act4 次元の虹

act4 プロローグ

 電子的な灯りに彩られたその部屋へ轟音と激しい揺れの直後に外光の眩い光が注がれた。

 雨など降っていないのに、巻き上がった多量の水がアルトリウスの傍らに立つイフリートの熱によって超高温で蒸発し、陽光に照らされそこに純白の虹が掛かる。


 幻想的と言ってもいいその景色に映った人物に、キミィは驚きを隠さずに言う。

「アルス……⁉ この力は……⁉ 」

 戸惑うそのキミィを落ち着かせる様に、アレクはモニター越しに冷静な観測を口にする。

「……人造精霊だね……恐らく、アポトウシスに亡命したホーエンハイムが完成させたんだろう……キミィ、クラリス……‼ 」


 アレクの言葉に共鳴するが如く、ローブに身を纏った水色の髪の美しい女性が既に戦闘態勢に入っていた――が、その眼前にキミィの逞しい腕が立ちはだかる。


「……何の真似だ? 勇者……」

 その女性の声には殺気にも似た感情が混じっている。


「……ここは俺に、任せてくれ……君は、アレクとシオンを……頼む……」

 二者の視線が間の空間を歪ませる程激しくぶつかる。が、やがてクラリスはその長いローブを翻し、端末に記録媒体を差し込み、キーボードに素早くプログラムを打ち込んだ。

「き、キミィ様……」心配そうに近付くシオンの髪に指を絡めるとキミィは優しく笑った。


「大丈夫だ、シオン……

 ようやっと見つけた、君の願いの手掛かり……

 必ず、連れていくよ。それまで……俺はもう迷わない……‼ 」


 その言葉が終る頃に、丁度データの移行も終わり記録媒体を抜き取ると、クラリスはシオンの手を引く。

「シオン……行くよ」

 それに引かれながら、シオンは一度だけ振り向いた。

「キミィ様……ご武運を……‼ 」


 その言葉を背中で受け、キミィは愛刀を鞘から抜く。

「アルス……」

 皆まで言うなと、アルトリウスは右手を前に出す。

「そうです……貴方を越える為……いや、最早そんな些細な事はどうでもいいのです。

 自分の信ずる正義を執行する為。

 必要不可欠な能力を手にした。それだけです。

 そんな事よりも、キミィさん。

 貴方ですよ。

 アレク・クラウンが姿を一切見せないという噂は聞いていましたが、まさかこの様な怖ろしい計画を企てていたとは……

 そして、貴方とあの淫魔の小娘が、更にその計画の一端を担うとは……

 勇者、その称号は、一体何だったのか……」


 危機を感じたキミィは素早く構えに入った。

 途端、その背に過去一度味わったその大きさの殺気が襲う。キミィを以てして、双眸の瞳孔が開き、筋肉が緊張で硬直した。


「もう……迷いは、無い。

 もう……僕達の間に雨は……二度と降らない」


 まるで、静かに語るその言葉は。

 嵐の前のそれなのだ。


「キミィ・ハンドレット‼

 今、貴様を――殺す‼ 」


 アルトリウスの激昂が遠く離れたシオン達の元まで響いた。

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