が悪く、森がうっそうとしげっているところを見ると、整備はほぼされていないのだろう。


工場の様子は、コンクリートの壁には窓がなく、重そうな鉄扉てっぴが門と工場に構えてある。

工場本体はとても立派で細長い平屋だった。またそれとは別に二階建ての建物があるが、あれば本部であろう。


そして今いるここは、その本部であろうなかの二階だった。

部屋はそれほど大きくはないが機材が充実していて、災害時に連携して対処することができるようになっている。警報装置等も足りて防犯対策もバッチリだ。


部屋の奥に机と椅子があり、その背後に掛け軸がある。

机にはノートパソコンと、大量の用紙と、ペンがのっている。

デスクから見て左側に窓があり、工場がよく見える。

そして窓のその先、部屋の隅にタンスが置いてあるが、中身については何も聞かされてない。


「ってここ俺の部屋そっくりやないかい!」


なんだよ。居心地いいな、この野郎。素晴らしいかよ!

ゲームしてえ。でもこれ異世界であり、リアルであるんだよなあ。

経営で遊べねえぞ。

「よろしくお願いします」っていってリューズは消えちまうし、どうすればいいんだろうか。


「電気ってどこ? えっと……スイッチは……。ここ!」


電灯から発せられる光がほのかに部屋を満たす。全体がわかりやすくなったが、夜目に慣れていたせいか、それほど変わった感じはしない。ただ、ゴミ箱と、ポスターが見えるようになった。

机にあるパソコンを開いて、OSを立ち上げる。


というか従業員がいるのだろうか。

金がないとはいえ、工場がある以上、従業員はさすがにいるであろう。

っておお! アルマルスティー3じゃん!

これはやるっきゃねえぞ?!

ふむふむ……。ToDoリストはここか。で、金がここで、ショップがここ。あとは……。

違う。ゲームをするのにここに来たんじゃないか、そっか。


するとリューズの声でアナウンスが聞こえてきた。


「あーあー。聞こえてますかね? アルマルスティー3クリアしておいてください」


え? クリアするの? 楽勝じゃねえか。

なにせ俺はアルマルスティーの天才。無印の頃からネットでチーターと呼ばれていたからな。ふはは!


「じゃ、さっさとやりますかね」


     *  *  *


「うわー。今回のは結構やりこめるな」


ゲームスタートから約半日。日付は回って、太陽は頭の頂点から西へズレたところにあった。


それじゃ寝るかな。

そっか。違うのか。

半分くらいかな。だいたいは終わしたけれど、クリアはしてない。


「おお! 結構やりますね」


再びリューズの声でアナウンスが聞こえる。


やりますねじゃないわ。一日じゃ追われないのがアルマルスティーなのに、これを終わらせろとかきついわ。

無印の最速が三十五時間で、2が八十時間だったはずだから、3なんて一週間じゃ終わらないんじゃないかと思えるほどだ。

それくらい長い。

がしかし、それを一日でやれと?

とんだドSだなあ~?


「クリアはされていないようですが、まあいいでしょう。工場内にいらしてください」


なんだよ。寝みぃんだけど……。

ぶっ通しでやってたから、疲れちゃって疲れちゃって……。

ふぁあーあ……。


あくびをしつつ階段を降りてしばらく歩き、工場の重たい扉を開ける。


すげえな。なんだこれ。

あっちこっちで機械が稼働して、なにかを作ってるのか。

なにを作っているのだろうか。


「これはですね。魔道具を作っているんです。魔法の羽ペンを作っています。役所にいかれたので、このペンは見たのではないでしょうか」


ああ、あれか。魔法ねえ。

同じような機械が並んでるけれど、これ一つひとつで生産されてるのか。ほう。

どれくらいの大きさだろう。二メートルくらいかな。十㌢くらいの幅を開けてきれいに並んでるわ。

結構やるなあ。


「奥にあるドアを開けてこちらにいらしてください」


てくてくと歩いて行き、機械が並ぶなかをすいすい抜けていく。

そして突き当たりにあったドアに手をかける。

かけようとしたが、ドアが自動で開いたので、そのまま抜けていく。


「おい、なんだこれ」


なにもないじゃねえか。

こんなにもったいのない場所の使いかたがあってたまるか。

なんでなにも置かないんだ。

わざわざ広いスペースがあるのに。さっきの機械だって幅をあけて置けば生産効率もあがるだろ。


「どうも」

「どうもじゃねえ。どうしたんだこれ」

「いえ、ここは……」

「いえじゃないだろ。なんでこんなになってるんだ。無駄だ! 捨てろ!」

「落ちつて下さい」


落ち着け? 金がないと言っておきながら、広いスペースをもてあましているばかやろうがよく言う。

工場が細長くでかい意味もわかった。金がないのも、従業員がいないのもわかった。

こいつが大馬鹿だからだ。

誰だって考えりゃわかる。どうやって金の運用をしたら儲けられるかなんて。

工場をでかくして、生産性が悪いのに、どうやって儲けるんだ。無理を言うな。


「この地図をみてください」


地図? なんの地図だよ。

おお、地図が動くのか。どれどれ。

研究進捗じゃないか。全く進んでいないし。

土地だってまだまだあまってる。

なんだ、このへんてこな資本は。

従業員0って……。

って手持ち10C?!

こんなんじゃ工場を稼働する金もないじゃないか。


「この地図は本部のアルマルスティー3と同じ型をしています。そして――」


この工場もその地図と同じです。


なに? じゃあ、俺がこんな工場にしたのか? そんな覚えは……。

え? あ!


「序盤か」


アルマルスティー3の序盤、まだ手持ちの金に余裕がなく、研究も出来ず、生産が供給においついていない状態だった。

俺が進めていた状態とたしかに酷似していた。

がしかし。


「俺こんなに金少なかったか? あのときでもちゃんと工場を稼働する分はあっただろ。10Cじゃ厳しいのも当然だ。どういうことだ?」

「途中でこちらのお金が尽きてしまったんです」

「途中までは監視して、同じようにやってたのか」

「そうです」

「でも、(異世界中)の金が(ゲーム中)の金に足りなくて同じように継続できなかったと……」

「はい」


あれは現実でできる方法じゃない。

建設だって終わるわけがない。

どうもゲーム内施設の幅が制限されていると思ったのもこのせいだろうし、工場に誰かしらないやつが動いてバグだと思っていたのもこのせいだろう。


ああ。ばかだ。

これからどうやって工場を発展させていけばいいんだ……。

どう頑張ればいいんだよ。

無理だ。無理だよ。

研究だって進められないのに、従業員さえいないのに。

機械が稼働してるって? 魔法代や電気代を払う金もないさ。


万策ばんさく尽きた」

「え?! それじゃ困りますよ!」

「そんなこと言っても無理なもんは無理だよ! 困ってんのは俺のほうだ」

「そんな……」


泣いた涙だってもったいない。

明日からどうやって暮らせばいいんだよ。

ユニ……。たすけてくれよ……。

なんて、情けにねぇなあ。

ん? 何の音だ?


重い扉が開かれる音がする。

カツカツと足音が近づいてきて、ジャラジャラと何かを引きずる音がする。


「あら、こんにちは。リューズさん」

「こんにちは。ユニさん。どうされたんですか?」

「え」


ユニ? なんでおまえがここにいるんだ?

ああ、そっか。家のこと言ってなかったもんな。

それで怒ってるのか。

あはは。どうぞ自由に。

殺してくれ。それが一番楽でいいや。


「ちょっとこの人を借りていってもいいでしょうか」


何を言うんだユニ。この場で殺してくれてもいいのに。

リューズが俺を死ぬところを見たって何もかわらないさ。

だってリューズももうじき死ぬんだろうから。


「ええ、どうぞ」


俺とユニはじいさんの居る部屋から出て、本部に入った。

俺を半強制で椅子に座らせ、手を机に置く。

それからユニがばかでかい声でいった。


「おい、馬鹿野郎!」


俺が馬鹿野郎だと?

なんでだ。俺は成し遂げようとしたんだ。

この工場を救って、ユニに新しい家を買って。

楽しく暮らすはずなのに。

あのじじいが悪いんだ!

資産の運用法を全く考えず、良いも悪いも人がゲームでやったからとか言って責任を押しつけて、人を見殺しにするんだ。

あいつがわるい!

馬鹿なのはあいつだ!

俺だって金があったらうまくやっていたのに!

なんであいつは言わなかった? 言っていたら変わっていたかもしれないのにだ。

馬鹿みたいな方法考えるあいつが悪いんだ! なんで俺が馬鹿だよ!


――パチンッ!


「痛い……。なにすんだよ!」


ほおをひっぱたかれ、ものすごい音が本部の二階に満ちる。


「なに適当なことばっか言ってんだよ! 脳内丸聞こえだっていってんだろ! だから馬鹿なんだよ」


なんでそんな表情をユニがすんだよ。

泣きたいのは俺だ。

こんなに酷い目にばっかりあって。

いいよな。気楽なやつは。

家に引きこもって、新しい家を待ってるだけで。


そんなことを思うが、結局声にはならない。

言ってしまったら悔しいから。

思ってることが聞こえているとしても、辛すぎるから。


「……」

「なんで帰ってこねえんだよ。心配したんだからな!」


は? ユニが心配するってどういうことだよ。

それに、「帰ってこねえ」って言ったって、俺が金を稼ぎに来たんだろうが。

役所から出て……。そうか、一度も家に戻らず半日もここに居たのか。

でも、それも言われたことだ。

家を買えなんて無茶なこと言われなければちゃんと家に帰っていたのかもしれないじゃねえか。

おまえもリューズと変わらねえじゃねえかよ!


――パチンッ!

二度目の痛みが頬を貫く。ものすごい痛い。今度は先ほどと逆の頬だ。

両頬が痛みで赤く染まる。


「てめえこそ、人に責任を押しつけてんじゃねえかよ! 自分が世間から逃げたいからって、文句も言えないのに人に押しつけてるのは誰だ! 馬鹿じゃないの?!」


やはり思ったことがなにも言えない。

ユニは激昂げきこうして、はたかれてもいないのに顔が真っ赤になっている。

手をついた机が壊れてしまいそうなほど思い切り叩く。激しい音が鳴り、次第に薄れていく。

がしかし、音は続いて、ユニは静寂が訪れる前に口を挟む。


「皆、辛い世界で生きてんのよ! あんただけじゃないんだから。まじめに考えろよ。今冷静にならなきゃまじでどん底に落ちるぞ!」


でもどうすればいいんだよ。

手段もないんだから、どうしてもこの工場を救えるわけないだろ。


「それにどんだけ心配させて、なんで悪口を言われなきゃならないんだよ。意味ねえだろうがよ。外にでたらちゃんと帰ってこいよ。てめえはガキか!」


それからユニは息をあらげて肩を上下させる。

怒ったような表情も涙でぐちゃぐちゃに崩れている。

ユニは崩れて、泣き疲れたのか静かになった。

と思っていたが。


「もういい! 一人でなんとかする!」

「おい。待てよ」


立ち上がってドアの向こう側へ消えていく。

ユニが開けたドアは大きな音を立てて閉じられた。


おいおい。まじかよ。


     *  *  *


「おい、ユニ!」


いつの間にか追いかけてきちまった。

一人でなんとかするって無理に決まってんだろ。俺だってできなかったんだ。

あいつはどこだ。どこにいる?!

クソッ。なんでどこにもいないんだよ。


「リューズ!」


工場にはいないか。

リューズは何か知らないか?

あいつ。どこに行ったんだ。


「どうしました? ユニさんは?」


ちっ。知らないか。

もしかして家か? あいつは空腹だろうからぶっ倒れてるかもな。

急がないと。あいつは馬鹿だからな。


     *  *  *


「いねえじゃねえかよ!」


急いで走って一時間。

休憩をはさみつつなんとかとなり町まで戻ってこられた。

町のなかについても走って家に向かう。


家のなかにいない?!

やっぱりどこかで倒れてるんじゃ?

でも、そんな様子もなかったしなあ。

足跡でもあればいいんだが、あいにく道は草ばっかりで見つからないし。


町の人は何か知ってるか?

いや、知らなそうだな。

なんで俺がいるんだって顔してる。

それにユニはどうしたんだろうって顔もしてる。


「クソがっ。どこにいるんだよ!」


なんでざわつく。うるさかったか? それなら悪かったな。

だが気にしてる場合じゃねえんだ。

あいつは。あいつはどこにいるんだよ!


もう。

もうどうでもいいや。

あんなやつのこと。

そうだ。忘れちまえば全部解決じゃないか。

ははは。やっぱり俺は天才だったんじゃん!

はははははは!

はあ……。


もうあのクソ女なんて知らねえ。


     *  *  *


また工場に戻ってきちまった。

助ける義理なんてないのにさ。

そうだよ。今考えたら逃げちまってもいいんだ。

ここがファンタジーでゲームの世界だろうが関係ない。

やりたいことをやる。そうだ。

それだよ!

逃げちまえばいいんだよ!


でもどうやって逃げるんだ?

逃げた先はどこにあるんだ?

行く当てもないのに、一生いっしょうさまよっていて、生きれるはずもないのに。

ああ、あのクソ女も同じこと考えてるのかな。

うわ。だる。いつの間にかユニのことなんて考えてたなんて。

最低だ。心配なんてしてる意味もなにのに。

なんで心配なんてしてるんだろ。気持ちわる……。

はあ、心配だ。


畜生、めんどくせえけど、やるか。

頭冷えたし。


「おい、リューズ!」

「あら、帰られたんですか。急にお出かけになられたので驚きました……よ……? なにしてるんですか?」

「なにしてるって見てわからないか? 節約だよ」


電気代と魔法代の出費を抑える。

それで資金を地道じみちに浮かせて稼ぎを作ってくしか道はない。今は。

地道だが、いつか成功のチャンスがあるはずだ。

だから機械を何台か停止させた。羽ペンだけ作るのも無駄だ。

あたりはずれの差が大きすぎる。

一つに頼ってたら、経済のバランスによって一瞬で勝ち負けが決まる。

そんなのに頼っていられない。

かといって、研究が進んでいないからこれ以上はなにも作れない。


「まあ、研究か……。おいリューズ!」

「はいなんでしょう?」

「土地利用の権利書もってこい。あと役所の位置が書いてある地図な。はんこもついでに」

「は、はい……?」


これで、はした金くらいはできるだろ。ちょっと研究すれば、ちょっとはましになる。

だが、問題は《はした金》程度でどの程度の研究ができるか、だ。

地図にはどんなふうにのってるんだ?


