幼児化の呪いにかかった姉と女体化の呪いにかかった弟が旅に出ます

プル・メープル

第1話 呪いにかかった姉と弟

今日も朝が来る。


陽気に足元を温められる。


こんなに気持ちのいい朝は

いつぶりだろうか。


僕はいつものように寝ている姉を起こさぬようにそっと支度をする。


僕の名前はルー


自慢ではないが最弱の剣士と呼ばれている。


はじめの方は嫌だったが今じゃもう開き直ってしまって気にしていない。


僕の朝はいつも朝食作りから始まる。


母さんも父さんも第6次魔境侵攻で亡くなったらしい。


僕は小さい頃の記憶がないから覚えてないけど・・・


いつものように目玉焼きとトーストを焼いて目玉焼きにはコショウを少々、トーストにはチョコレートシロップをかけて準備完了。


その直後にドアが開く。


僕の姉のリールだ。


「姉さん、おはよう」


「ふわぁ〜、ん、おは」


いつものようにあくびと軽い挨拶を済ませたら姉は席につく……


と思いきやソファーに寝転んでまた寝息を立て始めた。


「姉さん、冷めちゃうよ?」


「今いくからぁ〜Zzz」


「ねーなーい!」


「わかったよ」


渋々と言った感じで

リールはやっと席につく。


「姉さん、早くしないと遅刻しちゃうよ?」


「ん〜、めんどくさいよぉ」


「姉さんはそれでも最強の枠に入ってるエリートなんだから遅れるわけには行かないよ」


そう、

姉は異世界にいる悪魔が

徐々にこちらにやって来ているのを

防ぐために集められた


『悪魔軍侵攻防衛対策軍事総員派遣団』


のエリートコースで

派遣された中のエリートだ。


いわゆる副団長である。


そんな彼女は戦えば強いのだが……


普段はこの有様で、ぐーたらな生活習慣が身についてしまった。


どこで間違えたのやら……


「ほら、あーん」


椅子に座ってもなおぼーっとする姉の口に


小さくちぎったトーストを近づける。


「あーん」モグモグごっくん


「あーあー」


次をくれと言わんばかりに口を開く姉。


これが僕らの日常だ。


「ほら、あーん」


「あーん」モグモグモグモグモグZzz


「もぉー、寝ないの!」


「はっ!私は今何を?」


「いや、寝てただけですが……」


「何かを超越した気がする……」


何言ってんだか、この人は……


ゴーンゴーンゴーン


時計の音が鳴り響く。


「えっ!もうこんな時間!?

急いで、姉さん!」


「はーーい・・・Zzz」


「歩きながら寝ようとするなぁ!」


「いや、だって歩きながら寝た方が効率がいいじゃん!」


「でも、でもでも!もーいい!

