【季節ネタ】トリック・オア・トリート! 2人目




「こんばんは。早速ですが、Trick or Treat?」


「こんばんは、ミスミ。もちろんお菓子をご馳走します。ってことでほら」


「パンプキンパイですか。美味しそうですね」


「素人が普通に作っただけの品だけど。まあわかってて来てんだからいいか」


「ええ。では遠慮なくいただきます。……そういえばついさっきユズが『悔しいけどおいしい! でも悔しいー!』とか言いながら走っていくの見たんですけど、何したんです?」


「何してんのユズ恥ずかしいホント恥ずかしい。そもそもなんで走って帰ってるの。あんたもだけどユズも車で来てなかったっけ」


「だから後ろからユズの家の車が追いかけてましたよ」


「捕まえて乗せてから騒がせてやればいいのに……」


「あれが愛情なんでしょう。多分」


「ヤな愛情だな。まあ関係ないからいいけど。……しかしお前年々衣装がグレードアップしてない?」


「そりゃ、成長してるので」


「いやそういう意味でなく……それもあるけど。だんだん凝ってきてるよね。モチーフは同じだけど」


「似合います?」


「似合う似合う。可能な限り近付いてほしくないくらい似合ってる」


「……それ、褒めてるんですか?」


「褒めてるよ一応」


「一応ですか……」


「そういえば毎年吸血鬼なのは何で? 好きなの?」


「確かに好きと言えば好きですけど。貴方が言ったからですよ」


「……言った? 何を?」


「初めてハロウィンの仮装やったときに、『似合うね』って」


「……それだけで?」


「それだけとは何ですか。似合うと言われたら嬉しいでしょう普通」


「いや、吸血鬼のコスプレが似合うって言われて喜ぶのもどうかと思うけど」


「コスプレじゃなくて仮装ですよ。魔に扮することで魔から逃れるんです」


「あー、そういえばそういう謂われだったね。でももう年齢的にアウトじゃない?」


「ここ本場じゃありませんし」


「……あっそう。やめる気ないわけね」


「もう恒例になってますし。やめるなんて言ったらユズ辺りがごねますよ。それに楽しいですし」


「楽しいのこれ」


「楽しいですよ。貴方も諦めて相手するようになってくれましたし」


「そりゃ、無視しても無視しても『Trick or Treat?』って言われ続ければ相手してお菓子あげる方が得策だって思うっての。イタズラも無駄に凝ってくだらないのばっかりだったし」


「私たちなりに考えたんですけどねぇ」


「ちなみに今年の仕込みはなんだったの?」


「これです」


「……何これ」


「いわゆる血袋というやつですね。これを口に仕込んでいきなり吐血してみようかと」


「……それイタズラって言うの?」


「びっくりしません?」


「まあびっくりはするだろうけどさ……」


「限りなく血に似せてますけど染みにもならないし成分的には栄養剤なんですよ」


「なんでそんな無駄なオプション付いてるの」


「だって絶対飲み込みますし。服にも付きますし。うっかりすると床にも落ちますし」


「……うん、そうだね」


「なんですかその反応」


「なんかもう面倒になった」


「相変わらずストレートに言いますね。ユズ辺りだったら泣きますよ?」


「さすがに泣きはしないと思うんだけど。凹むかもしれないけどそれはいつものことだし」


「というか私も傷つきます」


「ソウデスカ。それは悪かった」


「……。とりあえず次が詰まってるみたいなんで帰ります……」


「うんそうして。……あ、そのパイ、切り分けるとき気をつけて」


「……? 崩れやすいとかですか」


「いやそれは多分大丈夫だけど。中がね、ちょっと」


「生焼け……ではないですよね?」


「それは保障しない」


「え。……いやそれでも食べますけど」


「嘘だよ。焼き具合は計ったし大丈夫。……っていうかそれ一人で食べる気? ホールだけど」


「だってせっかく貴方の手作りなのにもったいないじゃないですか」


「その精神がわからん。まあいいけど。どうせあんた太らない体質だしね」


「大事に食べさせてもらいます。それでは」


「……。うーん、仕掛け、うまくいくかな。試作品では切ったらちゃんとソース出てきたけど、そもそも血に見えるだろうか。あとパンプキンとベリーソースって食べ合わせ的にどうなんだ? イける気がしたけどミスミって舌肥えてるしなー。まあいいや、不発だったらそれはそれで」

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