「ああ、依然として変わらないな」


いつもの輪を広げていくようなというか、中心のほうにある、解放可能マスを埋めると近辺のマスが解放可能になるようなというか、そんなシステムの研究方法だった。

ひとつひとつマスを確認していって、条件がよさげなマスを品定めしていく。


うーん。やっぱりうまくはいかないか。

やっぱりあれやるしかないか。本当ならやりたくなかったけれど、この世界ってじみにリアルっぽいから割とできそうだ。もしかして実機でもできんのかなあ?

まあいっか。できる限りは尽くそう。


「才次郎さん! お持ちいたしましたよ」

「ああ、ありがと」


ペンはっと……。

もうそこにある羽ペン使っちゃえ。


「一体何をするんですか?」

「まあ見とけよ」


「ちょっくらいってくるから」と軽いノリで俺は外へ繰り出した。

雲一つ無い快晴で、太陽もまばゆく輝いていた。


     *  *  *


「これとこれを頼むわ。あとこれな」

「わっかりましたあ!」

「才次郎さん?! これはどういう?」

「だから見とけって」


中古買い取り業者が工場にやってきた。

もちろん俺が呼んだ。


いやあ、ゲームじゃできなかったけれど、リアルだと買い取り業者いて助かるわあ。

しかもわざわざ重たいから、って運んでくれるなんて、優しいわあ~。


「うーんと、ひとまず一周しましたけれど、こちらでどうでしょうか?」

「もうちょっと上がらない?」

「いやあ、難しいですよこれは」

「適正価格って知ってるか?」


嘘ついて安くしようたって無理に決まってんだろ。

どれだけ交渉術を磨いてきたと思ってんだよ。

ゲームのなかだけど。

ま、嘘を見抜いて適正価格で払わせるなんて余裕だわ。

さすが俺! 天才は違うねえ。

でもまさか、ネットでのアイテム取引術がこんなにところで使えるとは。

所詮しょせんゲームの中だねえ? ああ?


「…………こちらでどうでしょうか」

「ああ、上司に言っちゃお」

「言えることなんてなにか――」

「おまえ、何考えてるかバレバレ。話にならん。嘘くらいまともにつこうぜ?」

「嘘だなんて、そんな……」

「目が泳いでんの。嘘つきの証拠だよ?」

「ひぃ!」


ひぃ、だってさ。笑っちゃうよほんと。

リアルじゃこんなこと普通できないって。リアルっぽいけど。

現実世界なら脅迫罪で訴えれてもおかしくない。でもここはゲームだから。

たんにリアルっぽいゲームだから。

それに相手の心なんて読み取れるわけないじゃん。

馬鹿だよねえ。威圧ってほんと優秀。

相手の間を切らすだけでもこの様子。

チャットじゃなきゃ難しいけれど、ゲームだしな。

ははは。


「…………。こちらで。もうこれ以上は……」

「おっ! いいねえ。そうしようじゃない。はいどうも」

「あ、ありがとうございました」

「さっさと帰れ!」

「は、はひぃ!」


はははっ! ほんと面白いわ。


「お疲れ様でした。ご休憩なさりますか?」

「いや、まだやることがあるんだよな」

「??」


     *  *  *


「どうも」

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」


案内された椅子に腰かける。

ふかふかだなあ。高そうだ。


「今日はどのようなご用件でしょうか」

「売却だけど」

「不動産の売却ですか……。しばらくお待ちください」


俺の来ているのは不動産屋だ。

なんでって、さっきもいったけれど、不動産を売却するためだ。

あんな邪魔な空間とっぱらったほうがいい。

理由が何であれ、邪魔なものは邪魔だ。

さっさとうっぱらったほうがいい。

そのために土地の利用権利書ももってきた。


「あ、そうそう。お名前だけ伺ってもよろしいでしょうか?」

「才次郎だ」

「はい。わかりました。ありがとうございます」


そういって向こうの扉のほうに消えていったけれど。早くしてくれないかな。

遅いと研究をするのにも支障になる。できるだけ早くしてほしいだけれど。

あ、来た。

さっきとは別の人だ。


「こんにちは。才次郎さん」

「どうもね」

「売却ですよね?」

「そそ」

「どこの場所をお売りになられるんでしょうか?」

「ここだよ」


地図を差し出されて、そこに指をさす。


「ああ、そこですか。権利書等の書類はありますか?」

「もちろん」


そうして権利書をドアの向こう側にもっていった。


「こちらをどうぞ」

「どうも。でもいらんよ」

「そうですか」

「悪いね」

「いえいえ」


横にいたやつが親切に茶を出してくれたが、なんだかここの店もうさんくさくて、飲む気にならん。

なんだろうなあ。このざわつきは。


「遅くなってすみません。ええっと、さっきの土地なのですが、こちらのお値段になります」


100Cとかまじかあ。

たいした金にもならん。

でもあそこの土地ってそんなに安かったっけ?


「なあ。もうちょっと高くなかったか?」

「何をいいますか。この値段通りですよ」


焦ってる。こいつ黒だ。

まじかよ。めんどうくさい。

どいつもこいつも嘘ばっかりつきやがって。

つきあうのは嘘以外にしろよ。たとえば彼女とかさ。

って馬鹿か(俺は)。


「ねえ。もうちょっと上がんない?」

「難しいですねえ」

「またこの店で土地買うからさあ」

「それでもですねえ……」


まあ。いいや。

そろそろやってやろ。

最初からやってやれっていうけれど、ここまで黒いのがわかんなきゃな。


「ちょっと外いくけどいい?」

「どこへ?」

「あ? 役所」


     *  *  *


「いらっしゃーせー! どうっしあっかー!」


和訳「いらっしゃいませ。どうかしましたか?」

なんだよ、ここも威勢のいいラーメン屋か。

役所の窓口はどうしてこうも……。


「あの。土地利用について聞きたいけれどいい?」

「はい。どうぞ」


やっぱり入ったときの挨拶だけなんだな。

それ以外はそこまで威勢の良いラーメン屋感はない。

そんなのどうでもいいんだけどさ。


「ここって、最低売却価格いくらになってる? そもそも何等地?」

「ああ、ここですか。ここですと、最低でも500Cくらいはするんじゃないですか? 二等地ですよ」


やっぱり一ヶ月分の食事代くらいはするのか。

これはこっちにきて正解だったな。


「あのさ。書いてくんね?」

「証明書ですか? 一体何の?」

「最低750Cの土地の価値があるよって」


あ、やべえ。

俺今までにないくらいにやついてる。

ふっひひひ。


     *  *  *


「はい、どうも」

「あら、またいらっしゃられたんですね。こんにちは」

「とりあえず座ってください」

「そう。どうもね」


いやあ。さっきまで歩いて疲れてたから助かるわあ。

茶でももってくればよかったかな。

それともここのお茶でも汲んでもらうか?

まずそうだしなあ。


俺は長椅子に深々と腰をかけ、書類をもったままにやついた。

二度目に奥から出てきたスーツの男がこちらをみたまま、小椅子に腰をおろした。

不動産屋の小窓から夕陽の光が漏れてきて、部屋の中を薄暗く照らす。

朱色しゅいろの太陽が西へ沈もうとして、ギリギリを保っている。もうこんな時間なのかと少々心を痛めた。


「こんにちは」

「また来たよ。どうもね」

「どうされましたか?」

「そう。売却だよ! 不動産のさ」

「書類等をご提示ください」

「はいこれ。あ、そうそう。カードあるんだけどさ。使える?」

「はい。使えますが……?」


これは勝った。

どうもにやけが止まらねえなあ。


「確認してまいります。少々お待ちください」


やっぱりテンプレ発言なのな。つまんねえの。

ゲームの中って異世界だから、同じことしか言えねえんだろうな。

リアルっぽいのにどっか抜けてる。

さっきだって金額の確認をしてきたじゃん。

あ、戻ってきた。どれどれ……。


「遅くなってすいません。お値段こちらになります」

「嘘だな」

「え?」


値段も見なくていい!

知ってるんだからな。100Cなんて値段が通じるかってんだ。


「これ見ろよ」

「ん? なんですか、これ?」

「なにって、証明書だろうが。ぼったくりになんかかかるかよ」

「? 最低売却値には達しておりますし、違反項目も……特に何もありませんが? どこか問題でしょうか?」

「え?」


売却値クリア?

水増しもしたのにだぞ?

どうなって……。

さっきの値段が書いてある紙は……。これか。

え。5000C? これはどういう……。

なんでこんなに高くなった?


「なんでこんなに高く売れるんだ。さっきと違うじゃないか」

「さっきと違うのはですね。買い手がでてきたので、その価格になりました」


買い手だと? こんな工場半分に5000Cも価値をつけるやつはどいつだ。

というか、先に張り出したの。

確実に無駄足だったじゃないか。

この短時間でよくもやりやがって。

まあたしかに広いからいろんなことはできるんだろけれどさ。


「ちなみに買い手はどんなやつなんだ?」

「今はいらっしゃらないんですが、研究者だそうで。お金もローンを組まず現金で払って行かれました。なんでもとなり町で成功したんで、もってる資産だとかで」


へえ。珍しいやつもいるんだな。

研究者ってそんなに金がもらえるのか。

リアルだと、研究して有名な賞をとったとしても一銭も入ってこないらしいしな。

ただ、良い研究結果を残せるんだったら、商品として利用価値をもつんだろうけど、そんなに価値のある研究が進んでないわけがないからな。

こっちの研究はすげえんだなあ。


「とりあえず、土地の利用権利書だけいただけますか? 役所にもっていきますので、それとあわせて5000Cから手数料を引いて4900Cをお渡しします」

「ああ。うん」


どんなやつなんだろうなあ。

工場にくるわけだから会うこともできるのかな。

ひとまず大金をかかえて帰るかな。


「ご来店ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


もうこねえよ。このクソッタレが。


夕陽が沈んでいた。

暗い夜が東からだんだんと上ってきて、ついには月が姿を現す。

雲がなく、きれいな満月のある夜空がそこには広がっていた。

寒さが身にしみて、若干震える体をおさえると、夜空を見上げて考えごとに一途いちずになった。


     *  *  *


「こんばんは。わたくし才次郎と申します。夜半遅くにごめんなさいね」

「あらご丁寧にどうも。道具屋の店長のウェンディです。どうされましたか?」

「ご相談がありまして。羽ペン買いませんか?」


道具屋なら買ってくれないかなあ?

って勝手に思ってきたわけだけど。

こんな量の羽ペンを買ってくれるところなんてなかなかないか。


「どれくらいですか。見た感じ業者のようですけれど」

「そうですね。新品のもので、これくらいなんですけれどいかがでしょうか」


そういって、両手をパーにして表す。


「十本ですか?」

「そんなわけないじゃないですか。一千本ですよ」


あはは。

十本だって。信じられない。

たしかに指だけを数えたらそうかもな。

まあ十本買ってくれるだけでも上出来だ。

さあて。買ってくれるか?


「一千本はちょっと……」

「まあそうですよねえ。ですが、一週間もあれば売り切れると思いますよ。もう生産されていない限定なんです。一千本じゃなくてもいいので。どうかお願いできませんかねえ?」

「ちなみに貴社の製品はどういった物ですか?」


おお! 企業の会議みたいになってきたねえ!

チャットだけだとこんな話す機会なんてなかったから、珍しいな。

たしかにゲームだけど、ただのゲームじゃないからな。


それにしても、うーん。

買ってくれそうな気配じゃない。どうにかして押し切らないとなあ。


「弊社の製品は、えっと……」


あ、そういえば、工場で使ってた羽ペンの特徴って何だ?

なんかいいところは……。えっと。


「そうだ。汎用性にすぐれ、インク切れがありません。魔法で動いているので、一生のこります。どうでしょうか」

「ニーズはどこへむけているのでしょうか」

「はい。ニーズに関しましては役所や企業、あるいは御店のような文章や製品をあつかう場所にむけております。また、一般でも使用しやすいために――」


かくして、俺とお店の人とのバトルがはじまった。

バトルは翌日の日付が変わるすぐそこまで続き、ついに終焉しゅうえんのそのときがやってきた。

お店の人もまじ。俺もまじ。じゃないと話にならない。

俺は金がほしい。場所を空けたい。

だがしかし、あいてはどうだろうか。

いらないものをわざわざ金を払って受け取るだろうか。

しかもこんなクソみたいな時間まで粘られて、だ。

俺だったらやだな。

でも、ここまで粘られると逆にいい製品を作ってる企業なのではと思う。

さあて、結末はどう転ぶか。


「わかりました。うちでおきましょう」


やったぜ!

これで大量の金をむさぼりとれる。

悪いなばあさんや。

これで成功してやるぜ!

問題はこのゴミがいくらになるか。


「本当ですか?! ありがとうございます」

「えっとそれでは取引は明日、お昼で。ここですね。よろしくお願いします」

「はい! お願いします」


これでベッドで寝ることができる!

慣れない敬語だったけれど、大丈夫だったのか。

ひとまずはよかったといったところだけれど、一千本をどうやって運ぼうか。


     *  *  *


「おかえりなさいませ」

「おう!」


俺は工場へ帰ってきた。

たくさんのお金をもって。


「俺はとりあえず寝るわ。疲れたあ」

「あ、あの。何をされたんでしょうか?」

「ん? いろいろとしてきた」


金をあつめて、研究を進める。

そして発展が今のところのスケジュールだが大丈夫だろうか。

なんだか不安がある。

まあ、そのうち落ち着くだろ。

今は目の前の状況だけみて、寝よ……。


「んじゃ。おやすみ~」

「ああ! 才次郎さん! もう……」




――翌日の昼。俺はまず起床するなり、道具店に向かった。


なんとか間に合った。

いやあ、おきたと思ったらもう十一時なんて。

久々に長く寝たなあ。


「こんにちは」

「ああ、こんにちは。どうぞ、裏へ回ってください。そこで取引をしましょう」

「はい」


裏かあ。店の裏ってどうなってるんだろ。

ゲームじゃいろいろな役に立ってくれた道具屋だったけれど、実際に店の裏を見ることはなかったし、とても気になる。


両手、背中、足下、荷車のいろいろな位置に置かれたバッグ、その中身すべての羽ペンをもって、辛い体勢のなか、店の裏側にまわった。


「大変でしたでしょう。こちらにおいてください」

「ありがとうございます」

「はいはい。それで、こちらがお金ですね。お確かめください」

「わかりました。親切にどうも」


これで工場も空いたし、ある程度の研究費用もそろった。

工場に戻って作業開始とするか!


