5-6 拉致 -Fool-
「シドウ君、これを」
リストが黄色の玉からレゼルの魔剣を出してくれた。どうにもトラブルのようだが、相手はレナン騎士団だろうか? 全員が鳥の羽飾りのついた鋭角的な帽子を被っているが、前に向かって矢印のように尖っていて、鳥の頭のように見える。しかも全員仮面を被っていて、素顔が見えない。騎士団というより暗殺者の色が濃いように見える。さあ、お手並み拝見。
俺はレゼルの魔剣を抜いて、すらりと正眼に構えた。鳥頭帽子の集団はすぐにこちらの技量を読んだと見えて、散開して見せた。あらゆる角度から檻を狭めるように俺を刺そうという腹だろう。見え見えだ。
剣が周囲から迫る。俺は稲妻を迸らせて、動かずして襲い来る全員を吹き飛ばした。
「!?」
遠くから観察している一人がこちらをじっと見て、鳥頭帽子の全員に命じた。
「退け!」
冷静な判断だ。
「俺たちも退こう。教授は……」
向こうでメモ教授が奮闘している。距離を取りながら魔法の杖で凍気を放射して、鳥頭帽子の集団がよろける。
「教授! ジャンプです!」
俺は声を掛けて、自分も腕時計を操作した。行き先を青の方の塔入口前に設定。
「「ジャンプ!」」
リストと一緒に唱えた。天井の絵画に向かって跳躍する。その先は塔の入口前だった。軽く着地を決めて、隣にリストがいるのを確認する。一瞬遅れてメモ教授が着地した。
「すぐに入り直しましょう」
俺はレゼルの魔剣をリストに預けて、前に進む。
「あれはレナン騎士団だったぞ……どういう事だ? 秘密主義の彼等がああも堂々と姿を晒すなんて……」
不安げに漏らすメモ教授の言葉を聞きながら俺はヴィレンカントに再度侵入を試みた。
兵士たちが足音を揃えてあちらこちらへ行ったり来たり。ヴィレンカントはさながら中世の戦時中のフィレンツェのようで映画のロケに紛れ込んでしまったかのような錯覚を覚えてしまうが、俺もリストも極めて冷静だと思う。古竜ザーヴァを見た後では然程驚きもしない。メモ教授はそれなりに興奮しているようだが。
「歴史が動いている感じがあるね。その中で私たちはどういう役割を担うのかな?」
こんな風に出来上がっていて。もっともこの人は戦士ではなく学者だ。俺たちとは尺度がやや異なる。致し方ない事だ。
「失礼。メモ教授では?」
いきなり横から話し掛けられた。誰かと思って振り向いたら、見覚えのある顔だった。黒いケープを纏った紳士風の少年。カルンベル・テクニカルサービスのモード・ジレ……だったか。
「君はカルンベルの。何かね?」
「実はわたくしどもエトハール女史にレナンの不死鳥についての調査依頼を出しておりまして。その資料が紛失しましたので方々へ調査に出されまして。あの、失礼ですが、彼女から何かを受け取っていないでしょうか?」
そうメモ教授に聞いて、モードが俺とリストをちらりと見る。すぐにぎょっとした顔で二度見して、こちらを凝視した。
「貴方がたは……あの時の!」
モードは唖然とした顔で頭皮をぐいっと後ろに引いた。
「その節はドーモ!」
会いたくもない人物に遭遇してしまった。何やらこちらのモンタージュを配っていたとか。俺とリストに何の用だったんだか。
「ちょうど良い。貴方がたの調査も別件で命令されていたんだ。私と一緒に来て頂きたい」
モードの後ろに控えている黒いケープを纏った集団がこちらに迫ろうとする。
「待ちたまえ。この子等は私の生徒だ。今回は引率でこちらに課外授業に来ていてね。残念ながら身柄をそちらに引き渡す事は出来ない」
「それはそれは! だが、わたくし共にも退けない理由がある。エトハールは口を割らなかったが、貴方がたには期待出来そうだ」
モードが口の端をくいっと持ち上げる。
「貴様! 本性を現したな!」
メモ教授はモードに掴みかかろうとして、黒いケープの集団に銃を向けられた。
「おっと! 天使諸君も迂闊な事をしてくれるな? 事は慎重に、速やかに行いたいのだ。分かるかね? 私は気が短い」
嫌味な笑みを浮かべるモードは確かに悪人の顔をしていた。俺とリストは腕を縛られて、メモ教授と一緒に馬車に乗せられた。
「出せ」
モードの指示で御者が鞭を打つ。馬が走り出して、石畳の道を音を立てて行く。一体行く先は何処なのか? しかし、エトハールには会えるだろう。一歩前進と取るべき? それとも全てを失う? 俺はその危うい天秤の上で一人この状況を楽しんでいた。
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