第25話 ドン&シンガポールマフィア

 今度は、シンガポールマフィアのドンに捉まった。

 「久しぶりだな。フィルに使いをさせていたのだが…。まさか、こうなるとはね」

 「ご無沙汰しております。私は、ただ興味がないだけです」


 ふっ…と、鼻で笑ったドンは、側にいるニックを指さして言ってきた。

 「そうは言っても、ニックは居るし、シェフにも1人居る。彼らの事は知らないのかな?」

 「シェフの事は知りませんでした。ニックの事は、あの時に知って驚きましたが…。あの頃は、ニックは私の上司でしたから」


 トモは、ニックの方を振り向いて聞く。

 「ねえ、ニック。シンガポールに戻りたい?」

 ニックの返事は、即答だった。

 「いや、戻らない。私は、ここに居たいんだ。さっきドンにも聞かれたが、私の目標はマイナス20キロなんだ」

 思わずシンガポール・ドンが口を挟んだ。

 「20?…この半年ほどで、そんなにも太ったのか?」

 「ドン。ここは食事が美味しんですよ。それに、正確に言いますとプラス34です。

 だからこその、マイナス20なんです」


 トモは溜息を吐いていた。

 「…ダイエット食でも考えるか」

 同じく溜息を吐いたシンガポール・ドンは、こう返した。

 「ニック…。マイナス30を目標にしろ」


 すると、声を掛けられた。

 「ニック、お前は太り過ぎだ。家で木登りでもするんだな」

 「レイ。お前も付き合ってもらうぞ」

 レイは即答だった。

 「断る。それに恋人が居れば、太らない筈だが。好きな奴は居ないのか?」

 「レイ!自分は恋人と一緒に住んでるからと言って…」

 そう言いながら掴みかかろうとしてくるニックを軽くかわし、レイはトモに振り向き言ってきた。

 「トモ。私がオファーを掛けた中で、君が一番出世した。今の気分はどうだ?」

 トモは即答した。

 「ミスター。私の気分は、いつも同じですよ。ただ、今はお腹が空いた。それだけです。実際に、食べ物ブースに行こうとしてたのだから、その途中です」


 レイは、しつこく言ってくる。

 「トモ」

 トモは、そのミスターを遮る。

 「ミスター。私はエドワードにも言ったが、自分は煽てられて、それに乗っかるお飾りの人間ではないです。なったからには、やりきります。ただ、私が受けた苦しみや痛みは、誰にも分からない。また…、誰にも言いたくはない。

 だけど、私には仲間がいる。

 ニックもそうだけど、ユタカやカズキに、ワンもそうであるように。

 本来は、雲の上の人となる位置に属するだろう人も、私の側に居る。

 エドワード・ジョンソンに、ドクター・ヒロト。

 『ドン』という名称になっても、私の日々の生活は今まで通りだと思ってます。

 何も、変わることは無い。

 ミスター。あの頃、私に言ってくれてましたよね。

『君は、リーダーの素質があるね。誰かに指示を出して動かそうという気はないかい?』と。その時、私が、あなたに返した言葉を、覚えてらっしゃいますか?」


 ミスターは頷いてくれたので、トモは続けて言った。

 「その大学時代に動いてた連中が、もう一度私の側に来た。

 皆、昔とは違い、立ち位置も仕事も違う。メンバーも数人ほど違うが…。

 私は、彼らをこき使います。私に、こき使われて動く事を好む人も居れば、私に文句を言いながらでも動いてくれる人も居る。それに、私を甘えさせてくれる人も居る。私は彼等に感謝してるが、同時に誇りも持っています」


 ミスターは、ポツリと言った。

 「君は…、とんでもない王様だな。

 アメとムチを使い分けてる俺様なボス、いや、俺様なドンだな…」

 トモは、にっこりと微笑んで言い切った。

 「俺様、と言って頂けると嬉しいです」


 ミスターは、口調を変えて言ってきた。

 「私は、シンガポールを辞めて、ここに戻って来たんだ。ミスター呼びは辞めて貰おう」

 「なんて呼べば良いですか?」

 「そうだな…。ミドルのレイか…、ラストのコウ。どちらかで」

 そう言われて、トモはこう返した。

 「分かりました。それでは、ミスター・コウ。改めて、今後ともよろしくお願い致します」


 レイは、溜息を吐いた。

 ふぅ…。ミスター呼びは辞めろ、と言ったのに…。どうしてもミスターを付けたがるんだな…。

 と、ミスター…もとい、レイは呟いている。


 「あっ、ここに居た。ボス…、ああ違った。ドン、時間ですよ」

 「ん?カズキか。時間って?」

 「音楽の時間だよ」

 「えっ、そんな時間なのか。でも、何か食べてから…」

 「ダメです」

 「えー…。まだ何も食ってないのに…」


 トモは、カズキに引きずられる様にして連れて行かれた。

 

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