     *  *  *


ん? 誰だあいつ。


「どうも」

「ああ、こんにちは。元ここの持ち主かい?」

「そうだけど」

「そうなんだ。僕の名前はロイだよ。よろしく」

「ロイか。よろしく。俺、才次郎」

「うん。知ってる」


ロイか。元土地主ってことを知ってることを考えると、こいつが研究者か?

大もうけしたっていう?

なんだか見た目はそんなによくないのになあ。

研究者ってこんなもんなのかな?


ロイは、白衣をまとって、工場の奥の部屋にいた。

ぼさっとした髪の毛が特徴的で、めがねをかけている。

茶髪の下からは細い目がこちらを望んでいて、力強い緑の瞳を感じた。

細身の高身長は、あまり健康的でないと言っていたが、食事はちゃんととっているらしい。

顔もスラっとしていて、イケメンだ。


こっちにきたのは新しい研究要員のためか……。

もしかして俺と同じことを考えてるのかもしれない。

そうすると……。


「どうやら、利害一致のようだが、一緒に研究をしないか?」

「はい?」


俺も研究したい。そのために金をためてきたんだ。

だがしかし、こいつはどうだ。

もうすでに金をもっていて、今は研究員を探しているという。

これ以上に俺とあてはまるやつはきっといない。


「今までにしてきた研究結果をみせてくれよ。そうしたら俺、なんでもできるんだ!」


いい話じゃねえか。

逸材を確保できて、それでいて、研究結果を見せるだけでやるっていうんだ。

金だってかからない。

こんなうまい話はないだろ。


「まあいいか。ほらどうぞ」

「どうもね」


なんだ。これ。

もうほとんど終わってるじゃねえか。

いいのかこんなんで。

埋まっていないところは、縛りの項目か……。

縛りを解放したところでなあ。


「どこを解放してくれるんだい?」

「うーん。難しい」


こいつは何の研究をしにきたのだろうか。

縛りの項目の研究でもないだろう。

もしかしたら縛りの要素を研究しようとしているかもしれないが、そうとうハードな人生になる。

金だってたくさん必要だ。


「おまえはなにの研究をしてるんだ」

「空いてない箇所だよ?」


まじか。研究する意味ないだろ。

どうすっかなあ。

そうだ。あれやるか。

掟破おきやぶり。


「なあ。研究してもしょうがねえ箇所研究しようとしてねえか?」

「まあたしかにいらない要素ではありますね」

「おまえ、あのシステム知ってるか? アルマルスティー初期からあるの」

「なにを言ってるんですか。ただの町人の私にはそんなことわかりませんよ」

「あっそ」


勘違いをしていたようだ。こいつただの町人だ。

誰かが操作しているわけでもない。

ただ、なにかのプログラムによって動かされているだけ。

なんだよこいつ。

プレイヤーでもないくせに、研究なんてしやがって。

動揺してる。

クソ。こんなやつに動揺してるなんて。

何をしてるんだ、俺は。


「リューズ! 紙をよこせ!」

「はい! 今すぐ!」

「なにをしようとしているのですか、才次郎くん?」

「まあみとけよ。ただの町人はよ」


それからしばらくして――。


「お持ちしました!」

「ありがとな」

「いえいえ」


リューズをこき使うのもあんまりよくないかもしれないなあ。

最近は、手足のように使ってばっかりだ。

ろくな食事もあたえてない。

俺は拷問でもしてるのか?

リューズは受刑者じゃない。

まともに使ってやるか。




「それでなにをするんですか?」

「これからおまえと、おまえの部下にやってもらうことだよ」

「私が指示します。空白を埋めるために――」

「無駄なことはしなくてもいいんだよ。そうあせるなって」


これとこれが必要だな。

あとはこれを研究させて、時間を経つのをぼーっとしてるだけか。

リアルっぽいゲームだし、いろいろやってみるのも重要な一手か。


「はいこれ」

「……なんですかこれ」

「指令書だが? 何かご不満でも?」

「縛りを全部解放してるじゃないですか」

「しょうがねえだろ。そうやってやるのが決まりなんだから」




アルマルスティーには他とことなった要素として掟破りと呼ばれる仕様がある。

ちなみにこの仕様を知っているのは開発と俺だけだ。

掟破りとは、本来研究することのできない空白マスを研究することである。無印も2も研究の中身は違った。

掟破りをするには縛り研究をし、かつその状態で一日を過ごせば良い。


たった一日と思うかもしれないが、達成できたのは俺だけだった。

縛りの全部を導入した中での一日は地獄だ。上級者でも、もって半日だろう。




「お、終わりました……はあ、はあ……」

「ご苦労」


俺の指示したのは研究員を金でつること、研究対象の研究をすること。ただそれだけだ。がしかし、それが終わるのに、なんと六時間もかかった。

日は暮れ始め、俺がこの世界にきて4度目のオレンジ色の空が見えてきた。

それから研究をはじめる。

研究速度アップが解放されてあるこの状態ではもはや怖いものはない。研究はあっという間に進んでいく。

縛り研究のすべてが終わったのは、ほんの三時間程度だった。


空はもう真っ暗で、役所に行こうと思っていたが、もうしまっているだろう。

そうだなあ。もう寝るか。


「今日はお疲れ」

「私をこき使うなんてあなたとんでもない人ですね」

「偉いやつとか金持ちとか、そんなに気にしない性分しょうぶんなんでね」


俺は本部の二階へ戻った。最近はここにもずいぶんと慣れた。

自分の家じゃないのに、自分の部屋がある違和感にこんなに時間を要するとは思っていなかった。

研究員は各自帰宅し、ロイは研究室と化したもと工場奥地で眠っていた。


――翌朝。

縛りの研究は役所でオンオフ切り替えができる。

そのため俺は早朝から役所に乗り込んでいた。


「国からの令状だ。中を調べさせてもらうからな」

「は、はい……?」


よし。令状と嘘をつく作戦は成功したぞ。

実際にはただの紙切れなんて死んでも言えねえな。

失敗すると思ってたからラッキーだぜ!

そんで、縛り変更のスイッチはどこだ?

えっと……。


「あ、あった」


すんなり見つかるもんだなあ。

縛りの確認と、次の行動を確認して……と……。

よし。やるか。


「縛りのスイッチ起動!」


おお、すげえ!

スイッチが次々に押されていく。自動ってのは優秀なだ。まじで。

ん〜と、これからはこうか。


「ロイ!」

「なんです? 朝早いですよ……」

「なんだ。まだ寝てたのか? 早く起きろっていったろ、昨日」

「ええ? 言ってましたか?」

「言ったぞ! それより仕様書を書いておいた。手順もバッチリだ。その通りに進めてくれ」

「はいはい」


よし。あとは俺は高みの見物といこうか。

ふぅ……。

地獄の始まりだぜ!


     *  *  *


「よし、いいかおまえら!」

「なにがはじまるっていうんだよ」

「うっせな。黙ってろよ。ロイ」

「ですが、才次郎さん。私たちはなにをすればいいんですか?」

「リューズ。お願いだから静かにしててくれ。今から説明するんだから」


ロイやリューズ、それとロイの部下達をあつめて、本部の一階にいた。

はじめて本部の一階にやってきたが、結構広いんだな……。

机と、椅子があって、正面には黒板があって。

リューズはなんでこんな施設を建てたんだ?


「まあひとまず説明をするか。そうだなあ……」


作戦を簡潔に紹介しよう。

まず縛り研究によってもうけられる内容は空腹等のステータス追加、走り無効、工場の防衛、神獣の接近、設備の建築無効、ゲームオーバー条件の追加などあわせて15の研究がある。

神獣は朝は十二時までおそってくることはない。今は八時だから、あと二時間は避難だ。

となり町には影響がないはずだから、となり町にこちらの町人を避難させよう。

そして俺たちは工場に戻ってきて、神獣が町を攻撃するのを待つ。

神獣が攻撃してきたら、町の防衛設備を駆使して、二時間耐えしのぐ。

二時間経ったら一度攻撃がやむから、ステータスの回復をする。

工場の様子をみて、二度目の神獣接近を警戒する。

あとは神獣の討伐、工場確認、神獣警戒の繰り返しだ。


「わかったか?」

「わかりました!」

「おい、軽いノリでやるんじゃねえぞ。そんなんだと死ぬ」

「……え?」

「だから死ぬんだ。死なれるとこちらとしてもまずい。だから体調面に不安がある物は今すぐ申しでろ。それ以外は避難の準備をしてくれ」


そうだ。

これはゲームだか、リアルっぽいゲームだ。

だから、誰も殺したくない。

もしかしたら自分が死ぬかもしれない。

そう自覚させる必要がある。


「準備ができたものから、役所の前へ来い」


     *  *  *


冷たい風が体に強くあたる。すると、身を震わせて空を見上げた。

だいじょうぶなのかな、と口にするその様子からは、不安と自身と恐怖がいり混ざった感情がうかがえる。

上下黒ジャージの不審者は工場の門を押し開くなり、弱気になって町を見下ろした。

ずいぶん高いところに設置されているこの工場は、古くなった証拠に緑のこけがコンクリートの壁にびっしりはりついている。

空にはまぶしく光る太陽と気持ちよさそうにふわりとうかぶ雲があるばかりだった。しかし、そこに感情なんてない。だから同情なんておきない。


「よっしゃ、やるか!」


俺の今居る場所は役所だ。

役所の二階。町が一望できる場所にいる。

最初の四時間はまずここで避難の監視をする。


「さあて、まじめにやってるかなあと」


特に異常はねえな。

暇だ。

思ってた以上にだるいぞ……。

かといって外にでるわけにもいかないし。

そうだ。話を聞いてみようか。


「ロイ! 才次郎だけど。どう? 順調か?」

「うっせーぞ! こちとら忙しいんじゃ。てめえも手伝え」


やっぱり人員不足か。でもしょうがないし、その分の時間はたっぷりある。

手伝いにいく必要はたぶんないかもしれんなあ。

それよりも今気になったのは。


「おいこら、ロイ! てめえこそなんだその口は! ちゃんとまじめに避難活動してるんだろうな?! まじめにできてねえと殴りに行くからな!」

「仕方ねえだろうが。今こっちは大変なんだよ。泣いてる子供がいて。親と離ればなれになったって」

「はあ~? 子供だあ?」


面倒くせえなあ。

むこうがわの町につけば親子で再会できるだろうに。


「わかった。まっとけ。今行くから」

「頼むわ」


それより先にほかの状況も確認しておくか。


「リューズ。あんたのところはだいじょうぶそうか?」

「はい、なんとか。でもお子さんがいないって言う女性が道をはばんでるんです。子供が見つからないとこの町から出ないていって」

「なんだと?!」


もしかしてロイのところにいる子供がその女か?

めんどくせえことしてくれるな。

どうすんだ。町の反対側同士にいるじゃねえか。

殺してでも避難を優先するか?

いや、それはできない。

誰も殺しちゃいけねえ。


「とりあえず、ロイのほうか」


     *  *  *


「ロイ。状況説明を」

「うん。この子が泣いてしまって避難が遅くなってるんだ。それ以外は結構終わった。一部の荷物だけだ」

「そうか」


荷物もまだ避難しきてないのか。

時間がかかるっていうのに。

馬の数が足らないか?

馬は今からじゃふやせねえよ。


「子供を荷物につんで一緒に行け。ロイ。てめえもこんなところにいるんじゃねえ。行って帰ってくるだけだろうが」

「行って帰ってくるだけにどれだけ時間を使うんだ。もう十二時になっちまう」

「そんときはそんときだ。とりあえずつれてけ」

「……わかったよ。ひとりで勝手に死んでろよ」


おう。そうさせてもらうぜ。

ったく。これでリューズのほうか。

いい年こいた大人が子供がいないってわめいてるって?

それで人様に迷惑をかけてるって?

てめえの子供と町の多くの命のどっちが大切だっていうんだ。

馬鹿か。


「おい、ガキ」

「……」

「こっち見ろよ。目をそらすんじゃねえ」


何歳だろうなあ。十歳くらいか。

まだまだガキじゃねえか。

こんな子供を放置する親ってのも存外面白いじゃねえか。

顔を拝んでやりたいぜ。


「いい目をしてるじゃねえか」

「……うん」

「うん、とか……。調子はいいみてえだな。母親だろ? 探してるのは」

「そうよ」

「ああ、おまえも女か。女は正直嫌いだ。扱いがめんどうだからな」

「……」

「だから心配すんな。俺のきらいなてめえの母親もてめえと一緒にしねえとうるせえやつだろうからな。だから先行ってろ。母親もそこにいるってきいたからよ」

「ほんと?!」

「聞いた話だぞ? あんまり信用するんじゃねえ」

「わかった」

「そんじゃあ早くいけ。かあちゃんも心配してんぞ。女々しい奴らめ」


あいつ男だとばかり思っていたが、女の子か。

やっぱり母親だったし、急いでむかって避難させないとなあ。

きっと一緒だろうし。

まさか違うなんてはずがないんだ。


「そんな人だとは意外ですね」

「違うな。言ったろ。俺はとは極力かかわりたくない。扱いが面倒だって」

「フフフ。そうだな」


ロイも変なやつだ。

まさぐり入れやがって。


     *  *  *


はあ、疲れた。

なんでこうも離れた位置に門があるんだ。

んで? その道を塞ぐ女ってのはどこにいるんだ?


「あ、才次郎さん!」


ああ、リューズか。


「リューズ! 女はどこだ!」

「こちらです」


城門前に案内された。

こっちには城門があるのか。

対面のロイのいるほうには特に何も無かったけど。

何かあるんだっけ?

