彼女と彼の幕間・3
夕暮れ時、密会事案。(みっちゃん編)
「思ってたより早く『次』が来たね?」
「……来ないで欲しかったですけどね」
「まあこればっかりはねー。せめて流血沙汰にならなかったことを喜んでおけばいいんじゃない? 問答無用で連れ戻されてたでしょ妹ちゃん」
「否定はしません。――ところでそういう言い方するってことは言わないでおいてくれるんですか」
「うん、まあね。だって妹ちゃん、連れ戻されたくないでしょ」
「そうですけど、あなたは奏兄さんには伝えると思ってました」
「俺がここにいるのは一応妹ちゃんとの取引が前提だからさ。ある程度融通はきかせるって」
「その判断基準が私にはわからないので」
「俺は楽しいことが好きだよ?」
「……『そう』思っておけばいいと?」
「妹ちゃんも、その周辺の幼馴染くんたちも、それ以外の人たちも。すごーくすごく面白いからね」
「そうですか。――ありがとうございます」
「お礼を言われるところじゃないと思うけど?」
「自己満足ですよ。流しておいてください」
「妹ちゃんがそう言うならいいよー。じゃあとりあえず足出して」
「……」
「そんな顔してもダーメ。俺に隠せると思った?」
「見逃してくれるとは思いました」
「別に俺に強がらなくてもいいと思うんだけどなー、立ち位置的に。それに悪化したら困るの妹ちゃんでしょ。どこで、なんで、って聞かれて誤魔化せる?」
「誤魔化せます」
「だろうねー。でも何があるにしろ障害は少ないほうがいいでしょ。いらない意地張らないで足出して?」
「…………」
「妹ちゃんは無理矢理がお好みなの? だったらおあつらえ向きにベッドがあるから押し倒して縛り付けてやってあげてもいいよ?」
「そういうのをさらっと口にするのやめてください。誤解を生む言い回しもやめてください」
「それは俺のアイデンティティだから仕方ないね。我慢して?」
「そんなアイデンティティはさっさと打ち捨ててください」
「妹ちゃんがその気にさせてくれたら考えようかなー。さて、ちゃっちゃとやっちゃおうか。完璧に周りに気づかれないように処置してあげる」
「……よろしくお願いします」
「そんな『不本意だ』って顔しないでほしいなー。俺傷ついちゃうなー」
「たまには軽口を吐かない努力をしてみませんか」
「それは桂がいきなりトリップしなくなるくらい難しいかなー。もしくは奏が妹ちゃんへの過保護をやめるくらい」
「…………」
「ね、無理でしょ? というわけで諦めてね」
「無駄口叩いてるわりに手際いいですね。才能の無駄遣いですね」
「そんなに褒めないでよー。照れちゃう」
「成人男性が頬を染めても気持ち悪いだけなので過剰な反応やめてくれます?」
「もー妹ちゃん冷たいー。――はい、終了ー。明日まではきっちりテーピングしておいた方がいいから、夜行くね」
「……は?」
「お風呂の時は包帯外さないとだからねぇ。巻き直してあげる。深くんはラボにお泊りだそうだからあれこれ勘繰られる心配はないよ?」
「なんでそれ知って――、いやそういう問題じゃなくて」
「俺紳士だから怪我してる女の子に手は出さないし。大丈夫だいじょーぶ、変なことしないって。心配だったら俺がお邪魔してる間、奏に電話繋いでてもいいけど」
「別にそういう方面での心配はしてませんけど……。わかりました。背に腹は変えられませんしね」
「そういうところ妹ちゃん割り切り上手だよねー。だから好きだよ」
「ヘリウムガスより軽い『好き』を安売りするのそろそろやめたらどうですか」
「鉛みたいに重い『好き』でも妹ちゃんが受け取ってくれるならいいよ?」
「そのままでどうぞ」
「そこで即答する妹ちゃんが好きだなー。そろそろ大好きにレベルアップしてもいいくらい」
「私はそう切り返すあなたが嫌いですよ本当に」
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