4-6 進路 -Back to the school-

「さあ、もう一度町を作るぞ! 皆、動け!」


 パンパンと手を叩くオットー。小一時間俺の話を聞いたら皆納得したように頷いて、すぐに動き出した。生還したオットーが指揮を執り、男たちは山に向かい始めた。ザーヴァの遺体から使えそうなものを採取してくるらしい。


「これを」


 酒場のウェイトレスが俺に大きな布袋を渡す。


「?」


 中を見ると玉とスクロールがたくさん入っている。


「昔町にいた魔術師が置いていったものなんだけど、私たちには使い道がないから」


 そういえばオットーが山に登る時にそんな事を話していたな。何だか悪い気がするが、これは有難く頂いておく事にしよう。


「ああ、糞……何にも残ってねえや。おい! その辺にキャンプを設営しろ! 大至急だ!」


 雰囲気の違う声がした。ちらりと奥を見ると黒いケープを纏った紳士風の少年が周りの少年たちにあれこれ指示を与えている。何処の人?


「あの! 何ですか、こんな田舎町に?」


 酒場のウェイトレスが紳士風の少年に駆け寄る。紳士風の少年は優しい微笑を浮かべ、酒場のウェイトレスに軽くお辞儀した。


「わたくし、カルンベル・テクニカルサービスから派遣されましたモード・ジレと申します。この度この近辺で大規模な魔力波を感知致しまして、調査に参りました。失礼ですが、この町はどのような経緯でこんな事に? おや? おやおやおやおや」


 モードと名乗った少年がこちらに大股で近付いてくる。何だかキャラの濃いのが来たなぁ。ちょっと面白そう。


「貴方がたは……天使……ですか? いや、そんな高次元の存在がこんなど田舎にいるはずが……しかし、この魔力量は……失礼ですが、現地の方?」


 俺とリストは首を横に振った。


「では、塔を経由してここに飛んできた方ですね。なるほど。この状況の経緯をご存知?」


 こちらに聞いた方が話が早いと読んだのだろう。出来る奴。そんな印象だ。


「お山に神代の古竜が現れ、倒されました。古竜の影響でお山の山麓から針葉樹の魔結晶化が著しい。現地の方が古竜の遺体を調査している。買い取るなら早めに商談をされるとよろしい」


 リストがすらすらとモードに説明する。モードは即座に動いた。


「キャンプは後だ! お山に登るぞ!」


 ケープを纏った一団がどっと山の方へ駆けていく。忙しい連中だ。俺も理解出来るが、熱中しているオタクってああなるよな。お宝を前にして手をこまねいている馬鹿はいない。


「今の内に村に引き上げましょう」


 リストがそっと俺に囁く。


「あの! これ、ありがとうございます! 俺たち帰ります!」


 酒場のウェイトレスに大声で言って手を振る。笑顔と振り返す手が見えた。俺とリストは腕時計を操作して唱えた。


「ジャンプ!」


 俺たちは光に包まれ、一瞬で大空に跳躍した。空の向こう側は幽世の森。緩やかに着地を決めて、身体を確かめた。全快している。というか第三段階から初期状態に戻っている。そこも含めてフォーマットなのだろう。良かった。元に戻れた。


「では、早速お金に替えましょう。今月はちょっと厳しいので」


 リストが早く行けと急かしてくる。俺は苦笑しつつ早足で歩き出した。結局あの九十七億は全部慈善事業に寄付されて、今ほとんどすっからかん同然なのだ。ガブリエルから生活費(リストのための)は貰っているが、何故か送金されていたようでそんなわけだ。相手の口座は確か『レイルハット魔術学院』だったか。青の陣営に同名の学校があったと思うが、一体どういうつもりでリストは……まあ、詮索するつもりも無いが。元々彼女のためのお金なのだ。どう使おうが俺にとやかく言う資格は無い。


 だからこの玉とスクロールは貴重な収入源だ。今日の晩御飯はお肉がいいな。ぼんやりと献立について考えていると後ろで魔力の反応があった。リストが外装を解いたみたいだ。村に入ってあの鎧姿では流石に目立つしな。一応彼女は重要人物であるし、極力人目は避けて、ごく普通に一般人を装って……。そこから先はどうすべきか考えている。彼女がこの先月に舞い戻って、戦乱を収めるというなら喜んで手を貸そう。でも、その後は……。俺が用済みになったら彼女はまた一人で生きていくのだろうか? この神の夢見たネバーエンディングストーリ―の中で。


「ははっ……らしくない」


 俺は自嘲の色を浮かべて、額に手を当てた。こんなに感傷的になるなんて……この俺が。


「どうかしましたか?」


 横からリストに聞かれた。


「ううん。ちょっと気の迷い」


 気持ちを隠しもせず、堂々と誤魔化しもした。


「お金の事なら心配しないで下さい。私の表面の人格は貴方のために使ったようですから」


 と隠しもせずに堂々と教えてくれた。


「えっと……レイルハット魔術学院だっけ?」


「はい。入学金と授業料向こう三年分を」


「はい? 何でです?」


「シドウ君に良い魔術の素養を見たから、だそうです。気付いているかも知れませんけど、魔力の反応を感知する能力の高さ、普通ではありませんよ」


「ああ……自覚あります」


 色々と……な。剣術しか習っていなかったから今まで何等頓着が無かった分野ではあるが、確かに何かが出来そうな感触はある。


「心配しないで下さい。私も新入生として入学しますので」


 と姉のように気を遣って貰った……みたいだ。同学年とはまた奇妙な、と普通なら思うだろうが、ここの仕組みを考えれば外見の事等些事であると見えてくるものだ。この姿のままずっと変わらないのだしな。


「でも、ヴァルキリーが魔術の勉強なんて……子供の遊びに付き合うようなものじゃないのか?」


「付き合うのはシドウ君のお勉強です。教えられるものは全て教えるし、出来るまでずっとマンツーマンです」


 やけに自信たっぷりに言われた。そう言われると俺も真面目にやらないと、とやる気が湧いてくる。

 という事で近々レイルハット魔術学院に入学する事になるようだった。

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