まあいいか。

あ、女が見えてきた。

なにやってんだよ、あいつは。

邪魔くせえな。


「おい! そこの女!」

「何よ! あなた!」

「なんで邪魔してるんだ。皆避難できないだろうが」

「なんで私の子供がいないの! まだ町のなかにいるのに!」

「おまえの子供は町の反対側からとなり町に向かった」

「私の子供だってわかるの?! あの子はまだ家にいるはずじゃ……」

「ちゃんと俺が見届けた。てめえとあの子だけ一緒になれてねえんだ。だから安心しろ。これ以上迷惑をかけてくれるなよ!」

「…………」


なんだよ、急に黙りやがって。

むかつく。

だからいやなんだ。こんなやつら。

家族の愛情だ? ぬかせ。

そんなものクソだ。捨てちまえ。

今一番大切なのはなんだ?

今一番必要なのはなんだ?

てめえの娘の命か? それともここの大勢の人の命か?


たしかに俺は無差別に人を殺すようなまねをしている。

だがしかし、それは自分勝手でもなんでもない。

必要なことだ。大切な物だ。

家族愛で多くの命と勝手に取引すんじゃねえ。

そんななら俺の元で一生こき使われて、疲れて死ね。

他人を信用できなくてどうする。

親として子供に見本を見せてやるのが役目だろうが。

必要なものじゃねえか。ほら。いいんだよ。

馬鹿が!


「わかったか?」

「信用するわ。ただ、あの子が見つからなかったときはあなたを殺すから」

「かまわん。てめえの娘と俺の命を天秤てんびんにかけてやる」


女は大勢の命と一緒になって、荷車にのった。

この荷車は町の外がわをぐるりと半周してとなり町へいくだろう。


とりあえず一段落したか。

やっとだ。ああ、もう十二時になりそうだ。

リューズはここにいるが、ロイとその部下がいない。

まあだいじょうぶか。


「リューズ。工場へ戻るぞ」

「わかりました。準備をしておきます」

「おう」


     *  *  *


工場につくなり、俺は机にむかって地図を開いた。

神獣の反応が確認された。


「ついにきたか」

「やれそうですか」

「ロイをまて」

「はい」


神獣はどこを攻めるか。

対して関係ないけれどな。

ロイが帰ってこない。それが問題だ。


「俺は役所に移動する。ロイはここへ来るはずだから、つぎの研究を進めさせろ」


俺はそれだけ行って、メモを書く。


ロイへ。

もし帰ってきたのなら地図の第27番研究を進行せよ。

おまえにはこれ以外ないもしてほしくない。あとは任せる。

幸運を。

才次郎。


よし。手紙も書いたし、これでやってくれるだろう。

地図を置いて、役所に行くか。


     *  *  *


役所について俺は、まっさきに二階へ駆け上がった。

誰一人いない役所はなんだか新鮮な感じがした。


「久しぶりだな神獣が。やってやるから待っとけよ」


部屋で一人つぶやいた。

むなしく響いていく。

窓から入ってくる太陽の光を見上げると、機械に手をかけた。




――十分後……。

まだか。神獣の動きが遅い。

アルマルスティー3だと遅くなるのか?

それなら好都合なんだが。

神獣の動きは地図でしか確認できないから、今はないし。

うーん。


次の瞬間だった。

バーン!!

轟音とともに、城門が崩壊した。

神獣がついにやってきた。

神獣は蛇の形をしていた。

紫色の体が特徴的で、建物に乗っかって破壊行為を行う。

舌がニョロッとでいて、その長さはおおよそ五メートルほどである。体もその六倍ほどあって、胴が以上に太いその体格には驚かされる。

役所内部に警報が鳴った。俺は機械を操作して警報を止める。

俺の顔の正面にある機械のディスプレイに文字が浮かび上がる。

「アイアタル」

掟破りをすると一番はじめにでてくる神獣である。


「おしきた。いつも通りだな」


ロイはもう来たかな。

通信もできないしなあ。どうなってるんだろ。


防衛設備は整っている。

これで太刀打ち出来るはずだ。

神獣が城門の次に城壁内の建物に触れた瞬間、俺は大砲を発射する。


バーン!

先ほどより少々弱めな音が町に鳴り響く。


威力さがってねえか?

こんなもんだったっけ?

まあいい。処理するだけだからな。


それから何度か大砲を撃つと、神獣が後退しはじめた。

これでおおよそ一時間経った。

建物の倒壊は一〇棟むねだけだった。

これで五時間は安心できる。


よしっ、と。ひとまず工場に戻ろう。


「お疲れ。だいじょうぶか」

「お帰りなさい。私はなんともなかったですが、才次郎さんこそだいじょうぶでしたか?」

「もちろんだ。ロイは」

「戻ってきていません」


はあ?

あいつ死にたくないっていってとなり町に引きこもるつもりか?

まじかよ、ありえねえ。


「まあいい。地図を貸せ」

「はい」

「リューズ。そろそろ避難してくれ」

「……」

「避難しろよ。ロイにも伝えてきてくれ。早くこいって」

「……」


なんでこいつ、なにも言わなくなったんだ。

めんどくさい。

ロイも連れてきてほしいのに。


「ここは私の工場です。工場から逃げるわけには生きません。これしか残っていない私に、この工場以外で死ぬ場所はありません」

「勝手にしろ」


城門に向かって、と。

あーあ。結構酷く壊れてんな。

あんのクソ蛇もやるようになったじゃねえか。

三時間でどれだけ直るかな。

ロイのクソッタレが。

ロイがいたらどれだけ楽になったことか。


ぴこん!

地図から音が鳴る。

聞き覚えのある音だった。


うわ! まずい。ステータスのこと忘れてた。

空腹ステータスがそこをつきかけていた。

腹が減らないんだなあ。

めんどくさい。

いったん工場に戻ろう。


食料だけもって戻ってきた。

がしかし。

ぴこん!


「またかよ! さっきおおよそのステータスはクリアしておいただろうが」


ん? 人の反応?

誤反応だろ。

放置しておこ。


城門や一部の建物を見渡して役所に戻った。

なぜか人の誤反応は消えない。


何で消えないんだよ。

邪魔くせえ。

行ってみるか?


時間も確認せず俺は役所から反応のある場所に向かった。


「どうも~」

「VAAAA!!」


は? 何の声だ?


「おい、誰かいんのかよ! おい!」


声は聞こえなくなった。

さっきのVAAAってなんだよ。

あ、反応が消えた。

死んじまったわけじゃねえよなあ?


地図がぴこんと鳴る。


ああ、どうせ、人の反応だろ?

何もいなかったって。

って時間じゃん!

やばっ!


工場まで一度戻り、急いで役所へ向かった。

やはり十分ほど遅れていたためだろう、時間が経ったあとでも役所に入ったと同時に神獣がおでましした。

ディスプレイには、「エーギル」と表示されていた。

巨大な図体ずうたいで、白髪のおじいさんの姿をしていた。


「第二ラウンドと行こうじゃねえか」


大砲を発射しつつ、機械を操作する。


「音声認識を開始します」

「MP501を五門起動。右に三十度回転し、水平角度三〇度を保て」

「了解しました」

「加えて、第25簡易用補填装備を起動。MP501に補填開始」

「了解しました」


音声認識はやっぱり優秀だな。

反応できるようにしておいてよかった。


大砲を撃ち続けて、ひるみはじめた。

約三十分が経った。城壁を触れてからは何も触れていない。

大砲を発射を停止させ、建物を破壊しているところを狙って。


「て!」

「了解しました」


バン! バン! バン! バン! バン!

一斉に砲口が火をいた。

立て続けに砲弾が発射され、毎分1500メートルの砲弾が神獣の腹を突く。


やったぜ。これである程度はひるんだだろ。

周囲の状況はっと……。特に異常はなさげかな。


工場もだいじょうぶそうだし。

建物もほとんど残ってる。

城壁だててまだ残ってるし。

あと一体は余裕かな。


これで三時間が経過した。

工場へ戻ってステータスの確認と、城壁の調査かな。


「急がないとまずい。状況を説明しろ。ロイは?!」

「ロイさんはまだいらしていません。それに――」

「急いでロイを呼んでこい! 一時間あれば帰ってこれるだろ。急げ! 間に合わなくなる!」

「……? はい。わかりました。状況は」

「状況説明はいいから、さきにロイだ!」


クソッ。あのへたれめ。

工場が潰れちまうだろうが……。


空腹ステータス等のステータスを回復させ、地図をもって俺は外へ繰り出した。

外には大災害が広がることになる。

一時間じゃなにもできないから。


城壁の確認はだいじょうぶ。

特異反応なし。

建物倒壊数、20棟。

ああ、砲弾があたって何件かやっちまったなあ。

銃弾も足りてる。ただ回復材を運ばないときついか?

ああ、でも時間が足りないなあ。


ぴこん!


ああ? うるせえな。なんだよ。

近くで人の反応?

どうせ誤反応だっての。


「VAAAA!!」


以前聞いた声より大きな声で何者かが叫んでいる。


畜生誰だ!

反応に近寄ってみると、瓦礫のしたに埋もれた女性を発見した。


「誰だおまえ。だいじょうぶか!」

「VUVUVU……」


なんだこいつ、やばいやつか。

クソッ。瓦礫が重すぎる。

動かねえぞ。

叩いても……おきねえなあ。

しゃべってるから生きてるとは思うんだけれど。


「……はっ!」

「おきたか。よかった、目が覚めて。どうしたっていうんだ」

「なにここ?」

「は?」


確かに代わり映えしたが、そこまで形がわからないほどじゃない。

こいつ記憶がないのか?

それとも別か?

うーん。


「出して! 出して!」

「うるっせえ! 今出すから待ってろよ! 落ち着けって」

「ハァ……ハァ……」


重てえんだよ。この瓦礫クソが!

ロイがいたら助かったんじゃないか?

あいつのせいだ! こんどはあいつが馬鹿……だ……。


脳裏にユニの言葉がよみがえってちらつく。


それだ、違う。ロイが悪いんじゃない。

俺こそ馬鹿だ。

人のせいにして生きてるんだ。


「クソがッ!!!」


ぴろん! ぴろん!


二回なるって何の合図だ?

はじめて聞いたぞ?


バン!!


役所のほうからだ……。


「あー、あー。才次郎君? 遅いですよ~?」


あんのやろう。何しやがるんだ。


「そいつは置いていけ。時間見ろ馬鹿たれが」


は? そうだ地図。


「トールが出現しました」

トールが?!

まずい。死んじまう。

この女が死んじまう。

そんなのだめだ。

だって俺は。


「才次郎!」

「だって俺は人のせいにしないって決めたからよ! どうせ置いていったら、今度はロイのせいにする」


だから俺はなんとしてでも連れて帰るんだ!

役所は目の前なのに。動けねえ。


「才次郎! 後ろ!」


振り返るとそこにいたのは赤い服をまとった若い男がいた。

身長は二メートルほどあり、石斧せきふを空へ掲げている。


あ……。死ぬんだ俺。

まじか……。


バン!

大砲の音がする。


「何してんだよ! 馬鹿が!」


役所からロイが射撃をしてくれている。

なんとか助かった。

早くいかなきゃ。死んじまうんだ……。


「クソ! クソ! クソ!」


なんで持ち上がんないんだよ。どうしてだよ!


「クソが!!!」


瓦礫が崩れた。トールが雷を落したからだった。

女性が抜け出して、俺と一緒に役所に向かって走り出す。


役所の扉を開けて開口一番。


「助かった……」


まずい、そうだ。それどころじゃない。


「ちょっとまってて」


俺は女性にそう言い聞かせ、二階に駆け上がった。


「ロイ聞け! あいつはトールだ。トールには近づけないんだ。工場に戻るぞ」

「何言ってんだ! 砲塔のほうが強いだろ。工場にはなんにも……」

「いいから!」


ロイの手を引いて、一階へ降りる。

女性の前にトールが立っていて、石斧を振りかざす。

俺はトールにむかってつっぱしていた。

それから激突して、トールが石斧を落すと、女性の手を引いて二階へ駆け上がった。


下はどう考えても危険だ。

どうする……。


「ジャンプしろ」

「無理だよ! 無理無理!」

「死ぬぞ?! 俺は先にいくから、安心しろ!」

「ちょ……」


最後の声が聞こえる前に俺は二階から飛び降りていた。

地面の感触が肌に伝わる。冷たい。

女性、ロイの順番に結局降りてきて、俺たちは工場へ逃げ出した。トールが二階の窓辺からこちらを見ていた。

俺はそれ以上振り返らずに工場へひた走った。


「リューズ!」

「その女性はどうされたんですか!」

「知らん。保護してくれ」

「ええ。いいですけれど」

「ロイもここに」

「なんでだ。あいつは……」

「いいから」


俺は工場から飛び出していった。

雨が降っていた。


城壁に近づいていた。

トールは役所の二階からこちらを見ていて、町を破壊しようとしていた。

雷神であるトールには、石斧と雷を扱う能力がある。

それを利用して破壊していた。


町が壊れていく。

でも俺は立ち止まっていられない。


「あった!」


息を切らしながら、城門に隠しておいた武器を拾う。

銃だ。


これがあれば……。

よし役所に行こう。


役所の二階についてトールと対峙する。

俺はトールに銃を向けていて、トールは石斧をむける。

銃を数発撃つ。

トールはすべて石斧でカバーした。


俺はそこから逃げ、トールが追いつかない程度で走り出す。

時折振り返っては銃を乱射する。

しかし一発もあたっていないようだった。

すこしずつ空が晴れてきた。

よし。


町のなかを鬼ごっこする。

家の中にかくれたり、走ったり、トールはそのたびに雷をうつ。


いてえ。

転ぶとか懐かしいな。

まじでよ!

トールと長い距離で対峙した。


ああ、辛い。

腹減ったし、ステータスもまずいことになってるはずだ。

疲れたし、走りたくねえよぉ~。


トールが不意に距離を詰めてくる。

俺は銃を乱射して応戦する。

一発もあたることがない。


そして、俺の首に石斧があてられたときだった。


ヨルムンガルドの出現を確認しました。

背中にあった地図がいった。

ぴろんという音が鳴り、トールは九歩

大きな蛇が雲を突き抜けてやってきた。胴回りは直径でもトールの身長を超えるほどある。

そしてヨルムンガルドはトールをくわえると、空へ消えていった。


トールの対処法。

トール登場三時間後に発生するヨルムンガルドを待つ。

やったぜ!

