第13話 爆死

 マルクが戻ってこないのを不思議に思った諒一は、まだジェットで言い争ってるのかなと思い、翌日の便で日本に戻る決心をした。

 「お爺様。明日の便で、日本に帰ろうと思います」

 「そうか。達者でおれよ」

 「ありがとうございます。恐らく、もう来ないと思います。なにしろ、私も年を取ったので、お爺様と会うのは今日が最後になるかと思います」


 その時、音がした。

 ドンッ!


 音は続いて聞こえてくる。

 ドンッ、ドンッ! ドドンッ!!


 「ん?あれは、花火の音ですか?こんな時間に…」

 「花火?もう正月は過ぎてるし、大体今は朝…」

 「何の音でしょうかね?」


 なにやらザワザワと騒がしい。

 パイロットリーダーが、こっちに来る。

 「御。御寛ぎのところ、申し訳ありません」

 リーダーの顔が青褪めている。

 「何があった?ジェットが爆発したのか?」

 「いえ、ジェットよりドーベルマンが放し飼い状態になっております。

 どうやら人肉を欲しているようで、パイロットやリペアマンが何人も犠牲に…」


 なっ!?


パイロットリーダーの言葉に驚き声が出ない『御』と諒一に、フランツの慌てふためいた声が聞こえてくる。

 「御、大変です。マルク様が」

 「フランツ、どうした?」

 「マルク様が…、これを…、マルク様が…」


 フランツが持ってる物を見ると、御はフランツに聞いた。

 「ドーベルマンか?」

 「おそらくダイナマイトかと…。ダイナマイト特融の臭いが、奥の格納庫の方に…。それに、焦げた肉の塊も散らばってます」

 「なるほど…。あいつは外だけでなく、内でも敵が多いからな」

 「ドーベルマンの方は、どうしましょう?」

 御は、即答で返した。

 「ドーベルマンは、もう良い。あいつらにアレを与えてやってくれ」

 「全滅させるのですか?」

 「エドが来た」

 「え?」

 「自分の屋敷に残ってるのを迎えに来た、と言ってな。5匹共エドに甘えていたよ」

 「御…」

 「フランツ、全滅ではないよ。5匹はパースに行った。ここに残ってる彼等に、今までよく頑張ったと言ってやりたい。アレを、彼等に与えてやってくれないか。方法は任す」

 「分かりました」


 そして、御はパイロットリーダーにも言った。

 「リーダー。主のいないジェットは直さなくても良い」

 「畏まりました」


 諒一は声に出していた。

 「お爺様。それでは、先ほどの音は…」

 「諒一。あの音は花火だよ。マルクが打ち上げた花火だ」


 諒一の目には、涙が溢れていた。

 自分にも欲はあった。いつかは、お爺様の跡を継いで、『御』になる、という欲が。でも70歳を過ぎると飛行機事故で亡くなるかもしれない、という気持ちが出てきたのだ、そうなると、日本から出ようという気は失せるのだ。


 「マルク…」

 諒一は泣いていた。

 昔、まだドイツに居た頃の自分に、マルクは優しく色々と教えてくれた。

 そんなにも年齢が離れていないので、叔父と甥という関係ではなく、兄弟感覚でいたものだ。


 その様子を、御は見ていた。

 「諒一。マルクの為に涙を流してくれるのか。ありがとう」

 「だって…、こんな…、こんなのは嫌です」


 ふっ、ぅ…。

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