とにかく早くして!」


ダラダラする姉と迫る時間。


焦る弟、迫る時間。


「ゆっくり脱がないで!はやくはやく!」


「準備は昨日のうちにしといてよ!」


「靴下はき忘れてるよ!」


そんなこんなで準備に30分以上かかり遅刻は確定事項。


「急いできたって言うのだけは

アピールしとこ?」


急いでといくら急かしても姉はのんびり。


「あ、悪魔がいるぅ」


「今はどうでもいいよ!」


「あ、悪魔がキャンディを配ってるぅ」


「ただの良い奴だよ!」


「あ、悪魔に人が襲われてるぅ」


「いや、一大事だよ!」


姉が見ている方を見ると

確かに人が襲われている。


「姉さん!助けてあげて!」


「OK!任せとけ!」


先程とは目が違う。


これが我が姉である


戦闘になると目の色を変えて口調まで変わる

まるで人が変わったみたいに……


悪魔へ駆け寄った姉は

背中にさしている剣を引き抜くと同時に

悪魔にスライディングをくらわせる。


体制を崩した瞬間に腹を切りつけた。


悪魔は黒い灰になって消えていく。


「あ、ありがとうございました!」


「良いんだよぉ、無事でよかったねぇ」


姉は戦闘が終わったらいつものダラけモードに戻ります。


「はっ!はやくして!走って!さっきのやる気は今出すべき時だよ!」


姉の背中を押して無理やり走らせる。


だが、体力のない僕はすぐに疲れてしまう。


足が動かなくなってきてなにかにつまづいてコケてしまった。


「イテテテ」ポツン、ポツン


「あ、雨?」ザーザー


「うわっ!いきなり降ってきた!」


「あそこで雨宿りする?」


リールが指さした方には見たことのない館がポツンと立っていた。


だが、考えるひまもなく

僕らは走り出していた。


コンコン「誰かいませんか?」


返事がない。


そっとドアノブをひねってみると


「開いてる」


この状況は刑事ドラマでよく見るタイプだ。


一瞬、殺人事件の予感がしたが

中はガランとしている。


「だれも住んでないのかな?」


いくら呼びかけても返事がない。


ゴトンッ


「な、何!?」


左側の部屋から聞こえた。


恐る恐る覗いてみると……


「誰もいない」


見た感じそこは書斎だった。


本がたくさん置いてあって図書館とも言えるであろうスケールの書斎だ。


中に入ってみると向こうの方で1冊、本が落ちていた。


「さっきの音はきっとあれだよ」


振り返ってみると姉さんがいない!


「あれ?姉さん?どこにいるの?」


あたりを見渡すが姿が見えない。


耳をよく澄ましてみる。


すると後ろの方から物音が聞こえた。


急いで走っていくと1冊だけ離れた場所に置いてある本を姉が触ろうとしている姿が目に入る。


そしてその上には


『触るな』


そう書かれてあった。


たしか前に聞いたことがある。


ポツンと建つ館である本に触ると呪いをかけられる……と。


「姉さん!触っちゃダメだ!」


しかしもう遅かった。


姉さんが本に触れた瞬間、眩しい光にすべてが包まれた。


僕の記憶はそこで一旦途切れた


_________________________________________


「ん、頭がいたい」


いったいどれくらいの時間眠っていたのだろう。


起き上がろうとするといつもと違う感覚がある。


何かが違う。


なにか重りが乗っている感じが……


僕はそっと目線を下ろす。


あれ?


なにかに視界を遮られて足が見えない……


なんだこれ?


なにか、を自分で触ってみる。


すごく変な感覚だ。


自分のモノのような感覚。


少しめまいがするが立ち上がってみる。


あれ?なんだか視界が下がった気がする。


腰を伸ばしても変わらない。


色々とおかしい……


「はっ!姉さんは?」


ぱっと右を見て左を見る。


すると視界に倒れた人が映る。


「よかった、姉さん!って、え?」


そこに居たのは姉さんではなく幼児化した姉さんだった。


それは確かに姉さんだ。


ちいさい頃の記憶はないけれどなぜか姉さんだと感じた。


「ね、姉さん、どうしたの?」


「ん?ん〜、おはよ・・・って誰?」


「え?僕だよ、僕、ルーだよ!」


「ルーってあなた、女にみえるんだけど?」


そう言われて自分の体をもう一度見る。


胸が……でかい!


僕は慌てて股間を触る。


「な、無い!」


やばい!本当に女の子になってる!


「本当にルーなの?」


「うん!本当だよ、信じて!」


「信じるも何も私がこうなってる以上、信じるしかないわよ」


「何でこんなことに・・・」


考えられる原因は一つだけ。


「姉さんが本を触ったからだよ!」


触ってこうなったならもう一度触れば!


っと思ったが変化ナシ。


本の題名は『悪魔の契約』


つまりこの呪いは悪魔のものだろう。


「ど、どうすれば良いんだ・・・」


「じゃあ、悪魔を倒せばいいんじゃない?」


「へ?」


「呪いをかけた悪魔を倒せば呪いは解けるはずよ!」


「そうなの?」


「そうなの!」


「じゃ、じゃあ倒しに行こう!

でも、僕戦えない・・・」


「大丈夫よ、お姉ちゃんが倒してあげるから」


小さくなった体でめいいっぱい胸を張って言い切る姉。


小さくとも安心感は絶大だ。


これが姉の力か……


だが、期待は大ハズレ。


姉は剣すら持ち上げられないほど弱体化されていました。

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