第29話 大団円に向かって…

 トモの声が聞こえてきた。

 「ユタカ、ここに居たのか。お前を捜してる人がいるぞ」

 「誰?」

 「あそこの赤のドレスを着てる奴」

 「…ドレスって女?」

 指差された方を見ると、ユタカは驚いた。

 「何でここに…。ボス、私ではなくサトルの間違いでは?」

 「お前だとさ。さっさと行け」

 うへぇー…と呟きながら、ユタカは赤いドレスを着てる女性の方へ向かった。


 「トモ、話がある」

 「フィルか。手短にお願いしたい。私は腹が減ってるんだ」

 まだ食べてないのか…と、思いながらフィルは言った。

 「私はドイツを卒業した。王子の会社では雇ってくれそうもない。クリニックで雇って欲しい」

 「フィル。クリニックでは、ユタカの会社とリンクしている」

 「分かってる」

 「それに3人居るんだ。あと3人増えるし…」

 「トモ…」

 「シンガポールから出る気か?」

 「だって…、もう、あそこに私は必要ない」

 「必要されないと、お前はダメなのか?」

 え…。

 「お前、私に言ってきただろう。『 コンピューターで世界を知りたい。』と。今は違うのか?」

 「あの頃は、そう思ってた」

 「なるほど。欲が出て来たって事か」

 待ってろ、と言い残して、トモはどこかへ行った。

 少し待ってると、トモは片手に数種類のケーキが入ってるトレイを持ち、もう片手には誰かを引きずって来た。


 あ、さっき1人でバイオリンを弾いていた人だ。

 それに、王子も一緒だ。

 そのバイオリンを弾いてた人が話し出した。

 「で、さっきスーザンと話していたのが、この人を日本に、という事か?」

 トモが応じてる。

 「候補だ」

 「なる。候補ね」

 王子が言ってくる。

 「欲が出るのは良いんだが、結局6人になるんだよな。増えすぎ…」

 「私は2人でやってるんだ。日本にも要らない」


 その人が言ってきた。

 「私はサトル。日本でコンピュータをしている。恋人と一緒にしてるんだ。君は?」

 え、私?

 「フィルです。シンガポールでコンピュータをしてます」

 サトルという人が聞いてくる。

 「シンガポールで仕事をしたい?」

 「別に、どこでも…」

 「場所は、どこでも良い。仕事はコンピュータが良い?」

 「…はい」

 その人は、後ろを向いて誰かに声を掛けてる。

 「スーザン、来て!」

 「なによー、まったくもぅ…」と、ぶつぶつ言いながら、スーザンと呼ばれた赤のドレスを着た美女が、こっちに向かって来た。

 「スーザン。アジア圏内に、もう1ヶ所どう?」

 「場所位は聞いてあげるわよ。で、どこ?」

 「シンガポール」

 「あのね、サトル。私の話を聞いてた?私は欧州だと言ったのよ。欧州だと!

 ユタカがイタリアへ戻ればベリグッドなの」

 王子が、それに応じてる。

 「スーザン。私は戻る気はないと言ってるでしょ」


 話しが見えないフィルは、戸惑っている。

 「あ…、あの?」

 すると、王子が言ってきた。

 「フィル。お前やっぱり帰郷しろ」

 「え、なんで?」

 すると、王子はスーザンと呼んでる女性に向かって言いだした。

 「スーザン。彼はシンガポールで働いてるが、フランス人だ」

 「え…」

 「それに、私がコンピュータを教えたんだ」


 スーザンは、フィルを興味深々とした目で、じっ…と見つめてくる。

 ユタカは呟くように言ってる。

 「それに、私の所には3人か4人で良いんだ。フランス国籍は2人だったか…。

 彼等も帰郷させて、フィルと3人でフランスで開拓すれば良い。

 そうすれば一石三鳥だ」


 すると、トモが声を掛けてくる。

 「そうだな、フィルを含め彼等にとっても自国でコンピュータの仕事が出来る。

 スーザンにとっても、希望してる欧州にコンピュータ会社が出来る。

 ユタカの所も2人減って4人になる。一石三鳥だ。それに、フランスと同盟リンクを掛けると、色々と良いだろう」


 サトルが口を挟んでくる。

 「それ良いね。日本とも同盟結んでくれれば嬉しいな。ユタカ、そうすれば?」

 「……」

 ユタカは無言のままサトルを睨んでる。

 なにか、自分にとって嫌な気配がしてならないのだ。


 話しが勝手に進められていく。

 トモは、先ほどの女性と話をしている。

 「サトル、トモと話を付けたから。今度は、あなたの番よ」

 「へ?」


 トモとユタカがサトルを「行ってらっしゃい」と背を押して送り出してくれた。

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