第13話 ルイ編(3)
女子生徒達の泣き叫ぶ声がことの重大さをはっきりと物語っている。
「美和 いやー起きて 目を覚まして。」
「美和 美和・・・。」
友達もかける言葉がそれ以上分からなくて、体が震えているようだった。
まるで、その光景はガラス越しにみんなが騒いでいるかのように、だんだん僕の頭の中は、かすんでいった。
「留斗、母さんよ。母さんの声が聞こえる?」
何度も同じ言葉が耳元で聞こえてくる。
ぼんやりとした意識が徐々に水のようなもので流されていくのがわかった。
そして、意識がはっきりとした時は、病院のベットだった。
傍には、母さんと、兄さんが目覚めた僕に気づいて慌ててナースコールをどちらともなく押してくれた。
「留斗が大けがをしたって母さん勘違いして、大騒ぎで落ち着くまで大変だったんだぞ。」
「ごめん 僕 あんまり記憶がなくて・・・ 倒れたてこと?」
「美術室で倒れて、頭を強く打ったかもしれないから念のため病院に運ばれたみたいだな。頭、痛むか?」
「特に痛まないけど。」
「まあ、一応、診てもらっておいたほうが後々、安心だから今日は、このまま入院しておけよ。」
兄さんの言葉には安心感がある。
「それにしても先生、遅いわね。ちょっとナースステーションまで聞いてくるわ。」
母さんが病室から出ると、視界が遮られていた窓側の景色が目に飛び込んできた。
倒れたのか・・・僕
もう外は真っ暗で時間を確かめるのにも病室に時計がないのにイラつきを感じた。
今はそんな事を思っている場合ではないのに・・・。
早く、肝心なことを聞かないといけない。
「ねえ、刺された彼女どうなったの。かなり出血してたから大丈夫なの?」
「運ばれるときには意識が回復して命に別条はないみたいだけど、今、この病院で手術中だよ。」
まさか、こんな大事になるなんて思いもよらなかった。
「担任の柏木先生が病院に付き添ってたから、後で留斗の病室にも顔を出すだろうな。」
とにかく今は、根岸さんの手術が無事に終わってくれることを祈るだけだった。
それからすぐに僕は、先生の診察を受けて、特にどこも異常なしとの診断だった。
病院には兄さんが残ってくれることになった。
母さんは、料理教室の仕事があって、兄さんに大丈夫だからと説得されて後ろ髪を引かれるように病室を後にした。
「何か飲み物を買ってこようか?」
「ありがとう。でも今はいらない。」
兄さんが傍にいるだけで今は充分だった。
少し時間が過ぎると病室のドアがノックされた。
「ようイケメン兄弟。元気か?」
相変わらずのテンションで病室に来たのは、柏木先生だった。
「ご無沙汰しています。柏木先生」
僕よりも、すぐに反応したのは兄さんの方だった。
兄さんも柏木先生の高校時代の教え子だった。
その縁もあって僕が入学以来、兄さんの弟だと分かってから柏木先生には可愛がってもらっている。
「あの、根岸さんは・・・・」
僕の問いかけに、柏木先生の表情が曇ったかのように見えた。
「ああ、根岸の手術は無事に終わって、意識も回復している。大丈夫だ。」
兄さんが椅子に座るように促している。
「あのさ、教師の俺がこんなこと言うのも情けないんだが、今回の騒動は、事件じゃなくて、授業中に起きた事故ていうふうに、お偉いさん方達が処理しようとしてるんだ。」
その言葉に愕然とした。
馬乗りになって彫刻刀で刺されていた根岸さんが事故?
そんなはずがない。
クラス全員が目撃しているのに。
柏木先生は、すべてを話してくれた。
松川先生の親族には、付属大学のお偉いさんや、色々な方面に顔がきく権力者がいることや、手術中にも関わらず、待合室で混乱している根岸さんの両親に示談を威圧的に持ち掛けていたことなど、耳を塞ぎたくなるような内容だった。
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