1-13 前に進める者 -Three Kings-
「あれから千九百年……国民は未だ真実を知らされず、人間として生かされている。
不誠実で惨い仕打ちだ」
「俺が想像していたのと大分違うな。
ぶっちゃけ、あんたが固執しているだけじゃないの?」
俺がずばり指摘すると、アダーは自嘲的な笑みを浮かべながら首を横に振った。
「肝心なのはソードヘッドが国民を人造人間として扱うかどうかだ。
人の心を持ったまま不死を与えられたアンバランスさに、奴の統治は致命的な疑問を残す事になる」
「で、大佐のエゴを潰したいってのか?」
「エゴの荒野から自由の緑地への道案内をしたいのさ」
「でも、国民はその緑地をまた荒野に変えるぞ?
あんた、その先の面倒まで見るつもりが無いだろ?
ソードヘッド大佐は面倒見るって腹積もりみたいだけど?」
「……驚いた。剣術馬鹿かと思ったら頭良いじゃないか」
アダーはドクター・モンローと顔を合わせて笑っている。
「確かにそうだ。
だが、人造人間が自立するためには希望を見せなければいけない。
その理想が枯れた時に前に進む者がまた現れる。
担い手から担い手へ、解放の旗は受け継がれていく」
「酷い話だ。
それはあんたのエゴに他ならない」
「誰もそれを望まないと?」
「全員が望んでいるわけじゃないって事さ」
「そこがあちらの強みだな。
問題は奴が未来永劫それを続けてしまう事だ。
枯れないが、成長もしない。
俺たちの寿命は気が遠くなるくらい長い。
終わりが来ない。
だから、変革を求めなければならないんだ」
「死なないから、永遠に生きられるから、平坦よりも波のある時の流れが必要だと?」
「そうだ。
悲しいが、奴の言う通り俺たちは人造人間だ。
だから、人の一生という観点で平穏な人生を見てはいけない。
人造人間という民族ならではの道が必要なのだ」
「それが解放か」
我が意を得たりといった顔でアダーが答えた。
「俺たちには俺たちなりのやり方がある。
俺はそれを宣言したい」
「エイブラハム・リンカーンのように指針を示したいんだな?」
「ゲティスバーグ演説をご存知とはなかなか侮れない。
ここにもしリンカーンがいたらどうするか、ずっと考えていた……」
「なるほど。納得した」
前に進める者、止めようとする者、旅立つ者、この三者の因縁がもたらした騒動だったか。
随分と面倒な事になったものだ。
「で、俺に何をしろと?」
一応オーダーは聞いてやろう。
この人はこの人で面白い。
ここで終わらせるのはちょっと惜しい。
「堂々と奴らの鼻先を歩いて、悠然と逃げると言っただろ?
俺をここから連れ出すのさ。
あの黒い龍に乗せて、ほえ面かいている奴等に見せつけるようにな」
「ああ、そりゃまずい。
あの機体には手を出せんし、俺が人質と知ったら下手に追手も出せないな」
「ソードヘッドの鼻を明かす最高のネタってわけだ」
「まあ、見返りは期待してないけどね」
「ご期待には添えると思うぞ?」
妙な自信を覗かせるアダー。
でも、あんたは肝心な事を忘れている。
俺たちは確かに人造人間だけど、心までは違う。
普通の人間の記憶、経験を持たされた哀れな兵隊なんだ。
その切なさを感じられるかどうかであんたの器が決まる。
果たして、ソードヘッド大佐と勝負出来るものかどうか、その可能性を特等席で見せて貰おう。
不死の剣士は今日も潜る~ヴァルキリーと無限の塔~ 由野 儀習 @doyo
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