なんとか勝利したか……。

よし、工場に戻ろう。


「よお」

「才次郎さん! よかった。助かったんですね」

「おう! 正直死ぬかと思ったわ」


自分でいうのもなんだが、よく生きていた。

工場も助かった。

町はほとんどが破壊されたが、まだいい。


「おお! 生き返ってきたか。死んだと思ったぜ」

「あんまり馬鹿にしたもんじゃねえぞ。俺は天才だからな」


     *  *  *


トールが出現したら掟破りの神獣の出番は終わり。

あとは別の苦行になるが……。


あと一時間は休憩できるな。

ひとまずは休もう。


ずぶ濡れになったジャージを脱いで、そのあたりにあった布を身にまとう。

銃は適当に投げ捨ててきた。

地図を広げてみる。


「うわっ、まじか」


――それから一時間後。


「一時間たったな。地獄へようこそ」


本当の地獄はこれからだ。

各ステータスの回復材、研究の開始。

機械を動かしてやらないとな。金もなくなる。

研究内容もえぐい。思っていたより酷い。


「ほら仕様書」

「うわ! 長いなあ」

「それ一人ひとつだから」

「嘘だろ?!」


俺も工事開始か。

まずは機械の設置かな。

はい。完了。

あとは稼働して、適当に監督でもやってればいっか。


すでに時間は24時を回り、残すは12時間になった。


よし耐えるぞぉ!

回復材、飲も……。

まっず。


――12時間後。


ガチャンガチャン……。

縛り研究のスイッチが一斉にシャットダウンされた。


ついに終わりを迎えたぞ!

寝たら死んじゃうし、回復材の生成で金は消えるし。

研究者もダウンしてなかなか研究進まないしで災難続きだったけれど、楽しかったなあ。


「お疲れ、才次郎」

「おう、お疲れ。ロイ」

「お疲れ様です、才次郎さん」

「お疲れ。リューズ」


とにかく大変だった。

一日分やりきった感がある。


もう寝たい。寝れなかった分寝たい。


「だめですよ。ほら、となり町に避難させていた町人を呼び戻しに行かないと」


もうやだ……。


それからほとなくして町人の避難から帰ってくるのが完了した。

そして町の復旧作業がはじまった。

すべて俺の金がもった。

当然ちゃあ当然だがな。

足りるかな?


「おにいさん」

「誰だ……ってあんときのガキか。どうした」

「お母さん。町にいなかったの……」


え? 嘘だろ?

だってあとから町に向かったあの女の娘じゃないのか?


「おにいさんのバカバカバカバカバカバカ……」


そんなに殴られてもなあ。

復興作業中に誰かみつかったりとかしてないのか?

誰だ、こいつの母親は。


「エリス? その声エリスなの?!」

「そ、そうだよ! お母さん?!」

「そうよ」


いや、嘘でしょ?

たまたま助けた人がお母さんで、その前に思っていた女が違う人なんて。

いろいろ大変だなあ。


「なにやってるだよ」

「なんよ、ロイか」

「状況はわかった。ちゃんと名前を確認したりとか、顔つきとか確認して、本人かどうか探らないから悪いんだ」

「それもそうだな。それでどんなことで?」

「研究結果がでました」

「そう、研究内容の報告を」

「はい。研究結果は合成材です」

「合成材だと?」


ああ、あれか。電気と魔法のやつか。

正直あれ使い物に並んだよなあ。

研究したのにもったいない。

金も使い果たして、研究できないし、これ以上機械を売り飛ばすのは難しい。


「才次郎さん。タンスのなかは見られましたか?」

「ああ、見ないように言ってた本部の二階のあのタンスだろ?」

「そうですそうです。そこにヒントが入っているはずです」


俺は本部へ向かった。

タンスの上段、中段、下段とみていき、下段で目をとめた。


ノートが入ってる。

なんのノートだ?


「……これは!」


電気と魔法の合成材について書いてある。

どういうことだ?

使いみちものってる。

誰が書いた? なんでリューズは知っていた?


「なんだこれ?」

「ごらんの通り、電気と魔法の合成材の詳細です」

「なんで知ってるんだ?」

「どうしてでしょうか」


とにかく作ってみるか。

えっとなになに……。


――「できた!」


変な液体質のものができたけれど、なにこれ。

何に使うんだ?


「おお! できましたか」


そうだなあ。何に使えるんだろう。

こういうときのノートか。そうだよなあ。

ええっと。

熱を加えて形を整えると、固形化して液化しなくなる?!

なんだよそれ。プラスチックじゃん。

えっとなになに?

液体として使用する際には、ガソリンやペンのインクの代替品になる。また、消毒効果があり人体に影響がないので、消毒液として使うこともできる。さらに……。

えぇ。こんなに使い道があったのか。すげえな合成材。ずっと使えないと思ってたのに。

特に固形化させるのが簡単で液化しなくなるからとても優秀だ。

熱を通せばフライパンややかんにもなる。

それにくわえ医療にも使えるときた。

こんな優秀な材料をみたことがない。


「どうでしょうか?」

「大当たりだ」

「左様ですか」


それにしてもこのノートを書いたのは誰だろう。

立派に研究をしたんだなあ。


「電気と魔法を大量に用意してくれ。今ある機械だけで加工を頼む」


仕様書もまとめておかないといけないのか。工場も広くしないとなあ。

そう考えると、結構大変か?

金は……まずいな。大量発注をかけたが、失敗したら終わる。

まあだいじょうぶだとは思ってるけれどさ。


ひとまずペンのインクか。

うちならではの羽ペンを作ろう。

羽ペンなら得意だからな。

それにくわえて、熱加工をして、合成材をその中に入れよう。

そうしたら怪我をしたときに売れる。


あとはそうだなあ。熱加工をどう利用するか。

今は何が要求されるんだろうか。

そうだなあ。何を保護できるものがほしいかな。

この前も神獣に襲われて壊れた物がたくさんあっただろうし。

神獣がおそってきても壊れない小道具入れを作ろうか。

長期的に低温で加熱し続ければいいだけみたいだしな。


うし。

とりあえずはそこを目指して、金を稼ぐかな。


俺は機械のセッティングをして、はじめに羽ペン作りにとりかかった。

材料費が安いから、羽ペンも安くできた。

これで大量に販売できる。

でも作りすぎてもだめだからな。

そうだなあ。

五〇本程度にしておくか。


「こんにちは。羽ペンはいりませんか?」


俺は歩いて羽ペンを買わないかと聞いて回った。

前より安くできている羽ペンを見て今だけ安くなっていると思った人が買い込んでいった。道具屋も安く仕入れられると聞いて半分以上買ってくれた。


よし、成功したぞ。

五〇本で正解だったかもしれないな。

前みたいに一千本作ったとして絶対に売り切れるはずがなかったからな。

うん。

ある程度金も入ったし、機械をもっと稼働させて、違う製品にとりかかるか。


そういって俺は第二に考えていた、消毒液を販売しはじめた。

医療機関が安い値段で大量に買ってくれるのでとてもいい収入になった。

また、さらに発注をかけてくれるよう契約したので、将来安泰になってきていた。


第三案の小物入れは予想以上に売れなかった。

あまり需要がないらしい。

今は作る必要がないから、機械の稼働を停止させ消毒液のほうに専念させた。


「順調だなあ。これはとなり町まで行ってもいいかもしれない」


実行にはまだまだだけどな。

視野には入れておこう。


それにしても金ががっぽがっぽだ。

小物入れが売れなかった分、羽ペンと消毒液で頑張っている。

でも、そろそろまずいかな。

新しい事業にとりかかろう。

でもこいつのやれることはほとんど尽きた。

ガソリンの代替品っていってもガソリンが必要ないからなあ。


そうだ。

固形化した合成材はどうなるんだ? ガソリンの代替品になるんなら燃えないのか?

ずっと燃やし続けたらどうなるんだろう。


そんな思考から始まった研究が今、研究室でも研究されている。

俺はなんとなくこのノートを書いたやつの気持ちがわかった気がする。

こいつは単に興味本位で、どれだけ金が儲けられるのかって言うのをずっと考えてたんだと思う。

さて、なんかいい新商品でも思い付かないか町をぶらぶらしてみるかな。


     *  *  *


工場はとんでもなく大きくなった。

事業を展開し続け、今になっては知らない人がいないほどの大きさになっていた。

消毒液、羽ペンをはじめ、合成材にとある化学物質を加えて合成材の新しい新材料がうみだされるようになった。

なにもなかった本部の一階には店舗がもうけられ、毎日人がなにかしら買いにくる。

俺の製品を気に入って契約してくれたところもたくさんあった。

広告をうたなくても十分に金を稼げるようになった今、俺は工場長となって工場の新設をしようとしていた。


そういえばいつしかロイのいた研究室も俺が買収しちまったなあ。

ロイは今なにしてるんだろ。

リューズは俺の秘書になったがこれでいいんだろうか。

俺の工場だから俺はここで死ぬとか言い出して。

あんときと比べてもあんまりかわらないけれど、頑張ってるし慕ってくれる。

まじでいいやつだよ。


でも肝心の俺は仕事の意味がわからなくなった。

なんでこんな仕事してるんだろうって思った。


「そういえば才次郎さん」

「ん? どうしたんだ?」

「三年前才次郎さんがこの工場に聞いてくれたときに、私言いましたよね」

「なんか言ったっけ?」

「言いましたとも。家を渡すって」


ああ、そうだった気もする。

最近仕事仕事で、大事なことは次々に忘れてしまう。

たぶん、この仕事をはじめたのも家がほしかったからなんだろうなあ。

なんだかそんな気がする。

……うぅ。なんだか頭が痛い。

どうしたのかな。やっぱり働きすぎかな。

あはは。


「だいじょうぶですか?」

「ああ、うん。だいじょうぶだよ。ありがとう」

「おうち……。ごらんになられますか?」

「本当に? いいねえ。仕事が終わったら行ってみよう」

「わかりました」


長くこの世界に迷い込んだ俺は、現実世界のことなんてとうに忘れた。

何があったか。どんなルールのもとどんな生活を送っていたか。

なんで三年なのに思い出せないんだろう。

もう数え切れないほど見上げた夕陽がまぶしく輝いている。


「よし! あと少しで終業時間だし頑張りますか!!」


自分にかつを入れて、仕事に戻る。

パソコンのキーボードのカタカタ音が本部の二階に戻る。

静寂が再び訪れるのはそう時間が経っていないときだった。


おお! いい家だなあ。

めちゃくちゃでけえ!


長方形の立方体で、色は真っ黒。

ドアはおしゃれな、木製のものだった。

庭がついていて見るからに価格は高い印象を受けた。


「これいくらだよ」

「お金なんて滅相もない。約束で譲るって言っていたんですから」

「そうだな」


やべえ。これは興奮する。

これ何坪あんだ?!

二階建てかなあ? だってあれベランダあるし。


ドアを開け中に入ると、そこは奇妙な装飾をされた家具がたくさんあった。

入ってすぐに階段があって、正面の廊下をいけばリビングになっている。


きれいな家具だなあ。

リビングのカーペットも好みだし、机は大きいからなんでもできそうだ。

ただ、なぞの刻印。これなんだ?

蛇のようなドラゴンのような……?

まあ気にしてもしゃあないか。


「いい家じゃねえか。どうもなリューズ」

「はい。よろこんでいただけてさいわいです」


でも俺は家を与えられることによって引きこもりになってしまうかもしれない。

別に金も必要ないほど稼いで、工場やブランドを売り払えば一生遊んで暮らしていける。

それも悪くない。

アルマルスティー3のなかにいる感覚は全くないし、帰ってもつまらない。

だからここに引きこもってもいい。

悪くない。


だがそうしたら生きがいは何になるんだろう。

生きてる意味はなくなってしまう。

今は必要とされているからいいんだ。でも引きこもってしまったら、自分がいなくても工場は運営されていける、と考えるといまいち悔しい。

自分が苦労せず、かといって皆の役に立ってると実感ができそうな分野……。そうだなあ……。


「貿易すっか」


とはいえ、今日はもう眠いし、暗いしでやる気もないから寝よ……。


     *  *  *


「うわあ! 超良い天気じゃん!」


雲一つない真っ青な空に太陽がぽつんと浮いている。

いままで以上にきれいな空だった。


テンション上がるなあ。

久々にとなり町に行ける。

こんなにいい天気でよかったよ。

今は10時くらいか……。

まあ昼にはつくだろ。


そんな考えも甘く、13時ごろにとなり町につくのであった。


最近運動していなかったというか、工場にこもり続けていたから体力が落ちてる。

そんなのはまあどうでもいい。

今肝心なのは貿易をすること。

この町にたどりついたことで小さなステップは踏み出した。

だからいい。

次は取引をしてもらえそうな場所を探したいんだが、どこかに店はないか?


というかまず町がでかい。

俺の住んでいる町の三倍の広さはある。

高い建物が多いし、発展もじゅうぶんしているようだった。

だからこそ不安になる。

この町で俺の技術はいるのか。

こればっかりが頭をよぎった。


「こんにちは」

「はい、こんにちは」

「突然ですが、弊社へいしゃの商品買いませんか?」

「え?」


そりゃあ突然店にきて買いませんかって、驚かないほうがおかしい。

だが、このあいてが崩れた状況で攻めるのがいま一番いい。

ここでおしたりなければ負けるかもしれない。


「申し遅れました。わたくし、となり町で合成材を生産しております。天野才次郎と申します」

「あら、ご丁寧にありがとうございます。わたしはこの店のオーナーのディアンヌです。このたびはどんなご用でいらっしゃられたのでしょうか」

「はい。さきほども申し上げました通り、となり町にある弊社の工場と契約をしてこのお店で商品を売っていただきたいのですが、どうでしょうか」


それから、俺とディアンヌの勝負がはじまる。

俺は合成材の有用性と、生産性を伝え、ディアンヌは町での需要について語る。

あるいは、どのていどの生産をどのくらい頻繁ひんぱんにおこなって納品のうひんできるか、店での売り上げと契約をした場合の内容を詳しく談義していった。

昼下がり、少々腹も減ってきたところでふと、ディアンヌを食事に誘ってみた。

ディアンヌはじゅうぶんにお腹をすかせていたようで、がっつりしたものが食べたいなどと話をしていた。

取引先と食事をしたり、談義をするのはとても充実していたし、ディアンヌとの仲もふかくなり、取引は成功するものだと思った。


そして決着の時がくる。

食事を含め二時間の談義を交わしたところで、ディアンヌが口を開く。

頂点より西に四十五度太陽がそれたころ、まぶしく輝く光のもとで言う。


「わかりました。ここまで来ましたし、せっかくなのでお茶でもいかがですか」


まだ続くようだ。

ただ、前向きな検討をしてくれるみたいである。

がしかし、この町の技術をみるかぎり、俺の技術はそこまで悪くない。

安いし、頑丈で使える幅も広い。やれることだって、この町の技術には勝っていると思う。

俺の製品がわるいのか。

それからしばらく話していたが、町にも光がともりはじめ、そろそろ帰らないといけない時間になってきた。


「今日はこのへんでお開きに。また明日伺います。ぜひ前向きな検討をお願いします」


俺はそういって町をあとにした。


     *  *  *


「なにやってるんだか。ずっと心配してるのに全く帰ってくる様子はないし、帰ってきたと思ったら、道具屋に引きこもって出てこないし」


あいつはなにをしてるの?

