月長石の瞳

山波

第1話

 見事なコントラストを生み出す光の芸術。どこまでも透き通っていて、透過してきた光に目を細める。宝石のようなその玉は僕を見据えて微笑っているかのようだ。

 その輪郭は見事なまでの正対比。けれど、その心は歪で。まるで、僕の深層領域までをも侵していくかのように魅力的な魔性で満ちている。

 人の心を奪うのに本来ならば、小細工なんて必要ない。そこには、大きなまでの絶対的なルールがあるからだ。美しさと醜さ。それは相反するようで、綺麗なまでの類似性を持っているのだから。

 だけど、そんなのは関係なく。ルールのないもの。それを人は恋と呼ぶのかもしれない。


 僕はただ、目の前の月長石ムーンストーンのような瞳をした、彼女を見てそう思った。


 血に塗れた刀を手に、彼女は妖艶に微笑む。

 背中の毛がそば立つほど。心臓を鷲掴みされたかのように、彼女の瞳を捉えて離さない。


「今夜はいい日ね、金峰永宗くん?」


 なぜ、僕の名前を知っているのか。そんな事を思うのは野暮だ。僕も自然と彼女の名前を口にする。けれど、彼女は僕の知る姿とはかけ離れていた。だから、その名を口にすることはとても、勇気のいることだった。


「美月蘭花……さん?」


 僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女の口は弧を描いた。




 これは、僕の物語じゃない。彼女、美月蘭花の物語だ。僕は横に立つ資格すらない。--彼女たち--月長石ムーンストーンの瞳の戦乙女足る美月蘭花に見惚れる、一人の男に過ぎないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月長石の瞳 山波 @yamanami00paradise

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