1-12 不倶戴天の敵 -Twin blood-

「ケイヒル・アダー博士、人類史転移学におけるワームホール三次元モデリングの功績を称して、ガイア十字勲章を授ける」


 私、ケイヒル・アダーはこの日国の英雄となった。


 ビル・フェルナンド大統領と握手を交わし、号外の新聞は飛ぶように売れたという。


 建国から百年という節目で成した偉業。


 当時の政権はそれを大いに利用し、私もそれを大いに利用した。


 仕事は順調その物。


 何もかもが輝いていた。


 あの日、あの話を聞くまでは――。


「長らくこの国の人間を診ていますが、面白い事が分かったんです」


 この国では珍しい医者で、剣の顔を持った異様からソードヘッド先生なんて呼ばれている変わった人だった。


 私は軽く論破してやろうと思って、悠然と構えて話を聞いてやった。


「まず一つ。血液型が二種類しか無かったんです。


 私は、C型、S型と区分していますが、両者の間に明確な素質の差が見受けられました。


 魔術の素養です。ご存知の通りテラン共和国領土には特殊な粒子が存在しますが、これが魔術の効果を阻害してしまう。


 だから誰もそこに気が付かなかった」


「何が言いたいんです?」


「もし異世界に転生や転移をするなら、何故我々に同じ血が流れているのです?」


「それは……」


 まずい、と思った。


 この医者の言っている事がおかしいとは思えない。


「これは仮説ですが、我々は何処からも来なかったのではないでしょうか?」


「……では、どうしてここに私たちが?」


「寧ろ、何故転生や転移という考えを持たされたのか、と議論すべきかも知れません」


「じゃあ、何です? 私たちは作られたとでも?」


「そう考えるのが自然だと思います」


「……私の研究に意味は無かったと、そうおっしゃりたいのですね?」


「残念ながら」


 ソードヘッド先生は肩を落として、本当に気の毒そうにため息をついた。


 私はがくりと力が抜けて、椅子に腰掛けた。


 視線は宙を泳いで、あてもなくさまよう。


 そして、怒りが湧いた。


 燃え立つ炎のような怒り。


 心を焦がして、次第に大きくなっていく。


 意味が無かっただと? ふざけるなっ! 私は何をやってきたんだ? 何を……。


「もし仮に私たちが作られたとしたら、寧ろ良かったのかも知れません。


 誘拐されてここに連れて来られたという事実は無かった。


 そう思い込ませた誰かに罪があった。


 私たちに本当に人権があればの話ですが」


「私たちは虫けらか何かだと?」


「自分がそんなに大した生き物だと思ってらっしゃるのですか?


 人造人間が人権を主張するだ等と」


「……馬鹿な」


 私は完全に落ち込んで、返す言葉を見失ってしまった。


「私は大統領に面会して、事の真相を伺うつもりです。


 貴方はどうしますか?」


「私は……」


 しばらく黙り込んで、ぽつりと言った。


「作られたという事実が公になれば大混乱を招くでしょう。


 それを政府は隠そうとする。


 でも、もし私たちに人権があって、民族として自尊心を持てるだけの力があったとしたら……」


「人の力を信じてらっしゃる。


 ご立派です。


 では、我々は敵同士になりますな」


「人の力を封じて、統治でもなさるおつもりか?」


「もとよりそのつもりです。


 我々はシビリアンとソルジャーの二種類に分けられたのですから。


 貴方も私もソルジャー型だ。


 魔術の素養が高い」


「羊と牧羊犬ですか」


「言いえて妙ですね。


 私は軍の犬になり、いずれトップに立つつもりです」


「分かった。もはや交わす言葉はありません」


「では、またいずれ」


「いや、二度と会う事もないでしょう」


 こうして敵が生まれた。


 私は賛同者を集めて、地下に潜った。


 それから程無くして、レジスタンス組織『民族解放戦線』の旗揚げが宣言された。


 俺はその中心に立っていた。

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