なんでうちに帰ってこないの?

私はずっと待ってるのに。一度決めた家にまったく帰ってこず、心配を裏切る。

そんなやからだったのだろうか。

私はなんとか生活を保てているが、あいつはどうなのだろうか。

まだ生きてるからだいじょうぶなんだろうけれど、心配だ。

でもこちらから声をかけると負けたような気もする。


窓からずっと帰るところを見つめて、夜の町に消えていった才次郎をみる。

この家に帰ってこない。私を捨ててしまったのだろうか。


     *  *  *


翌日町にやってきたわけだが、こんなことになるなんてな。


「なんでこいつはまた倒れてんだよ」


赤い服をきた女性。

なんだか見覚えのあるシュチュエーションだな。

いやな予感しかしない。

声をかけたくない。

道具屋の前で寝てるとか営業妨害もいいところだ。


「ユニ。てめえユニだろ。なにしてんだよ。おい」

「う~ん。あ、才次郎じゃん。なによ」

「なによじゃねえ。邪魔だからどいてくれよ」

「うっさい」

「なんだ。ちゃんと食えてねえのか? 助けてやろうか?」

「いらない。心配されても帰ってこない悪いやつに助けられる義理はないわよ」

「あっそう。じゃ、頑張って生きてくれよ。じゃあな」


つい頭にきてスルーしてしまったが、わりと心配だ。

死にかけてんじゃねえか。

せっかく助けてやるっていうのに、無視しやがって。

もったいねえよな。

俺と一緒に来たらいいことだらけなのに。

あーあ。


そんなことはいいか。とりあえずは交渉だ。

そこが大事だからな。


「こんにちは。ディアンヌさん」

「いらっしゃいませ。才次郎さん」


何気ない会話からはじまってるがここもひとつの大事な手順だ。

慎重にやっていかねば。


「昨日の続きですよね?」

「そうですね。契約をお願いしたいです」

「わかりました」


それからディアンヌは無言になる。


なんで黙ってんだ?


「あれ? どうしましたか」


いや、どうしたって聞きたいのは俺のほうなんだが。

どうしたらいいんだ?

商品でも買えと。それくらいならまあいいんだけれどさ。

椅子にすわって話さないの?


「契約の書類はもってきていますよね」

「もちろんですとも」

「では、こちらにおだしください」


もしかしてこれはOKをもらえたということでいいのか?

や、やった。

わかりましたってそういうことか。

よくわからないんだけど。


「これからも末永くお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします!」


??? なんだかいいのか悪いのか。

はっきりわかってないんだけれどまあ契約はとれたみたいだし。

きっと昨日考えておいて、今さっき応えをだしてくれたんでしょ

そうだ。きっとそうだ。

うん。そういうことにしておこう。

ひとまず工場にもどって話を聞いてみようか。




「ってことで、契約をとってきたぞ! リューズはどこだ!」

「リューズはここです。才次郎さん」

「契約書と、依頼書ね。これの納品を頼んだわ」

「わかりました。こちらで仕様書を作っておきます」

「よろしく」


疲れたけど、なんとか契約できてよかった。

生産も追いつくだろう。

そうだなあ。家に帰って休むか。

俺っていらないんだなあ。

でもこれ以上生産性をあげるには金が足りない。

一生生活する以上に必要っておかしいと思うけれど、案外そうでもない。

土地の大きさや工場を保つ資金、材料費、材料を集める人件費、研究費用などが収入と比べて大きすぎる。

もうちょっとお金が入ってくれば考えてもいいかもしれないんだけどなあ。


「そういえば才次郎さん」

「どうしたリューズ?」

「社長からお話があるそうです。本部へお願いします」


社長?

この工場だけで運営してるんじゃないのか。

話ってなんだろう。

もしかして工場を売れとかそういう話かな?

町の邪魔になってるのは間違ってないし。

というか、社長って企業のビルみたいのはどこにあるんだろ。

となり町かな……。

そんなところみたこともないけれど。


     *  *  *


「どうも、才次郎だ」

「やあ、こんにちは。社長のクォークです」

「んで? どんな話で?」


本部二階、俺の座っていた椅子に腰を下ろしてクォークが言う。

暗くなってきた部屋に、パソコンの光がともっててらす。

クォークと名乗った男性はスーツ姿で足をくんでいた。

いかにもな風貌ふうぼうで、高そうな腕時計が目に付く。


「そうだね。今日呼んだのはいい話をもってきたからなんだ」

「いい話か」

「そう。いい話」


話が長かったから要約しよう!

クォークは社長の立ち位置を辞退して、その席を俺に譲るというのだ。


「どうしてそんな唐突に」

「君の功績を聞いたんだ。たぶん僕よりいい仕事ができるよ」

「でも俺には工場がある。契約を済ませたばかりなんだ。関係を保つくらいいいだろ」

「まあ、そのくらいはね。でも、早く君にこの席を譲りたいんだ」


うーん。

悩むところだけれど、いいだろ。

わるくない。

今まで以上に仕事は充実するだろう。

でもリューズはついてくるのかな。

それともクォークと一緒に工場にのこるのか?


「良い返事を待ってるよ。長くは待てない」

「……」


その日は回答せず、結局帰宅してもらった。

正直なってもいい。

社長になったら、どれだけたくさんの金が舞い込んでくるかわからない。

楽しく暮らせるだろう。

だが工場はどうなる?

この工場だけが俺の生きがいになって、ここまで生きてこれた。

だが、会社を運営するのではどうだ。

工場にほとんど触れられず、工場とのかかわりも薄くなっていくだろう。

俺はこれでいいのか。


――翌日。

またクォークはやってきた。

スーツ姿がよく似合っている。

どこからかよっているのか、本部に来るときには砂がついていた。


「決まったかね」

「ええ。俺は社長になる」

「それは嬉しい。ありがとう」


俺は社長になって、この世界を手におさめなければいけない。

アルマルスティーで社長になれといわれたら俺はどうしていたか。

絶対に社長になっていた。

社長になったほうが充実するし、楽しいだろう。

やれることも広がる。

いま工場に必要なのは金だ。

だから、社長になって金を集めて、またこの工場へ帰ってくる。


「それじゃあ、案内しようか」

「おう。頼んだ」


あ、でも。


「それより前に行かなきゃいけないところがある」

「? どこか行きたいところがあるんですか?」

「リューズとロイのとこだよ」


ちょっと待っててくれ。

そう言って俺はその場を後にした。


     *  *  *


「リューズ! ロイ!」

「なんでしょうか」

「どうかしたのか」


それから事情の説明をして十一時ごろ……。


――。

「そうか。社長になるのか」

「いってらっしゃいませ。頑張ってくださいね」


そんな泣くほどの別れなのか?

工場のほうが重要なんだがな。


「とりあえず、だ。ふたりはついてこないのか?」

「僕はいかない。工場に部下がいるからね」

「私も工場を運営していかないといけないですから」


そうか。こいつらはのこるのか。

すこし寂しくなるなあ。

俺が社長になることになにも思っていないってのが一番つらいけれど、泣いてるし何かしらは感じてくれてるんだろ。

俺はこいつらになにかしてやれたんだろうか。

俺はこいつらにいろいろしてもらった。

命を救ってもらったのに。

家だって捨てきれない。

最近手に入ったばかりだ。


それも含めてしょうが無いか。

全部全部、しょうがない。

俺が一歩前に進むためだ。


「才次郎君、いいかね?」

「だいじょうぶだ。こいつらならなんとかなる。じゃあな」

「はい。さようなら」

「またな」


     *  *  *


「ついたよ」

「うん」


車にのって三十分。

しばらく寝てしまっていた。

がしかし、目を開いた先にある景色に驚いて覚醒した。

大きなビルが建ち並び、マンションがところ狭しとならんでいる。

道路が走っていて、横に看板が立っている。

いつしか俺の見た景色。

どこでみたか、どこの景色か、いつの景色か。そんなのわからない。

でも見覚えがあった。

目の前にある大きなガラス張りの建物にクォークは入っていく。


「早くおいでよ。才次郎君」

「お、おう」


俺があっとうされるなか、平気な顔をしてクォークはその建物に入っていく。


滅茶苦茶めちゃくちゃでけえ。

なんだこれ。

うちの工場と全然違うんだけど。広いし、きれいだし。


「昼食食べてないだろ。会社の案内をするまえにどこか食べに行こう」

「すこしだけ早いが、まあいいか」


     *  *  *


俺とクォークがきたのは、カフェのような場所だった。

どれも価格が高いが自由に食べていいという。


「いいのか。こんな高いとこ」

「ああ、かまわないよ。次期社長として頑張ってもらうんだから」


次期社長かあ。

自分が社長として働いてる印象があんまりない。

急に最高責任者になれって言われても、いくらゲームとはいえ、リアルっぽいものだからやはり難しい。

とはいえ、決断してしまったものはしかたがない。

頑張るしかないだろう。


「何か聞きたいことはあるかい?」

「なんで俺に会社を渡そうなんてしたんだ」

「勧誘するときにも言ったけれど、僕が君を気に入ったからさ。経営に関しても無駄がない。リューズから聞いてるよ。報告書にもあったけれど、君はすばらしい経営者だ。決断力もある。責任感もね」

「俺の次の工場長は誰になるんだ」

「僕が手配しておこう。だいじょうぶ、信用できるやつさ」

「……そう。んで、逆あんたから質問はないのか」

「僕はすべて君のことを報告書を通して見てきたからなにもないよ」

「そう」


それからしばらくの沈黙があって、クォークが覆す。


「経営者としてどんな覚悟だい?」


やけに真剣な口調だ。

いつにもまして研ぎ澄まされた目で見る。

というか、なんで料理に手を着けないんだ。もったいないなあ。

でも。


「経営者としての覚悟かあ」


あまりいい回答はできそうにもない。

なんだか、ぽっかりあいてしまって。

いつもゲームをもとに頑張ってきていたから、なんとなく感覚で進めれたけれど、工場とは違うから、あまりなれていないかもしれない。

不安でいっぱいなのが現状だ。

ただ、金を稼ぐ。失敗しないって強いものはある。

俺は俺のやりかたで俺のやりたいように俺のやりたいことをやる。

それだけだな。


そんな思いを伝えると、クォークはそろそろ行こうかと立ち上がった。


「混むからね」


     *  *  *


会社を紹介されたが、いまいちぴんとこない。

なにをやればいいのか。

なにが正しいのか。

ぼやっとした感覚でしかない。

工場の生産ラインを一巡して、ワークスペースで連絡をとりあい、広告をうったり、工場の生産の確認をとったり、売り上げの計算をしたり、会議で続く製品の研究や考案をしたり、契約をしたり。

そんななか。


「最後だ。ここが君のオフィスだよ」


そこにあったのはこぢんまりとした部屋に、ちいさなデスクと椅子があるばかりだった。

椅子の背中側に大きなガラスがあって、町を一望できる。

いままで見てきたのはとてもいい製品ばかりだったから、なんだか落ち着かない。


ま、それでも部屋は部屋だし、やることをやるだけだ。

まずなにをすればいいんだろ。

俺のやることは? そうか。

社長だから自分が仕事を与える立場なのか。

工場にいたときはなんとなくわかった。

なんでだろう。

ゲームの世界で置き換えることだったら、会社のステージだってあった。

目標がない。

俺は工場にいたときなにを目標にしていたんだっけ。

なんで生きていたんだっけ。


椅子に座って思う。

声をかけられても気づかない。

俺はなんで仕事をするんだ。

何が目的でこんなことをしてるんだ。

金ならいくらでもあるじゃないか。


あれ。俺なんでこんなに焦ってんだろ。


「おい! 才次郎君!」


はっ!


