短編箱

@junkyo

光の国から裁判所へ


 逆光に照らされた裁判官が容赦なく攻め立てた。

「君は我々の聖なる誓いを破り、彼らの種族的な争いに加担し虐殺を行った!」

被告席に立たされた彼はそれに必死に反論しようと思ったが、それはできなかった。自らの罪を自覚しているから彼は被告席に立っている。しかし、この罪を受け入れてしまったときに、彼に課せられる罰の大きさに恐怖し、偽りでも反論せねばならぬと衝動的に突き動かされた。

「私の同一者は、私の力を利用する際に薬物を使用し、脳内を混乱状態にさせ、行為の善悪の判断を不可能にしてから”覚醒”をした。私は同一者の肉体が持つ知性を頼りとして調停行為を行っています。それを利用されただけです」

自分で言っていながら、言い訳めいているとしか感じられない言葉だった。

「つまり君は自分に罪はないと?君の行為はニンゲンに操られた結果であって、君は利用されただけの被害者だと?」

「彼、いや彼らは入念だった。最初の頃、彼は実に勇敢で慈愛にあふれる人物だった。彼の知性はニンゲンの中でも平均以上でそのモラルは我々の基準からみても”正義”の側に立つ人物でした」

裁判官は資料を提示する。空間に映し出される資料は被告の同一者、ハヤテ・トウヤというニンゲンの詳細な資料だ。

それは彼の姿かたちやプロフィールのみならず過去すべての彼の行動を入念に調査したものだった。

被告の彼はその同一者を恨みがましく見ていた。彼を心の友、同一者として選び幾度も”覚醒”し戦った戦友でもある彼を、憎しみの目で見ていた。

裁判官は資料の”ニンゲン”と被告の”彼”、二人の共犯者を交互に見た後、

「君は彼に利用された、彼の陣営の戦力として我々の力がニンゲンに利用され、地球上の軍事と政治のバランスは大きく傾いてしまった。なおかつプロパガンダにまで利用された!」

続いて空間に投影されたのは街並みを見下ろす巨人の姿だった。巨人は敵の攻撃にもびくともせず、彼の体から発する光線は地球の兵器を容易く破壊した。

「巨人は我らと共にあり」

プロパガンダ映像に流れる勇ましい文字、絶対的力を手に入れ、国民を盲信臣従させるに十分な映像のインパクト。

それを見る被告の彼の顔から生気は失せ、消えそうな点滅を繰り返すのみであった。

映像は消え、地球の世界地図が映し出される。当初は拮抗し赤と青の二色に分断されたいた地図がところどころ虫食いのように色が変わっていく。青の世界に赤い丸がポツポツと生まれていく。時間が立つたびにその虫食い穴の数は増え、一定数を超えたところで全体のバランスが崩れ赤が大挙して青を食い破った。

虫食い穴の正体は、薬中にされた「彼ら」を爆弾のように落として、敵の軍事拠点内で大暴れさせたのだ。

裁判官は判決を下した。長期の結晶凍結刑。もっとも重い刑罰の一つだ。

被告席の彼は倒れそうな体を最後の意思で支え、それを承諾した。自らの責務と誓い、そして罰を受け入れる覚悟があった。


裁判が終わり被告が消えた後、裁判官は悩んでいた。彼は資料を映し出す。

太陽系に派遣した警備官に起きた不幸は今回の事件だけではなかった。失踪者はすでに二名。精神をやられて帰ってきた者が一名。そしてついに警備官を強引な手法で操るという事件まで起こった。

空間に映し出された青い星。

裁判官にはその星が、彼らを引き寄せ吸い込んでしまう、宇宙の黒い穴に見えた。

「宇宙には様々な脅威がある」

彼は今一度、地球への警備官派遣の中止を提言するつもりであった。

これ以上の不幸を起こさないために。

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