【本編前】夏休み初日の彼ら。





「……」


「…………」


「………………」


「……………………」



「ね、ねえねえ! 気分転換にプールでも行かない?」


「行かない」


「プライベートプールですよ? どこか貸切にしてもいいですし」


「行かない」


「勉強するにしても、せめてもっと環境のいいところに移動しようよ。うちでも他でもいいから。冷房も入れないって言うし……」


「断る。文明の利器に頼りすぎると軟弱になるし」


「軟弱って……」


「じゃあ、おやつは……? 今日、オペラ……」


「食べな、――あとで食べる」


「なんでレンリにだけ若干甘い返答なんですか」


「あんたらの提案よりはマシっていうか、食べないって言ってもどうせ3時のおやつに回るだけだから自分で言っただけ」


「確かにそうですけど。お菓子の差し入れはいつものことですし」


「わかったら邪魔するな。黙っていられないなら出てけ」


「せっかく遊びに来た幼馴染に冷たくないかな?」


「通常運転だと思うけど。そんなに出ていきたいなら締め出してやろうか」


「えっ! だ、黙ってるから追い出さないでー!」


「なんでそこでユズが焦るわけ。邪魔する宣言なの? 追い出されたいの?」


「いや違うよ!?」


「っつーか本当邪魔しないで欲しいんだけど。こっちの都合も聞かずに押しかけてきて邪魔するとかなんなの。縁切られたいの?」


「一足飛びに縁切りまで行きますか!? ……夏休み開始に浮かれて遊びに来るくらい許してくださいよ」


「初日から勉強時間決めて宿題やってるとか思わなかったんだもん……」


「毎日コツコツやる凡人代表に喧嘩売ってるの? あんたたちみたいな最終日間際に周り巻き込んでどうにかするダメっ子or最終日だけで終わらせられる系無駄にハイスペック人間と一緒にしないでくれる。っていうかそもそもあんたたちのところ宿題とかあるの?」


「なんかすごく悪意と含みを感じるんだけど。成績によるけど、僕たちには宿題はないね」


「滅びろ金と権力持ち」


「即座にその結論に達するのもどうなんですか。別に特権振りかざしてのことじゃないですよ。もともとあの学校はそうなんです」


「よっぽど成績やばいとかじゃなければ長期休暇に宿題はないんだよ! 楽だよね!」


「じゃあなんでユズにはないわけ?」


「その発言オレに対してすごいひどいよね!?」


「こう見えてユズ、成績不良ではないんですよ」


「実技系はむしろ良い方だよね。頭使わない方が相性いいから」


「えへへー……あれ? 『こう見えて』?」


「ユズは本当学習しないよね」


「そんな哀れんだ目で見ないで! ……え、何レンリ。慰めてくれるの? ありがとー!」


「同い年の男に頭撫でられて慰められちゃうのもどうかと思うけど」


「まあ、ユズとレンリですからね……」


「天然同士相通ずるものがあるんだよ、きっと」

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