「どうしたんだ、急に黙り込んで。体調が悪いのか?」

「いや、だいじょうぶだ。でも今日はもう休みたい」

「そ、そうか」


窓のそとは異様に暗く、それが影のせいだと思うまでに時間を要した。

しかし、窓の外は、オレンジ色に暗くそまっていき、次第に夜の暗さと月が顔をだした。

俺は椅子から立ち上がり、クォークに案内されて、新しい自室にはいった。


今日はなんだか疲れたなあ。

なにもしてないのに。

汗かいてるし風呂でも入るか。

明日からまた忙しくなるだろうし、がんばろ……。


――翌日。

俺は会社に出社して、朝礼のさいに皆にあいさつさせられた。

これからは自分が朝礼をするということをきいて自分にできるか不安だったが、だいじょうぶだよと軽く言われた。

自分のデスクについて、書類の整理をすると、契約書のたぐいであるとか、仕様書のたぐいであるとかをもってこられ、はんこを押してつきかえす。

それを昼間でこなして、メールを確認した。

とくに問題もないようなので、自分の仕事にもどった。


――翌日。

同じことのくりかえし。

自分であいさつすることになったが、緊張でうまく話せなかった。

仕事に代わり映えがなく、なんだが、死んだようなきがした。


――翌日。

とくにかわらないが、クォークと一緒に食事に行った。

クォークはいま、新しい家を購入して余生としてすごしているらしい。

工場や町の様子を聞いたが、とくに変化はないと聞いた。


――翌日。

うまくしゃべれるようになったが、仕事に変化はない。


――翌日。

はじめて仕事の内容が変わった。

会議に出席したり、外出して取引先と仲良くしたりである。

それ以外はとくに変化がない。


――翌日。

――翌日。

――…………。


そして社長の仕事についてから一年が経過した。

そのなかで面白かったことはとくになく、なんとなく仕事をしてご飯を食べた。

お金は余裕ができすぎた。

自分の不安もふっしょくされ、ちょうどいい生活をいとなめるようになっていた。

楽しい生活だったが、どこか楽しくない気もした。

そんな生活を続けていたある日。


「ちょ、ちょっと才次郎君!」

「あら、久しぶりです。おつかれさまです。……クォークさん」

「ずいぶんと変わったね?」

「いえ、変わったことなんてなにも。クォークさんもおかわりなく」

「え? あ、ああ。どうも。ってそんなこと言ってる場合じゃないよ! いま工場が大変なことになってるんだ!」

「どちらの工場でしょうか。マニュアル通りの対策をとってください」

「あなたのつとめていた工場ですよ! まさか忘れてしまったとは言わせませんよ?! なんでそんなこと言うんですか。マニュアルなんてないですよ!」

「マニュアルがない? それは困ったことになりましたねえ。どうしましょうか。そうですねえ、今から対策本部を設置して、マニュアルを書かせてください。すぐに私も出席します」

「ロイさんから電話が来ています。どうぞ」

「あらどうも」


ロイさんですか。懐かしいですねえ。

あのときは楽しかった。

まあいまでも十分楽しいのですが。


「こんにちは、ロイさん。お元気ですか?」

「は? おまえまじで才次郎か?! 嘘だろ?!」

「いいえ。私は天野才次郎ですよ。嘘だろって、一年も経ってんですから、それは変わらないことはないと思いますよ」

「……。なあ才次郎」

「はい?」

「いったん町まで来い」

「いま仕事中なんで抜けられませんよ。それに今神獣が現れたと伺って、緊急対策本部を設置して出席しないといけないんです」

「そんな本部は工場に設置してくれよ! いいから来い!」

「うーん。トは言われても困りますねえ。クォークさん、ここから工場までどのくらいですか」

「三十分ほどだと思われますが」

「わかりました。ではロイさん、三十分後にそちらにお伺いします。準備をお願いします。紙とペンで結構ですよ」

「わ、わかった」


――三十分後、町の工場にて。

「ロイさん、こんにちは。本部はどこへ設置なされましたか?」

「ああ、才次郎。本部の一階に」

「わかりました。ありがとうございます」


それから私たちは建物の一階へ入っていきました。

一階はそれとなく広く、何人もの人が収監できそうでした。

私は言います。


「そうですねえ。どうしましょうか」

「神獣の様子は比較的落ち着いています。撃退するなら今がチャンスかと」

「とは言ってもどうやって撃退しましょうか」

「才次郎! 前のてめえの頭はどうしたんだよ」

「前の頭ですか? 知りません。どこかへ行ってしまいました」


あはは。私は笑いますが、ロイさんは笑いませんでした。


「馬鹿にしてんのか?!」

「ロイさん、やめなさい」

「リューズ?!」

「あら、リューズさん。お久しぶりです」

「お久しぶりです、才次郎さん」


なつかしいメンバーがそろいましたねえ。

実になつかしい。

私がこの工場で働いていたときはとても充実していました。

そのことを思い出します。


「才次郎さん。どうしたんですか。前の才次郎さんならどうしていますか」

「前の私ですか。工場で働いた私はとても臆病でなにもできなかったふうに記憶しています。きっとそのときの私では今の状況を動かせないでしょうね」

「リューズ、こいつ相当やばい」

「そうですね、ロイさん」

「クォークさんはどう思いますか?」

「わからないです。でも今はこの状況を見ていらしてはどうでしょう」


どれどれ……。町が壊されはじめていますねえ。

どうしましょうか。


「クォークさんならどうしますか?」

「僕なら町の住人を避難させますかね」

「そうですね。そうしましょう。ということでクォークさん、町の皆さんに伝わるように、避難勧告をしてください」

「リューズさん。どこかにそのような場所は?」

「役場でしょうか」

「では役場まで行ってきます」


それからほどなくして、クォークさんの声が聞こえてきました。

皆さん避難してください。避難先は……。

などとおっしゃっていたような気がします。


「リューズ、解決策はないのか」

「ひとつだけあります」

「なんだ、それは」

「ユニさんを呼んでください。となり町に住んでるでしょう」

「ユニ? 誰だそれは」

「ユニさんは才次郎さんの目を一度覚ましたことがあります。私が才次郎さんとはじめてあったときです」


そうしてリューズさんは昔話をはじめました。

昔話とはいっても、四年~五年前の話にしかならいないですが。

それはともかく、私がこの世界にきてリューズさんと出会ってから、ロイさんに出会うまでのことを話し始めました。

私がこの世界に来てからの話を聞いていると、妙な気がしました。

私はそんなことをしたのだろうか、と。

実は話を盛っている。そんな気がしました。

しかし、リューズさんはそれを事実であるといいます。

私は恐怖で旋律しました。

もしかして、誰かが私に変わって私を操っていたのでは、と疑ったのです。

私がこの世界にきてからのことを覚えていないのもそのせいでしょうか。

ユニさんというかたが居たのはなんとなく覚えています。

たしかきれいな女性でしたが、口が悪く、あまり良い印象を受けていないというのが第一印象だったはずです。

私はその人と会ったのですが、それからなにをしたでしょうか。

この工場へ案内してもらったのでしたか。

なんだかそのような気もします。


「リューズ、僕はユニを探してくるよ。才次郎を頼んだ」

「わかりました。才次郎さんは私に任せてください」


うーん。私は何をすればいいんでしょう。

ずっと仕事だけしてきましたから、仕事のこと以外で覚えてることがありません。

やればいいことがわかりません。

私はどうしてしまったのでしょう。

仕事がしたい。ずっとそう思っています。


それから二時間ほどたったでしょうか。

ロイさんが戻ってきました。

町の様子は相変わらずでしたが、神獣は動きを止めていました。

日中であつそうに太陽を見つめていました。


「才次郎! ユニを連れてきたぞ」


女性も入ってくる様子がみえます。

どうしたのでしょうか。とてもあわてて焦っているように見えます。


「こんにちは、ユニさん。申し訳ないですがあまり覚えていなくてですね。どちら様なのかわからないのですが、以前に助けていただいたようで。その節は……」

「何言ってるの? 私とあなたは初対面よ」


やはりそうでした。

私の記憶は違いました。あってすらいません。

助けられたということもありませんでした。

リューズさんはなぜ嘘なんてついたのでしょう。


「嘘をおっしゃい! あなたは才次郎さんを助け、私の工場を救ってくれたじゃないですか!」

「まあまあ、リューズさん落ち着いてください」

「……」

「私が知ってる才次郎は、口が悪くてちゃんと周りを見てるくせに、自分ですっころんで、そのたびに私が起こしてあげなきゃいけなかった。そんな手間のかかる才次郎しか私はしらない!」


私も酷く言われたものです。

なぜそんな悪態をつかれなければならないのでしょうか。

私はなにも覚えておりません。このかたに助けられたとか、この人との出会いとか、この人に会ったことさえ忘れてしまっていました。

なんででしょう。


「あなたは才次郎じゃない!」


そんなこと言われても。

たぶん私じゃないべつの才次郎さんなんでしょう。

才次郎なんて名前の人がこの世界で私以外いにいるのかが怪しいですが。


「ねえ! 私の才次郎を返してよ!」


――痛い。

こんな痛いのはいつぶりだっけ。

なんだか、前にも感じたことのある痛みな気がする。

なんだろうなあ。

自分が自分として元の戻っていくような感覚があったのは覚えてる。

思い出した。ユニだ。

そうかユニか。

なんで思い出せなかったんだろう。

俺はやっぱり馬鹿だ。

また、ユニに助けてもらった。


それで? なんだっけ?

神獣の討伐か。

どれくらい進んでるんだろう。

そこまででもないな。


「ありがとうユニ。 思い出した。俺はやるべきことをやるよ」

「え? どういう」

「思い出したんですね才次郎さん」

「ああ」

「才次郎……だよな?」

「もちろんだ、ロイ。安心しろ、俺に任せておけばだいじょうぶだ。俺は天才だ」

「何泣いてるんだよ、ユニ」

「だって、才次郎が。もとの才次郎が……」

「うっせー。黙っとけ。俺が全部やるから」


ったくこれだから女は嫌いだ。

不得手だ。

だが、それでいい。

俺は俺の好きなようにやれるようになった。

いつからか狂いはじめていた俺をすくってくれた。

よっしゃ。やってやろうじゃねえか。


     *  *  *


俺は仕様書を書き、いつも通りに指示を出した。

内容はとある研究対象の研究と、戦闘要員の配備だ。


「やるぞお~」

「「おお!!」」


工場にいた全員が声を上げて、仕様書通りの行動をとった。

クォークを会社に戻らせ、会社にいるやつらで研究を開始させる。

俺は町の役所におもむき、武器をとった。


「よっしゃ。これを起動して……」


砲口を神獣に向けて、通信をはかる。


「あー。あー。聞こえてるか? 俺だ。避難状況を」

「だいじょうぶだ。となり町側にみんな集まった」

「オーケー。砲撃を開始する」

「ああ」


神獣は町を右往左往し、どこから破壊しようかとじっくりなめまわすように見下ろす。

町の端のほうで、暴れていて建物がいくつか倒壊している。

その位置へ落ちるように砲台をむける。


「第三十六式砲台、角度二十五度、八門を展開、て!」

「了解しました」


バン!! バン!! バン!! バン!! バン!! バン!! バン!! バン!!

八連続で轟音が鳴る。


よし、全部命中したな。

上出来上出来。

ただ――。


「それとなく被害がでちまってるなあ」


たぶん、この後も何体か襲撃しにくると思うんだよ。

開発が済んでいるロイにであってからやっときたから、次にくるのは相当先になるだろうが。

やっぱりさきに研究を終わらせておいたほうがよかったか?


「目標撃退しました。偵察しますか?」

「いいえ、っと」


よし。撃退完了だな。

そうしたら町の復旧か。

みんなはだいじょうぶみたいだし、それほど時間もかからなさそうだから、金も足りるだろ。


「ロイ。こっちは終わった。帰ってきてもだいじょうぶだが、どうだ?」

「よお、才次郎。終わったか。こっちはまだとなり町についてないくらい。となり町に避難させておいたほうがいいんじゃないか?」

「町が大変なんだ。復旧作業のために何人かよこしてくれ。次の神獣襲来は五年後くらいの目安めやすだ。それよりさきに研究を終わらせなきゃならん」

「わ、わかったよ。リューズにまかせて何人かつれてってもらう。僕はあとから行く」

「どうも」


     *  *  *


町の復旧作業がはじまったのはそれからほどなくしたあるときだった。

数人の人がリューズと一緒に帰ってきた。

翌日になると、半分以上に改修が完了していて、その日で終わらせることができた。

費用もそこまでかからなかったし、たいへん満足がいった。


ただ、気になったことがある。

なんであのタイミングで発生したのか。

しかも地図にはなにものっていなかった。

砲台のシステムもいつもなら敵にロックしてくれるのに、今回はロックしてくれず自分で狙わねばならなかった。

どういうことなんだろうか。


「まあ、バグなんてよくあるし。無印も2も酷いバグなら結構あったしな」


そうだ。

この世界は(リアるっぽい)ゲームなんだし、バグぐらいおこったって普通だ。きっとそうに違いない。

まあ、復旧も完了したことだし、めんどうなことを考えるのはやめよう。


「才次郎君、研究が終わったよ」


工場にクォークが入ってきた。

研究が終わった、と俺につたえると、俺の手を引いて車にのせた。

俺は抵抗せず、素直に車にのった。

工場にはあっけにとられたリューズとロイとロイの部下がいて、静寂だけがのこった。

空はすでに暗くなっていて、疲れて今にも眠れそうだった。


「おきてください。到着しましたよ」

「うーん。今おきるよ……」


うーん。

あんまり寝れてないんだけど。

ここどこだろ?

ああ、自分の会社か。

なんだかとても疲れてしまってるなあ。

今日はもう寝たい……。


それから俺は家に帰って翌日の朝まで眠った。

翌日起きて会社に向かうと、研究員たちが駆け寄ってきた。


「社長! これをご覧下さい」

「はい、どうも」


おお、わりとよさげな感じじゃないか。

これでだいじょうぶそうだな。

そうしたらこれを町に配備して……。

そうか、さきに売り込まないとだめか。

でもちゃんとわかっているやつが少なそうだし。


まあ大量生産して、公務員のやつらに大量にかってもらえばいいか。

苦しい部分もあるかと思うが、やつらは馬鹿だからな。

これくらいちょちょいのちょいで売りはやってやるか。


     *  *  *


「やばい、やばい!」


俺の立ち上げた新しいブランド。

研究したところから発足したが、実にうまく成功した。

弾を改良して、自社製の電気と魔法の合成材からつくってある。

もちろん誰もまねをすることができないように精密につくってある。

がしかし……。


「成功しすぎてやばいんだけど」


あははは。

売れすぎて生産が追いつかねえ。

笑いも追いつかねえよ。

あっはっは。


俺の設置したブランドの名は、「」といい、名前でわかると思うが、している。いわゆる銃ブランドである。

国から中小企業、すこし値段を落してやると裕福な一般家庭にまで手が届いた。 

皆、神獣の危険性を知り始めたから警戒している。


需要が高いから値段を上げてもいいが、それじゃあいけない。

今の値段設定だからこそ、大量に買ってくれる人がいる。一般家庭まで手が届く。

俺はこの調子で続けるぜ。




――それからさらに月日が経ったある日のこと。

俺は会社を経営している。

そのなかでも銃ブランドで見事に一発あて、誰もが知る企業のトップとして活動している。

日々の仕事に楽しさをおぼえ、日々仕事に生きている。

今も午後の紅茶の時間を楽しんでいた。

がしかし、経営者というのは忙しない人間だ。

ほら、また誰か来たようだ。


「才次郎君。電話だよ」

「ありがとう。クォーク。一体誰だ?」

「……」


何用だ。忙しい俺に電話をかけるやつは誰だ。

しかも会社の番号にかけてくるなんて。


「はい。もしもし。銃ブランド、「銃声さん」の管理者、天野才次郎です。本日はどのような件でお電話になられましたでしょうか」

「才次郎さんですか? 私です。リューズです。今、となり町にきていたのですが、神獣が発生して役場と交戦中です。対処をお願いします」

「神獣だと?! 時期が早すぎないか。しかもなんでとなり町に発生するんだ。それに反応だって――」

「いいから来て下さい! お願いします! ユニさんが……」

「ユニがどうした?! おい、リューズ!」


くそ。きられちまった。

ユニはどうしたんだ。ここからだって結構遠いんだぞ?

