それは大事だからこそ



「――社が、あなたのところに行ったと聞きました」


「うん、昨日ね。なんでそんな怖い顔してるのミスミ」


「何もされませんでしたか?」


「自分の弟にどんな心配してるわけ。別に何もないよ」


「保護って名目で攫って監禁くらいはやるかと思ってたよ」


「他人様の家の子つかまえて何言ってんのカンナ。っつーかそれに関しては自分の胸に手を当てて猛省しろ」


「実際したことはないよ?」


「あったら流石に縁切ってるっての」


「でも、社くんがオレたちをよく思ってなくて、できるなら縁切らせようとしてるのは確かだよね?」


「その認識はあったの、ユズ。ちょっとびっくりした」


「オレどれだけ鈍いと思われてるの!?」


「普段の言動を振り返って考えてみれば? 別にあんたらと付き合い続けてるのは私の選択の結果だからその辺はどうでもいいんだけど。……そういえばレンリは?」


「親戚が来てるとかで遅れるって連絡があったよ」


「……ああ、なるほど」


「その反応……もしかしてレンリのところからも接触ありました?」


「まあ、一応。レンリに会いに来たらしかったけどもう帰ってたから、ついでにちょっと話しただけだよ」


「……それ、知らなかったんだけど?」


「そこまで把握されるのもごめんなんだけど。あの時はまだ監視緩かったし、あの人そういうわけわかんないところあるから。まあ流しといて」


「監視なんて、穏やかじゃない言い方ですね」


「実際今の現状はそんなものだと思うんだけど。仕方ないことだとしてもこっちだって気詰まりなんだよ。何が悲しくて一般庶民にボディーガードとかつけられちゃってる現実を許容しなきゃいけないわけ」


「そんなこと言われても、君の安全のためだから」


「安全が危ぶまれる現状がどうなのって言ってんだけど。あんたら関係じゃ今更とはいえ」


「そ、それは悪いなーって思ってるけど! だってオレたちだけじゃどうしようもないし!」


「だからこっちも百歩譲って許容してやってんだけど? でもまあ、ある程度炙り出しはできてきたらしいからいいよ」


「……君を、囮みたいに使うのは、今も反対なんだよ?」


「そう言ってても、あっちが仕掛けてくるの待つだけじゃ『彼女』に危害加わる危険性が増えるだけだろって何度言ったと思ってんの? その頭に脳みそ詰まってる? 記憶領域仕事してる?」


「あなたの言い分もわかりますけど、私たちにとって、あなただって大切な人だというのはわかってください。大切な人をむざむざ危機にさらすような真似はできるだけしたくないんですよ」


「そういう恥ずかしいセリフはわざわざ口に出さなくてよろしい。ほっとくわけにもいかない問題なんだからそれくらい我慢しろ」


「だから我慢してるじゃん! でもやっぱり心配なんだよー!!」


「駄々っ子か。癇癪起こすなユズ」


「起こしてないもん……」


「その図体で『もん』とか言うなうっかり叩きたくなるから。拗ねた顔しても計画変更はしないっての」


「でも、何か異変があったらすぐに言ってよ?」


「言わなくてもあんたのとこのボディーガードさんたちから報告行くと思うけど」


「念のため、だよ。当事者じゃないと気づかない異変がないとも限らないし」


「……。ま、心に留めておくよ。確約はしないけど」


「こういうときくらい素直に頷いてくれてもいいんじゃないかな」


「お望みなら言い直すけど?」


「本心からじゃないなら意味ないからしなくていいよ……」


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