伝説の仕立て屋ロイはシドニーにいる

リサ モリ

第1話

 オーストラリア シドニー。

 一年中温暖で治安もよく、食べ物も美味しい住みやすい善良な街。

 そんな日なたのような街に一人の伝説の仕立て屋がいる。

「あら、このバッグ最高じゃない。衣装と同じ生地よ!」

「この帽子もイカしてるわ。いかれコックって感じね」

 仕立て屋のお得意さんが出来上がったドレスを試着しながら会話していた。

 胸毛があって腕時計をしているバッグをほめた方がビル。現在禁煙中の鉄道職員。

 全身毛むくじゃらで濃い口ひげをたくわえて、帽子をほめた方がマイケル。菜食主義者で運送会社のドライバーをしている。

「ああ、いいだろう。あんた達によく似合ってるよ」

 伝説の仕立て屋ロイは満足そうにタバコをふかしていた。実は三人は中学生の時からつるんでいる仲間だった。

「こんな素敵な衣装だと、新しいアクセサリーが欲しくなるわ」

 ビルがそう言ってビールを喉へ流し込む。

「私も新しい指輪が欲しいわ」

 マイケルがごつい手をライトにかざした。

 二人の衣装は黒地に黄・桃・青・緑の極彩色のストライプ超ミニワンピース。ムチムチの二の腕に付けた袖とワンピースの裾はオーガンジー素材でできたフリルが咲いている。帽子はワンピースと同じ極彩色生地でフランス料理のコック長のような細長い筒状。一番上にはワンピースと同じフリルが大振りに咲いている。

「これは俺からのプレゼントだ」

 伝説の仕立て屋ロイは引き出しから木箱を取り出した。マイケルが蓋を開けると、ミートボールくらいの大きさの球が三連になっているイヤリングだった。黄緑と桃色の色違いで二セットある。

「これはこうするんだ」

 ロイは黄緑をビルの右耳に、桃色を左耳に付けた。

「あら、ステキじゃない。ロイ、私にも付けてよ」

 マイケルは黒いストッキングをたくし上げながら言った。

「ああ、こっち向いてごらん」

 ロイはマイケルの耳にも同じようにイヤリングを付けた。髭ぼうぼうのマイケルの顔のわずかに見える頬が赤くなった。

「よし、これで明日のゲイ・レズビアン祭りの一等はいただきね!」

 ビルがそう言ってビールを飲みほした。

「三人の力を合わせて、今年も一等よ!」

 マイケルはビルとロイの手を取った。

 あなたも晴れ舞台の衣装が必要な時はシドニーにあるロイクローズをいかがですか?

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