どやって助ける。


「どうかしたのかい? 才次郎君」

「クォーク。工場のある町のとなり町だ。あそこまで飛ばしてくれ」

「? ええ。かまいませんが」

「これ仕様書だ。これを研究員にやらせろ」

「……。才次郎君。うちの研究員じゃこんなのできないよ。国の連中にまかせるしか」

「できる! うちのブランドをなめるな。誰でも使えるようにできてんだ」

「わかったよ。手配しておくね」

「おう」


俺の指示した内容。

各研究に従事する研究員をすべてあつめ、工場のある町のとなり町に集合せよ。

その際、銃声さんの銃(KR877(スナイパーライフル)を十名に。T110(重戦車。一台を四人で操作する)を十二名ずつ計三台の戦車を人間に。のこりは第五十七式拳銃(ハンドガン)と、第九十五式自動小銃(アサルトライフル)という指定)をもたせて出撃させること。

神獣から町あるいは、町人を守ること。

以上である。


文字上ではむずかしくなさそうだ。

だがしかし、実際に戦闘にでるとどうだろう。

人間なんてクソの役にもたたない。

だから時間稼ぎにしか思っていない。

できれば死んでほしくない。そのために金をかけて装備を渡す。

だいじょうぶ、研究員なら使い方をわかってるはずだ。


――四十分後。工場のある町のとなり町にて。


「こりゃあひでえ」


町にはゴミが散乱してるし、なにも残っていない。

どうしてこうなったんだ?

そうだ、神獣はどこだ?!

クソッ。地図がないからなにがなんだか。

ひとまず役場だ。

あそこで見渡そう。


そう思うとすぐに俺は行動した。

一度、何年も前にいったっきりの道を思い出しながら走る。

銃が重たく、何度か転げそうになるが、ふんばって耐える。

そして到着した役場で開口一番に言う。


なんだこれ……。

一体どうなっているのか。

今見ている景色が本物なら、それは絶望としかいいようのない有様だ。

瓦礫が崩れて、建物のかたちなんてのこってない。


「才次郎!」

「ロイ? ロイなのか?!」


遠目からロイだとわかった。

銃をもって走ってくる。

その風貌は勇敢であった。


「地図を」

「ありがとう」


地図にはどうなっってるんだ?

監視できるものがなに一つなかったからな。

これだけが頼りなんだ。

頼むよ!


「反応が、ない…………」


なんだよ! 畜生!

こんなんじゃ誰一人救えないじゃねえか。

こんな紙きれはいらねえよ。

ただのゴミだ!


「クォーク、避難状況!」

「たぶん全員が町の外に出ました」

「オーケー。了解した」


ひとまずだいじょうぶそうかな。

誰もいないようだし。

ただ、この町を保証するのはまた俺だ。

金をもっているからってここまで何度も町が崩れるとさすがに厳しい。

できるだけ町を壊さずにいきたいが。


「GYUUUUU!!!」


今の声は?!

神獣……。どこにいるんだ。

バグ使いめ。

ぜってえ、許さねえ。

バグを使ってチートしてるのを後悔させてやる!


     *  *  *


「才次郎! いたぞ!」

「よくやった。おいかけろ!」


ロイの反応はあるな。探ってやる。

さあて、どこにいる?

砲撃はできないからな。戦車だってくるのは遅いはずだ。

絨毯爆撃じゅうたんばくげきをするほどの力もない。


ぴろん!

懐かしい音が聞こえる。

ものすごく嫌いな音だ。


クソッ。

どこにいんだ!

もしかしてこいつもバグか?

あいつの仕業ならただじゃおけねえなぁ。


反応が動いてる。どんどんこっちに近づいてるっぽいな。

誰だ? 本当にバグなのか?


「VAAAA!!」


神獣?!

さっきと鳴き声が違う?

何体も出現してるのか?

どういうことだ。


地図に含まれたデジタル時計が午後十六時を指していた。

まさかそんなはずはない。

そう思っていた。

がしかし。


地図にこんなステータスってあったか?

……って、ああああ!!!!

嘘だろ?!

これ掟破りのステータスじゃねえか。

どうして?

いやそれより、今はステータスの回復が優先か。

いや、役場か?

ステータスを消せばだいじょうぶ。

でも、それまでに生きられるか。

まず見つかるかあやしい。

それに掟破りって途中でやめられるのか?

それすらもあやしい。


すると、ロイが手を振ってやってきた。

話を聞くと、ロイは神獣を見逃してしまったらしい。

がしかし、いいものをみつけてきた。


到着か。

戦車部隊と、スナイパー、あとは一般。

全員に指示をしてっと。


時計が十五時になったことを地図は知らせる。

そして。

「××××が登場します。注意してください」


なんだよ、××××って。

文字がちゃんと映ってないじゃねえか。

まだ、町を壊され続けてるのに。


ああ、死にそうだなあ。

きつい。

体力なくなると終わる。


「才次郎君、回復材だ」

「よくやった、ありがとう」


なんとか回復はできた。

だが、まさかこんな事態になっているとは思ってもいなかった。

回復材はある程度もってきているのだろうが、足りるか?


バン! バン! バン! バン!

四発の弾が発射された。

俺は驚いたが、スナイパーが敵を捕らえて発射しているようだ。

あわてて通信をとって、発射をやめさせる。

あっちがわに意識がむいたらまずい。


神獣が町を一軒壊したところで、戦闘開始。

戦車部隊が前進して、討伐する。

一時間もしないで倒すことができた。


「案外いけたな」

「そうだね。でもまだまだみたいだ」


敵を倒してすぐ、またあたらしい神獣がめにはいる。


?!

クソっ。まだ倒しきれてないか。


ぴろん!


なんだ!

うるせえな。


「助けてえ!!」


だからうるせえ、って言ってんだ……ろうが…………。

今のはユニじゃねえか?!

あいつなにしてるんだ。

回復しねえとまずい。

だが、回復材はない。

研究員も何人か倒れてしまった。

のこったのはロイ、クォーク、俺の三人だけだ。

銃をもってポイントへ向かう。


もしあの声がユニでポイントにいるとしたら、俺は大馬鹿もんだ。

泣いてる場合じゃねえのに……。

なんで、ロイとクォークもついてきてるんだ?

ついてきちゃいけないだろ。

俺の責任なんだ。俺がやってしまって。


     *  *  *


役場の近くにユニは倒れていた。

俺はすかさず手をさしのべて……。


できなかった。

ユニの前には覆面の男がたっている。

槍のようなものを構えて、こちらを望む姿勢は、王者の風格をもっている。

それもそのはず、やつの名は、「オーディン」だ。

掟破り最強のボスである。

俺はやつをあいてにせにゃならんのだ。

無理にきまっている。

いつの間にか後ろをついてきたふたりは消えている。


「才次郎!」

「ユニ……。ごめん、俺、無理だ……」

「何をいって――」

「俺、こいつにだけは勝ったことないんだ」


そう、やつが最強と言われるのは、誰一人として勝利を飾ったことのないということから来ている。

敗北の黒星をみたことがない。

俺は絶対に勝てない。

無理だ。

俺じゃあ無理だよ……。


「あんた馬鹿?! その台詞私のよ! この瓦礫に挟まれてどれだけ経ったと思う? あなたじゃ思いもしないくらい長いわよ。一人でどれだけ居させる気? 私を助けなさい! 助けれよ! てめえより私のほうがよっぽど苦労してんだよ!」

「でも。俺……」

「うるせえ! てめえがどれだけ負けていたって、今は私がいるだろうが。何弱気になってんだよ! これ以上私に苦労をかけさせんな! 帰ってこないで心配させるやつが何をいうんだよ! 何も言えねえだろうがよ!」


しばらく沈黙が続く。

神獣は空気を読むがごとく動かない。

俺も凍ったように固まって、動きをとりたくなかった。とても重たかった。

でも動かないわけにはいかない。


「才次郎!」


ほら、ロイもやってきた。

どうせその後ろには。


「才次郎君!」


やっぱり、クォークがいる。

あーあ、俺ってやっぱり馬鹿かもしれない。

ゲームオーバーって知ってるか?

このゲームだと命を落せば終わりだ。

掟破り中だから、簡単に死ねるだろ。

だが、そんなのだめだ。

俺は死ねない。掟破りを攻略して、ユニを守る。


ユニは俺に元気をくれた。勇気をくれた。命をくれた。正気にもどしてくれた。

心のそこから感謝したい。

だが、俺にできるか?

難しい話だ。

でもその方が燃えるじゃねえか。俺はいまここでオレ流の恩返しをする!


「やってやるよ!」


そう叫んだ俺は、突撃していた。

自分がもっているのは銃、たいして相手は槍。

圧倒的に相手が有利なのはみてとれるだろう。

なにを思っているのか、俺は俺自身にそう問う。

自問自答しよう。

俺は何も考えてねえ。

ユニを守りたい。ただ、自分のしたいことをしよう。

そう思ってるだけだ。


「うぉー!!」


銃を神獣にぶん投げて、小脇を通り過ぎる。

後方からロイとクォークの援護射撃があるが、気にしない。

ユニへとかけよる。


「だいじょうぶか?」

「は、はい」

「才次郎、後ろ!」


はっ!

何があるっていうんだ?


俺の前に突き出されたその槍には力がこもっているのがわかった。

槍のさきが小刻みに震えている。

仮面の後ろにはなにが隠れていたんだろう。

俺は知らない。


あーあ。残念。

ここで終わりだ。

ロイ、クォーク。そんなに銃を撃っても無駄だよ。

弾がもったいない。

それじゃあな。

楽しい思い出をありがとう。


槍が心臓を突きかけたとき、神獣が消え始める。

光が神獣をつつんで、動きがやむ。

それから槍が地面におちて、そこに木がはえはじめた。

神獣は消え、木の生長もやんだ。


でけえな。なんだこの木は。

それにしても、恥ずかしい台詞をいっていたのに、死ねないとは。

それもまた残念だ。

でも。


「だいじょうぶだ。ユニ」

「才次郎……」

「ふぅ~! おあついねえ」

「ちゃかすんじゃねえ」


くもり空が晴れた。

ユニを救出して、リューズと連絡を取る。

リューズは工場に町人たちと避難しているらしく、俺は工場に歩いていった。


「リューズ!」

「才次郎さん無事でしたか。よかった」

「こいつ死にかけたんだぜ」

「うるせえぞ、ロイ」

「まあまあ、才次郎君も落ち着いて。せっかく助かったんだから」


それにしても俺は修理を払わねばならない。

銃や銃の弾の代金もな。

そっちの意味では死んでる。

ま、またもうけられるように努力するさ。


研究員たちを起こして、俺たちはパーティーをした。

そこで聞いたはなしだが、神獣が出現したのは役場で働いてる女の子が勝手に縛りスイッチを操作したためだと言う。女の子曰いわく、知らずにやってしまったらしい。

オーディンが出現したが、消えたのはどうしてだろうと考えていたが、ロイが消したんだという。

途中でいなくなったのは、スイッチをみつけて消すべきだと判断したらしい。本当は俺に聞きたかったらしいが、俺は無視をしてしまったらしい。いやはや、きづかなかった。


なにはともあれ、無事生還することができた。

これからまた仕事で忙しくなる。

頑張ろうじゃねえか。

なあ。ユニ?




・異世界転生したら隠居生活はじまったけど質問ある?(二スレ目)


「ああ!!  くそ。また負けた」

「ふふふ。私強いでしょ?」


ああ、マジで強いよ。

勝てない。だがしかし、俺には秘策がある。


「もう一回だけお願い!」


秘技「もう一回」である。


そんなこんなで遊んでるわけだが、状況を説明しよう。

俺はあれから町の修理費を借金をつかって解消した。

がしかし借金がのこっている。

そこで俺は銃声さんと会社を契約をしていた親会社に売り払った。

借金はパーになったが、俺の地位もパーになった。

まさか、町の値段がそこまで高いと思っていなかった。

がしかしよく考えればとなり町にはガラス張りの高いビルがたくさんあった。

そう考えれば普通かもしれない。

俺は何棟なんとうぶっ壊したんだ?

しゃれにならない。

まあそんで、借金がなくなったんで、あまた金でユニと生活をしてる。

超楽しいぜ!


俺が今居る家は、俺が社長になる前、リューズからもらったものだ。

ひたすら楽しい生活があって。

ユニも笑ってる。

俺はこの笑顔が好きかもしれない。


「よし! 次は別のことしようか」


どうしたんだ? 急に。

また別のゲームかあ。そうだなあ。

なにかあったかなあ?


「早く金を稼いでこい!」

「ひぃ!!」


やっぱり?!

いやあ、きついっすよ。

家を買うっていったのを忘れてたのは悪かったよ?

でも、もう家を手に入れたじゃん。

なんでそう、次の難題を……。

ああ、畜生、行けば委員でしょ? いけば。


「早く」


わかったから、殴らないで!

めんどくせえ女だな。


「殴るぞ? 心の声ダダ漏れって何回言ったら伝わるんだ」


ああ、そんな能力ありましたね。


「すいませんでしたー! 行ってきます!」


この人には一生頭があがらない。

でもどうだ! この完璧な土下座は!


「わ、わかったから。早く行ってきちゃいなさいよ。馬鹿」

「は? 俺は天才だぞ? なんでこの家があると思ってる?!」

「ふーん。くちごたえするんだ?」


あ、やめて?

わかった。もうなにもしないから。

お願い許してー!


「アァー!!」




やっぱりあんまり好きじゃないかもしれない。

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