第15話ルイ編(5)
「嫌です。絶対に嫌です。ものすごく嫌です。」
僕は、柏木先生の言葉をかき消すように全力で拒否した。
「とりあえず理由を聞いてくれ。こんなこと頼める奴が江崎しか浮かばないんだよ。頼む。」
「いやいや理由なんて聞かなくていいですよ。僕は嫌です。とにかく柏木先生は、もう帰って下さい。」
どんな理由だろうと、女になんかなれるわけがない。
こっちはあの事件のことで悩んでいるのに、よくそんなことが言えるのかと正直、かなりむかついたのだ。
そんなやりとりの中、紙袋の音がカサカサと聞こえてくるので目をやると、すでに母さんがソファーとローテーブルに服や化粧道具を並べ始めていた。
「留斗、ここに座りなさい。」
間違いなくあの顔は楽しいんでいるとしか言えない気持ちを必死でこらえている母さんの顔だ。
「これは人助けですよ。本来なら母さんが恋人役になろうかと考えたけれどここは、留斗に譲ります。」
人助け?
恋人役?
余りにも唐突で意味が分からない。
母さんの立場なら全力で柏木先生に拒否するのが、普通なのに。
普通?
普通の親?
そうだ、この家族にそんなものはないことを僕は知っていたのに油断してしまっていた。
今、逃げたら家族総動員で捕まえられるのは目に見えている。
「とにかく話を聞くから。本当に聞くだけだからね。」
頭の中ではどう逃げ切るか、必死で僕の脳みそは作動しているようだった。
「実は、縁談の話が来たんだ。」
「僕には関係ないです。」
「それがあるんだよ。おおいに関係が。」
なんで柏木先生の縁談と僕が女(女装?)しなければならないのか全然結びつかなかった。
「相手が松川先生なんだよ。」
「はあ?」
なんで今さら、松川先生の名前が出て、それが柏木先生の縁談相手なんだよ。
「そんなの、はっきり断ればいいだけの話だと思います。」
僕の言葉に二人は聞く耳持たずで、すましているのが心底あきれた。
だからといって簡単に「女装します。」と承諾できるわけないのに、この不安は現実になりそうな予感しかない。
君を愛してたなんて言わない 阿木みつる @kemoka1268
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。君を愛してたなんて言わないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます